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「誰だコレ、こんなとこでなんで寝てんだってばさ」

「誰だろう、先生呼んだ方が良いんじゃない?具合悪いのかもしれないし。ボルト呼んできてよ」

「はあ?なんで俺が。嫌だね。放っといて早く帰ろうぜ、疲れたしな。ミツキ、お前が先生呼んでこいよ」



…なんだうるさいな。人が折角気持ちよく寝てんのに、近くで喋らないでよ。
誰もこなさそうな階段を選んだつもりだったのに、まだ5分もたってないでしょ、寝かせてよ。



「ん〜、うるさいなあ」

「あ、ねえボルト、サラダ、起きたよこの人」






……




「あの、大丈夫ですか?体調悪いとかなら誰か呼んで来ますけど、」

「…え、」


なんだか聞いた事のある声に、まだ意識がぼんやりしている中で顔をあげるとそこにはサラダちゃんとボルト君、と、ミツキ君。

早く行こうぜと急かしているボルト君をよそに、心配そうに私の顔を覗き込んで来てりいるサラダちゃんに、間近で見るとより可愛いなどと一瞬思ったが、今はそんな事を考えている場合じゃない。

意識がまだ夢の中にあるうちに聞こえた会話、早く帰ろうぜという一言が鮮明に思い出され、血の気が引いた気分になる。

まさか試験終わったとかそういうオチでは決してないよね?!寝過ごしたとかそんな事ないよね?!
私の腹時計はまだ眠ってから5分も経ってないんだけど?!


「あれ、あなた、この前の…?」

「サラダ、この人知ってるの?」


上げた顔をマジマジと見られ、サラダちゃんは私の事に気づいたようだったが、私の頭の中は全然別の世界。
サラダちゃんとミツキ君の会話なんてほとんど右から左へ状態で、勢いよく立ち上がり二人の前に立ちはだかり声を上げた。


「あの!今何時ですか!試験は?!」

「え?えっと、試験はもう終わりましたけど、でも決勝は明日で、………」





な、なんだってええええええええ!!!


お、終わっ、終わったって!ええ?!
嫌な予感的中すぎるんですけどおおお!!

タイマーは?!設定した………
って、おいいいいい!開始ボタン押してねえええええ!

立ち上がった時手に握りしめた携帯を見てみると、15:00 と表示されたまま開始される事なく止まったままで。


「マズイ、コレハマズイ」


絶対探してる。あの赤毛の怖い人が、私の事を怖い顔して探してる…!
どうすれば…!
そ、そうだ、シンキ君のところに行こうと思って探してたら迷っちゃってウロウロしてたら外に出て、疲れたし先に宿に帰ってましたあ〜。
って事にしよう!
そうとなれば我愛羅君よりも先に宿にゴーだ!!


「あ、あの、大丈夫ですか?顔真っ青ですけど、」


我愛羅君の事を考えているとどうやら顔面蒼白になっていたようで、サラダちゃんが心配してくれるが、今はゆっくり会話なんてしている暇はない。
ごめんサラダちゃん!


「だ、ダイジョーブ!全然!大丈夫なんで!私帰らなきゃ!じゃあ!起こしてくれてありがとう!」

「え、?あ、…」


畳み掛けるようにサヨナラと言い残して、階段を駆け下りる。
変な人だね、というミツキ君の声が聞こえたがそんな事今は関係ない。なんとでも言ってくれ。

会場の外に繋がる道を、誰にも見つからないよう祈りながらただひたすらに走る。
試験が終わってどれくらい経っているのかは知らないが、あんまり人がいなくて助かった。

このまま一気に宿まで行きたい!

廊下を一気に突き進み、やっと出口が見えたところで、前だけ見ていた私は足に何かが引っかかっていた事に気づかず盛大に転んだ。


「っ!ぐえ、痛った、」


なんだよもう!廊下の真ん中に何か置くなんて、転んじゃうからやめてよ!
一体何につまずいたんだと、転んだ身体を起こし後ろを振り返って足元に目をやった、瞬間、




「お前は一体、今まで何をしていたんだ」



ひいいいいいいいいいい!
我愛羅君の砂だったああああ!


「え、えと、あの、え〜と、」


まさに鬼の形相と言うのがぴったりだと言う我愛羅君の表情に、思い切り目が泳いで言葉が詰まる。
私をつまづかせたのは紛れもない、我愛羅君の砂で。転んだ今でもずっと離してくれない。

…デジャビュ!二回目!


「…まあいい。何もなくて良かった。宿に戻るぞ」

「へ、」


もっとめちゃくちゃ怒られると思っていたのに、その無表情の裏に鬼を背負って、詰められると思っていたのに、突然私の足に絡まっていた砂が戻っていき、近づいてきた我愛羅君に手を差し伸べられて、訳も分からずその手を取り立ち上げる。


「お、怒ってないの、?」

「お前が無事ならそれでいい。それとも説教の一つでもした方がいいか」

「っい?!いえ!滅相もありません!」


我愛羅君の説教なんて絶対受けたくない…!きっと淡々としててネチネチしててずっと無表情で、何考えてんのか分からない感じで何時間も詰めてくるに違いない。
そんなの絶対に嫌だ。考えただけで身震いしてしまうと、咄嗟に断りを入れる。

私の横に並んで歩く我愛羅君は、少しだけ口角を上げながらこちらを向き、説教などしないと言った後立ち止まった。


「だが、お前はどうやら、余程俺から離れたくないらしい」

「は?!」

「勝手な行動をするなと何度言っても、お前は勝手にどこかへ行く。目の届くところに居ろと言っても、お前は俺の視界から外れていく」


さっきまでふんわり笑顔を浮かべていた我愛羅君の表情が、なんだろう、どんどん怒りの表情に変わっていっているのは気のせいだろうか。
何度言っても聞かないなら、私をずっと、四六時中我愛羅君の手中に収めて置く必要があると、遠回しに言われている気がするのは気のせいだろうか。

…き、気のせいじゃない気がするのは気のせいだろうか。
気のせいがゲシュタルト崩壊しそうなのは気のせいだろうか。

どんどん自分の額に青筋が増えて行く感じがして、今すぐここから逃げ出したくなったが、背中にそっと添えられている我愛羅君の手が恐ろしくて身体が凍ってしまったように動かない。


「む、無言の圧力…!」

「…何か言ったか」

「ひい!言ってません!」

















あの後は多分、ずっと背中に我愛羅君の手の感触を背負ったまま、宿に向かったんだと思う。
記憶が曖昧なのは、無言の圧力が重すぎて、終始冷や汗が止まらず必死で楽しい事を考えようとしていた所為だ。


宿に戻ってからも、夕食を食べている時も、ずっと私の横から離れてくれない我愛羅君は、多分私を手中に収めておこうと、逃げ出さない(勝手にウロウロしない)様に見張っているんだ。
前々からちょっと過保護だなと思ってはいたけど、まさかここまでなるとは。

素直にシンキ君のところに行っていれば良かったと心底後悔して、もう勝手な行動は取らないと決めた。
ていうか取れないし。はあ。