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暗闇の中で、ポツンと一人だけ、私が立っている。
これから私は天国に行くか地獄に行くのか決められて、三途の川を渡るんだろうか。
なんて、死んだ後の事なんて誰にも聞いた事ないから只の憶測でしかないけど。
そんな事を考えながらなんとなく暗闇の中をひたすら歩いていると、途端に身体が動かなくなった。
鉛みたいに身体が重くて、その場にしゃがみ込んだ。
なんだか凄く眠いみたいで、どうにも動けそうにない。
勝手に落ちて行く瞼に抵抗もせずそのまま目を閉じる。
これで最後。もうすぐこの意識も無くなって、私の魂も完全に消えて無くなるんだろうかと、目を閉じながら考えていると、
名前、名前と誰かが私を呼んでる声が瞼の向こう側から聞こえる。
誰?なんて、この暗闇の世界で、出ているのかも分からない声を出してみると、真っ暗だった世界に、目を閉じていても分かるくらいの光が射し込んで、私は急に軽くなった瞼を開けた。
「名前…!」
私を呼んでいたのは、赤い髪の、額に愛の文字が描かれた、
「我愛羅、くん、」
漫画の中の人だった。
…
「よく、よく戻ってきてくれた…!」
まだ意識がハッキリとしない中で、私はどうやら我愛羅君に抱きしめられている。
一体何があって、私はこうして抱きしめられているのか、思い出すにはそう時間はかからなかった。
だけどそれを説明するには、今はまだ頭がついていっていないので、とりあえず容赦なく抱きしめてくる我愛羅君に、痛いと一言だけ伝え離れてもらう。
「…名前、お前は一度死んだ。だが何故か、今こうして生き返った。その理由に心当たりはあるか、…いや、今はそんな事どうでもいい。とにかく良かった。俺が側についていながら危険な目に合わせてしまって…っ、すまなかった」
「ううん、我愛羅君は、悪くないよ」
それより、私が死んだ後、この世界では何があって、今はどういう状況なのかを知りたくて、寝ていた身体を起こしながらその事を我愛羅君に聞くとポツポツと話してくれた。
どうやら今は、大筒木も倒し、ナルト君もボルト君も五影達も無事生還してきた後らしい。
私はというと、ウラシキにやられた後ミツキ君と共に会場の外まで運ばれ、直ぐに病院送りになったが私だけ助からなくて、ほぼ即死だったと判断された様だ。
その事を我愛羅君はナルト君がモモシキに連れて行かれた後知って、私の死を見届けてからナルト君奪還に参加した様だった。
我愛羅君のお願いで、すぐ遺体袋に収容するのでは無く、ナルト君奪還から帰ってくるまでベッドで安らかに眠らせてやって欲しいと、私は病院のベッドで、顔に布もかけられる事無く寝かされていたらしい。
そして我愛羅君は帰って来た後すぐ私の所へ最期の別れを言いに来た所で、微かに息をしながら涙を流している私に気づき、何度も名前を呼んだと。
思い出したくない事を思い出している様な、苦しい表情で話す我愛羅君に、ごめんと小さい声で謝りながら、今度は私が、言わなきゃいけない事があると申し出た。
「私ね、我愛羅君、」
「…なんだ」
「あの時、確かに死んだの」
ウラシキにやられて、確かにあの時、私は死んだんだと。
そして目が覚めたら自分の部屋にいて、自分の世界でも私は同じように死んでいた事。
私の部屋に来たお母さんと少し話をした事。
死んで自分の世界に留まってしまっていた私の魂を、お母さんが成仏させてくれたと思った事。
それらを、所々掻い摘んだ箇所はあるが、こんな俄かに信じがたい事を真剣に聞いてくれている我愛羅君に、ゆっくりと話した。
そして最後に、私はあの世へ行くんだと、暗闇を彷徨っていたら誰かに呼ばれて、目を開けると我愛羅君がいたんだと。
神様は、私にこの世界で生きていけと言っているのかもしれない。
なんでそんな突拍子も無い、非現実的な事をするのか分からないし、ここで生きていけと言われても、今直ぐには受け入れられない。
