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昨日から引き続き、第三試験を観る為に会場まで来ている。
いよいよ中忍試験も大詰めで、私は昨日と同じ位置から観戦しているんだけど、試合が始まる前は只々三人とも頑張れと、そういう気持ちでいっぱいだったのに、時間が経つに連れこの後起こる襲撃の事が頭を埋め尽くして試合どころではなくなっていた。
こういう時は素直に応援したいのに、未来の事を知っているという余計なスペックが邪魔をする。
「うちはサラダ、戦闘不能!」
容赦の無いシンキ君の攻撃で、壁に打ち付けられたサラダちゃんには、歓声と共に敗北が告げられ、残るはボルト君とシンキ君のタイマン勝負。
いつも愛想が無くて、我愛羅君以上に無表情なシンキ君が、ボルト君と戦う中で真剣というか必死というか、そんな表情になっている様子を見て、うわ可愛いとか一瞬思ったが、そんな事を思っている間に戦っている二人が激突。
シンキ君の砂鉄と、最後の力を振り絞ったボルト君の雷がぶつかり、バチバチと大きな音を立てて私の耳をつんざいた。
「うわ…っ、すご、」
みんなが固唾を飲んで見守る中、ボルト君こ方が少し押され気味になった時、さっきまでとは違う紫色の様な光を帯びた雷が二人を包んだと思ったら砂鉄がバラバラに砕かれ、そのままシンキ君はボルト君の拳によって壁に叩きつけられた。
時間にすると一瞬の出来事で、ボルト君がいつ科学忍具を使って技を繰り出したのか全く見えないまま、私は開いた口が塞がらなかった。
ナルト君も、多分我愛羅君も気づいたんだよね。視力ってか動体視力?良すぎでしょ。すげえ。
「優勝者、うずまきボルト!」
勝敗がついた事によってリー君が声を上げ、盛大な歓声が辺りを包む。
その歓声に混じって、後ろから椅子が動く音が微かに聞こえたので振り向くと、怒りというより悲しいというような表情をしたナルト君が立ち去って行くのが見えた。
ここの場面はあんまり見たくない。ボルト君だって悪気があってあんな道具を使ったというより、ナルト君に自分を見て欲しくて、認めて欲しくて、その気持ちが強く出てしまった末の、ドーピングだったはず。
禁止されている事だし悪い事なのはそうだけど、なんだか居た堪れない気持ちになる。
「こいつは科学忍具、」
ナルト君がボルト君の手を取って、科学忍具が禁止されている事を会場全体に向かって説明し出す。
観戦していた観客達は、それを聞いた瞬間手のひらを返したみたいにブーイングをし始めた。
こんなの、見てられない。
画面の中で見ていた時も辛いものがあったが、生で見ると余計だ。
もうこの場を離れてしまいたいと、静かに立ち上がり我愛羅君の後ろ辺り、ナルト君達が見えない位置へと移動した。
それに、この後の襲撃で今私たちがいるこの場所が崩れる事も分かっているので、その事を考えると感傷的になっている頭に恐怖が被さる感覚だ。
例えるなら、車が沢山通る高速道路に一人立ち尽くしている気分。極端だけど。
「…どうした」
「いや、ちょっと、ごめん、怖くなってきちゃった」
轢かれるのを分かっているのに何もしない、何もできない、ただ道の真ん中に立っているだけの自分を想像をした瞬間、さっきまでボルト君のドーピングの件で悲観していたのに、そんな事どうでもよくなるくらい、次に起こる事が怖くなった。
思わず座っている為に私より少し低い位置にある我愛羅君の肩に手を起くと、ほんのちょっとだけ怖さが緩和された気がしたが、見えない会場の方から、あのカタスケの声が聞こえた瞬間、自分の自宅で見ていたボルトのアニメがフラッシュバックした感覚に陥った。
カタスケが喋り終わった辺りで、ナルト君がいち早く大筒木に気づくんだ。
