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喫茶店から駆け出てきて、目指すは執務室。
砂漠地帯特有のカラッとした暑さから一転、風影邸に入ると涼しい風が身体を覆った。
すれ違う忍の人たちに、誰だ?みたいな目を向けられるがそんな事御構い無しにズンズンと歩いて、やっと執務室の前まで来た。
「…我愛羅君、いるのかな」
勢いに任せてバーン!と思いっきり入ってやろうかと思ったけど、そこは一旦落ち着いて。
突然入って誰も居なかったら恥ずかしいし。
そーっと、執務室の扉に耳を充て、中に誰かいるかを確認してみる。
「…」
ん〜、と耳をピッタリとくっつけ、中の音に集中してみるも、中から音は聞こえない。
誰も居ないのかな、なんて思いながら、もう入っちゃおうかなと扉のノブに手をかけようとした瞬間、誰かに肩を叩かれた
「!!!!!っ」
「…何をしている」
「、なんだ我愛羅君かあ、びっくりし、………」
って、我愛羅君!!!
なんで、外に行ってたのかよ!
ってことは執務室内は誰も居ないって事?
うわ良かった〜、バーンって入らなくて良かった〜、一人でめちゃくちゃ恥ずかしい思いするところだった〜あっぶね〜
って、言ってる場合じゃない
「…お前は自分の部屋に居るはずだが?」
「あ、あ〜〜、えっと我愛羅君にお話があって来たんだけど」
「話はカンクロウを通せと言ったはずだ」
突然の我愛羅君登場で、言いたい事が頭から飛んでしまってうまく言葉が出ない。
そんな私に見向きもしない感じでカンクロウ君を通せと言いながら執務室へ入っていく。
やっぱりあからさまだなコンチキショウ…!
私の話なんか直接は聞かないってか!
「ちょっと待ってよ、我愛羅君てば!」
我愛羅君を追いかけて私も執務室へ入り、既に机に向かって書類に手を伸ばしている我愛羅君の腕を掴んだ。
「…公務の邪魔だ。出て行け」
「話があるって言ってんの」
「出て行けと言っている」
腕を振り払うこそしないが威圧感増し増しの目で私を睨んでくるので一瞬怯みそうになるが、これはわざとだ、我愛羅はわざとこんな態度を取ってるんだと自分に言い聞かせて無理矢理話を続ける。
「私、この世界の人と親しくしないなんて、納得いかない。ていうか嫌。絶対嫌。超ド級で嫌」
「…カンクロウか」
「そうだよ、カンクロウ君が教えてくれた。我愛羅君がどういう意図でそんな態度取ってるのかも聞いた。私の事考えて、私が帰る事になった時少しでも悲しくないように、今からあまり情が入らないようにって、だから突き放すみたいな態度取ったり、…部屋だって離れた場所にするとか、そんな事するんだって」
「そこまで分かっているなら、大人しく従ってくれ」
腕を掴んだまま、淡々と喋り倒しても表情ひとつ変えない我愛羅君。
そりゃそうだろう、こんな一般人に諭される訳がない。だって風影なんだから。偉くなったもんですねまったく。
でも私が言いたいのはこんな、シリアスでおセンチな事じゃなくて、我愛羅君を諭したい訳じゃない。
私が今、一番、言いたいのは
「ばっかやろーがぁぁああ!!!!」
ばちーん!と我愛羅君の頭を思いっきり、平手打ちしながら大声で叫んだ。
突然頭を叩かれた事に少し驚いている様子だけど、すぐまた元の無表情に戻った我愛羅君にも御構い無しで怒号に似た声を浴びせる。