死んだと思い悲しみながらも私の為に嘘を付いて見送ってくれたお母さんを思いだすと、私はここで生きていて良いのか、私を生かすなら、何故私の生きて来た世界に戻してくれなかったのか、私の居場所は本当にここで良いのかなんて、話ている内に意識が覚醒してきた事により感情が高ぶって、最後は殆ど愚痴が混じった様な話になってしまい、気づけば私は泣いていた。
「…っ私の、本当の居場所なんて、無いのかもしれなっ、私はこの世界の住人じゃないのに、どうして…。私にはもう、帰る場所が無い、」
情けなく泣いて、お母さんを想いながら、我愛羅君にはしたなく感情をぶつける。
こんな事、我愛羅君に言っても仕方ないのに、言わずにはいられなかった。
「お母さんは、私が死んだ事に酷く悲しんでた、なのに私の魂が留まっているのは自分が悲しんでるからだって、だから私の為にも、自分達は前に進まなきゃいけないんだって、自分の気持ちに嘘まで付いて、私を送ってくれたのに、当の私は生きてるだなんて、こんなの辛すぎる…、こんなに辛いなら本当に死んだ方が良かったのかもしれな、……!」
「もういい、!」
感情が表に出すぎて、咄嗟に思った事を言った瞬間、我愛羅君にまた抱きしめられた。
強引で、苦しいくらいに力強く私の背中に手を回してくる我愛羅君に抵抗しようとしたが、我愛羅君の腕が少し震えている事に気付いて、できなかった。
「…母上には悲しい思いをさせてしまっただろうが、違う世界でこうして生き返ったお前が、死んだ方が良かったなどと言ったのを母上が知れば、もっと悲しむ事になるだろう」
そんな事、重々承知しているつもりだ。
ただ突然、元来私の居場所である世界で死んで、違う世界で生きていけなんて突然言われても、やっぱり直ぐには理解できなかった。
「っ、でも、だって、」
「居場所が無いなど言うな。元の世界や母上とまではいかないかもしれないが、俺にできるなら、お前の事を受けとめたい。俺の所に帰ってくればいい」
「…我愛羅く、」
抱きしめてくる力が一層強くなり、私の居場所になってくれると言う我愛羅君に、心のざわつきが治った気がした。
でもどうしてそこまで言ってくれるのか。
こっちの世界の常識なんかまるでわからない只の一般人の私に、なんでそこまで言ってくれるのか分からない。
居場所になってくれるなんて、簡単には言えるが、それはとても重い事だと思う。
両親のように無償の愛をくれて、いつでも見守ってくれて心配してくれて、同じ屋根の下で暮らしていなくても、私には両親という帰る場所があるから仕事だってなんだってやってこれた。
親子の絆を、家族の絆を、無意識に自分の居場所だと思っているんだ。
今までそんな事、よく考えた事なんて無かったが、自分が両親のいる世界から離れて初めて感じた事。無償の愛とはとてつもなく重いものなんだと思った。それでも我愛羅君は、私の居場所になってくれると言うのだろか。
「、なんで、我愛羅君は、そこまで言って、くれるの」
「…そんな事、俺からすれば当たり前だからだ」
「当たり、前…?どういう事、」
何が当たり前なのか、どういう意図でそう言っているのか分からず身じろぎをすると、抱きしめていた力が弱くなり、ス、と身体を離される。
そのまま肩に手を置かれ、下を向いていた顔を上げると今までに見たこと無いくらい真剣な表情をしている我愛羅君と目が合った。
「俺は、お前を愛していると言ったはずだ。それは今も変わらない。お前がどこから来ようが、どういう人物だろうが、そんな事は関係ない。俺は最初から、お前の居場所に、家族になると決めていた。だからお前の居場所になるなど当たり前の事だ、家族だと思っているのだから」
「…っ」
真っ直ぐ、一瞬も私から目を逸らさずに、そう言ってくれる我愛羅君に、少し治っていた涙がまた溢れてしまって思わず下を向いたが、肩に置かれていた手に力が籠り再度抱きしめられた。
「もう泣くな」
暖かくて、大きくて、初めて会った時とは比べ物にならないくらいの抱擁力で、私を受け止めてくれる我愛羅君に、自然と涙が止まって、拳を作っていた手のひらは緩み、我愛羅君の背中に回した。
「、もう泣いてない」
お母さん、お父さん
私、こっちで頑張ってみる。
世界は違うけど、二人の娘として絶対幸せになってみせるよ。
見ててね。