それから会場は大変なことになって…。
今見ているのが現実なのか、頭の中で流れるアニメなのか、訳が分からなくなりそうで、我愛羅君の肩に置いている手に力が入る。
「…名前、?」
「に、逃げないと、」
こっちを振り返った我愛羅君に思わずそう漏らした後、会場がどよめきを上げた。
なんだアイツはなどと観客が会場の上空を見上げながら叫ぶのを聞いて、身体が強張る。
この言い知れぬ不安はなんなのか。
今私がいる場所から、ナルト君たちの様子は見えないのに、まるで自宅で画面を見ているみたいに鮮明に今起こっている事が分かるのに、逃げなきゃと思うのに身体は全然動かない。
「少し掃除をしますか」
我愛羅君の後ろから、ただジッとしているしか出来ない私の耳に、キンシキであろう声がまるで耳元で言われているみたいにハッキリと聞こえ、その瞬間、世界が揺れた感覚に襲われ、驚く間も無く私は我愛羅君に抱えられ気づけばみんなが避難しようとしている出口辺りに降ろされた。
「風影様!」
「皆、早く逃げろ」
降ろされた観客席からの出口のすぐ近くで、落ちてくる瓦礫を砂を使って食い留めている我愛羅君を見ながら立ち尽くしていると、下からシンキ君が上がって来て、我愛羅君と少し言葉を交わしているのが見えた。
そのままシンキ君は他の皆んなを避難させるべくどこかへ行ってしまって、私も避難しないといけないと考えたが、向こうの方でミツキ君が仙人化しようとしているのが見えて、気づけばそちらへ走っていた。
「名前!何をしている!お前も避難しろ!」
「ミツキ君が!襲われるから!助けなきゃ!」
まだ見ぬ未来を口走りながらミツキ君がいる方へ走っていく私を、我愛羅君は他で砂を使っている為、いつもの様に砂で足を引っ掛けたりする事ができないんだろう、声を張り上げ私を止めようとする事しかせず、私はそれを振り切った。
「ミツキ君!後ろ!」
ミツキ君の元までもうすぐというところまで来た私は、ミツキ君のすぐ後ろにウラシキが迫ってきているのを見て思わず叫ぶ。
このまま襲われても死にはしない。ミツキ君はチャクラを吸い取られるものの重症で留まるのは知っているが、知っているからこそ助けなくちゃと、さっきまでは恐怖で動かなかった身体が吸い寄せられるように、ミツキ君に迫るウラシキの操る釣り針に自ら向かって行った。
「っ、…!!あ、う、」
「?!」
「あ、あなたは昨日の?!どうして、」
ミツキ君を庇った形になった私の胸には、ウラシキがミツキ君を狙って放った釣り針が刺さっていて、只の一般人である私がなぜ庇ったりなんかしたのか、二人は驚きを隠せないようだった。
私に刺さった針は、チャクラを吸い込むなんてできずに、直接的に心臓部を貫いていて、経験した事のない痛みが一瞬襲ったと思ったら、だんだんと意識が遠のいていく感じに襲われる。
私だってどうして自ら死にに行くような事をしたのかなんて分からない。知っているからこそ、出来る事はしたいと、そう思っただけで死にたいと思ったわけじゃない。
考えるより行動が先走ってしまったというのが正しいかもしれない。
私がその場に倒れたのを確認して針を引き抜いたウラシキは、こんなところに飛び込んで来て自ら死ぬなんて残念です、などと言いながら、再度、仙人化したミツキ君に向かって針を投げた。
「君の力は危険です。野放しにしておくわけにはいかない」
「く、っああ!!」
薄れていく意識の中で、ミツキ君がやられているのを目の当たりにして、結局何も変えられなかったと、物語は細かいセリフや過程こそ違えど私が知っている結果に繋がっていくんだと、なんだか冷静に考えながら近くに倒れてきたミツキ君を見ていると、聞き慣れた声に名前を呼ばれた気がして、返事をしようと喉に力を入れた瞬間、私は暗闇に包まれた。