「なーにが!私の為〜だ!半ば無理矢理に砂隠れに連れてきたくせに!私はねえ、後先考えて今我慢しないといけないとか御免なの!一人静かに元の世界に帰るのを待つなんてヤダ!色んな人にも会いたいし我愛羅君とも仲良くしたいのー!ていうかそもそもそんな風に私を避けても無駄だからね!こっちは今まで通り我愛羅君の事可愛がってやるから覚悟しとけよこの狸やろー!」
畳み掛けるように言いたい事を言って、あースッキリしたと最後に呟きながら我愛羅君を見ると相変わらず無表情で。
ふ、そんな顔しても私は今無敵モード。風影だろうがなんだろうが関係ないね、なんて思いながら自分の部屋へでも戻ろうかと踵を返し振り向くと執務室の扉が開いた。
「おーおー、喧嘩は終わったかよ」
「お、あ、カンクロウ君じゃん」
「お前も一応風影の我愛羅に向かってよくそんな口が聞けるじゃん、怖いもの知らずというかなんというか、」
「え!うっさ!我愛羅君は私にとって可愛い可愛い、…」
「あーうっせえ、我愛羅が可愛いとかそんな事は聞きたくねえじゃん、それより」
執務室に入ってくるなり私に喧嘩を売っているような物言いをしてくるカンクロウ君だけど、用事があるのはどうやら我愛羅君の方みたいで。
私の横をすり抜けて、座っている我愛羅君の方まで行くと何やら話し出した。
「まあ、我愛羅、あいつはお前がとんだけ避けようと向かってくるらしいじゃん。」
「…」
「お前の気持ちも分かるが、俺も気まずい空気は嫌だからよ、名前の好きにさせてやりゃいいんじゃねーの」
あれ、カンクロウ君、もしかしてわざと私に我愛羅君の気持ちを喋ったのか。
それを聞いて私がどういう反応をしてくるか、私にどうしたいか遠回しに選ばせてくれたみたいな、?
え、なんだよ、いい奴かよ、ていうかめちゃくちゃ大人じゃん隈取り野郎のくせに。
あ、私より10以上歳上なんだっけ。
そりゃ大人だわ。
「元の世界にいつ帰るかなんて関係ねえ、ナルトじゃねえが、帰るまでは家族同然で迎えてやりゃいいじゃん。な?」
家族って、
我愛羅君を説得するためとはいえカンクロウ君、優しいなあ。
…私が我愛羅君とくっついたら、カンクロウ君は私の義理の兄、うわあ、なんかおもしろい。
って、くっつくとかそんな、いや、元々はそういう妄想もしてたけどこれは現実だし、今はそういう感じじゃ…
うわああああああ卑猥な妄想が!やめて!今そんな事考えてる場合じゃないからあああ!
「お、落ち着け私」
突然顔を手で覆いながらブツブツ言っている私に不審な顔を向けてくるカンクロウ君は少しため息を吐きながら、じゃあ俺は任務行ってくるじゃんと執務室を出て行った。
「…名前、俺は間違っていたか?」
カンクロウ君が出て行ってすぐ、どこか思い詰めた様な表情をしながら私に声をかけてきた我愛羅君。
いや、我愛羅君の言ってる事は間違ってない。一理あるって感じだし、カンクロウ君に言われた我愛羅君の気持ちは凄くよく分かる。
でも私はただ楽しくありたい。
この非現実的な体験を寂しく過ごさず、みんなと仲良く過ごしたい。
簡単に言えば今が良ければ全て良しだ。
いつか帰る事なんて、そんな事分かってるけど、それをずっと考えてたんじゃ何も出来ない。
帰った時に寂しかった思い出より、夢のように楽しかった思い出があった方が私はいいんだ。と思う。
なんて言っていいのか難しいけど、とりあえず私の考えを我愛羅君に伝えると、思い詰めた様な表情が消え、一瞬フと笑うと、そうか。と言った。
「………我愛羅君の機嫌悪めな無表情も実はなかなか良いなと思ってたけど、笑ってるのはもっと可愛いね、ナイス」
…そんな事はおいといて。
なんとか我愛羅君も分かってくれたみたいだし、とにかく一件落着、かな。