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「…え、あの、どいてくれません?」
この人の名前は何だったか、モモちゃんじゃないし、えっと、何シキだっけ。
顔を洗いに行く途中で目の前にこの、"なんとかシキさん"が立ちはだかって私は前に進めない。
この世界は私の知ってるアニメの世界が軸になっている事に薄々感づいては居たけど、ここでこの人が出てくるということは、やはりアニメーションの方なのね。
というか、見た事ない生き物ってどういう事だよ。私そんな不思議な生き物に見えてますか。
「君のその不思議な生態、とても興味深いですが、今はもう一人に用があるんですよね」
そのもう一人とは我愛羅君の事だろう。腰についている釣り道具みたいなので何かするんでしょ。
我愛羅君はこの人に殺されはしない事は分かってるけど、確か軽く怪我させられていた気がするので、それを回避できないか少し考えてみるも良い案は浮かばない。
下手をすると私がぽっくり逝ってしまう事になりかねないし、結局ここは大人しく我愛羅君のところへ行ってもらうのが良いんだろう。
「…なんか良く分かりませんけど、私はそこの洗面台に用があるので、」
「くく、なかなか肝が座っているようで」
まあ良いです、と、ひらひら手を振りながら私の横を通り過ぎて行く、……あ、思い出したウラシキだ。
音もなく気配が消えたと思い振り返るとウラシキはもういなくて、多分我愛羅君の所に行ってるんだろうと少し気になったけど、とりあえずここに来た本当の目的をこなすために洗面台までいき蛇口をひねった。
パシャと軽快な音を立てて寝起きの顔に冷たい水をかけて重たかった瞼を軽くしていく。
我愛羅君は大丈夫だろうか、駆けつけて行った方が良かったのか、いやでも私が行ってところで何もできないし。
そんな事より、ウラシキは私の事を不思議な生態とかなんとか言っていたけど、やっぱり私は他の人とは違うのか。
「ま、違うよねそりゃ」
私は違う世界から来た異端児。宇宙人的で神様的な存在である大筒木の人に不思議な生態をしているとか言われると余計異端児あることが重くのしかかる。
私は一体なんなのか、そんな事、もう腐る程考えたけど、できれば普通に生活したい。
普通に生活となると、やっぱり元の世界に帰るしかないんだろう。帰れるかなんて知らないけど。
「戻ろ、」
考え事をしながら顔を洗っていたせいで、前髪までびしょびしょになってしまった。
ウラシキが意味深な事言うからだ、なんて今はいない敵に向かって愚痴をこぼしながら、小さいタオルで顔と前髪の水分を取っていると、車両の扉が開く音がした。
「名前……!」
「ん?」
鏡を見ていた顔を、音のした方に向けてみるとそこには片手で胸の辺りを抑えながら何やら神妙な顔をしている我愛羅君。
きっとアイツにやられたんだろう。あえて駆けつけなかったにしても、ちょっと痛そうにしている我愛羅君を見ると申し訳ない気持ちになる。
「……何も、なかったか?」
「あ、え、いや、変な人とすれ違ったけど……我愛羅君、怪我、してんの?」
ウラシキ、とはっきりとは言わずに、不審者と言う括りで話をし、すぐに話題をすりかえる。
大した怪我ではないと言いながらこちらに近づいてくる我愛羅君は、相変わらず神妙な面持ちで。
「何もされていないか、」
我愛羅君からすると軽症なんだろうけど、私が覚えている限りでは思いっきりあの釣り針みたいな物で刺されていたはずだから、それを考えると痛そうでならない。私なら痛い痛いとギャーギャー騒ぐどころではないと思う。
それでも私を心配して、何もされてないよと言うと安心したような表情に変わり、そのまま私を抱きしめた。
「っ、ちょ、」
「…結界を張っていると、油断していた。すまない」
潰れてしまうんじゃないかという程の強い力で抱きしめてくる我愛羅君に、私より怪我してる自分を心配してよと思うが、言っても意味無い事は分かっていたので何も言わないでいると、ゆっくりと離され、
無事で良かったと言いながら我愛羅君は安堵の息を吐き、そのまま元いた車両に二人で戻った。
………
数時間経って、もうすぐ木の葉に到着すると、別の車両に乗っていた我愛羅君の護衛であろう忍の人が教えてくれる。
窓から外を覗いて見れば、遠くの方に木の葉の街が見えた。
「名前、先程襲ってきた奴の事は他言無用だ。……それと、また襲撃を受けるかもしれない。勝手な行動は謹んでくれ」
「う、」
窓の外からまだ小さい木の葉の里を眺めながら、靴も脱いで、座席の上に足を放り出していた私に、突然真面目な話を放り込んでくる我愛羅君。
勝手な行動は謹んでくれ、なんて、あたかも私が勝手にウロウロするような物言いをしてくるが、まさかこっそりカタスケの所に行ってやろうと思っていたのがバレてたんじゃ。
いや、そんなこと、無いよね。うん。
「……お前は木の葉で、会いたい人物がいるんだったな」
「え?!、あ、えと」
じ、とこちらを見ながら言ってくるもんだから、思わず身体を縮こめる。
これはカマをかけてきている様でありながら、確実に私がカタスケの所にいくだろうと思っている目じゃないか。
しかも確信を突かれてしまった事で、動揺し大きく声をあげてしまったので、これじゃ完全に私は勝手な行動するよと言っている様なもんだ。
「カタスケとやらの所に行きたいのは分かるが、中忍試験が終わってからにしてくれ」
「え、?終わってから、行っても良いの?本当に?!」
只々ダメだと言われるのかと思ってたのに、突然のオッケーをもらい呆気にとられる。
中忍試験中は我愛羅君も手が離せないから、終わってから一緒に行こうという事らしいが、そんな事よりやっと携帯を科学者の人に見てもらえるという喜びが大きくてテンションが上がった。
「いえーい!やったねー!携帯でゲーム出来る様に改造してもらおーっと!」
「……」
「失礼します。風影様、そろそろ到着です」
両手の拳を振り上げて喜んでいると前方車両からまたさっきの忍の人が入ってきて到着を伝えてきた。
ああ、と忍に短く返事をした我愛羅君が続いて私に、靴を履いて下車の準備をしろと言うので、上がったテンションはそのままに靴を履く。
「ふんふ〜んっ」
「そんなに嬉しいのか」
「んー?だって、私の唯一の持ち物だしね、それに私の世界は携帯で暇つぶしとかするのが当たり前だから、使えないのが結構辛いんだよ」
携帯中毒者、とまではいかないだろうけど、ここまで何日も触っていないとなると変な感じだ。
我愛羅君にはわからないだろうけどね!
そんな会話を軽くしていると、ついに雷車が停車して、何日かぶりの木の葉の里に更にテンションを上げつつ私達は下車した。