02

「よっしゃぁぁああああ!!退院んんんん!!」

「名前、あまり騒ぐな」


どこも悪くないのにあの狭い病室に閉じ込められて早一週間。
やっとの事で退院の許可をもらい、砂へ帰る為に病院から雷車までの道のりを歩いている。
久しぶりの外なだけあってテンションも上がるわさ。

だって暇だったんだ。すごく暇だったんだ。
たまに誰かが来てくれて、話し相手になってくれてたけど、それでも大半は一人で過ごしていたものだから、それはもう走り回りたくなるくらい身体がウズウズしていた。

でも、一人の時間が多かった事もあって、気持ちの整理しても大方できた。
沢山考え過ぎて頭がパンクしそうになった事もあったが、
お母さんとの最後の別れの時、我愛羅君に居場所はここだと言われた時、私はこの世界で生きていくんだと決めた事を思い出した。
それからはもう余計な事は考えずに、自分の思う通りに生きていこうと腹を括った。
要は吹っ切れたって事だ。

それもこれも、最終的には我愛羅君のおかげだ。
我愛羅君が私に居場所をくれなかったら、私はどうなっていたか分からないし。

本当に、感謝しかないな我愛羅君には。


「名前、?」

「ん?、ああ、ごめんごめん。ボーッとしちゃってた」


黙ったまま物思いにふけってしまっていて、我愛羅君に声をかけられハッとする。
さっきまでギャーギャーと騒いでいたのに突然黙ったもんだから、体調でも悪いと思ったのか、身体は大丈夫か?と心配された。


「え?うん、大丈夫だよ。ていうか元々どこも悪くないからね、元気モリモリだからね」

「…そうか」


横を歩く我愛羅君に、両腕を上げてボディービルダー達がよくしているポーズを見せて、元気な事をアピールする。
それを見た我愛羅君は一瞬だけ頬を緩めたが、直ぐまた元の無表情に戻り、歩んでいた足を止めた。


「?、我愛羅君、どしたの」


急に止まったので、我愛羅君より数歩先を行ってしまった私も立ち止まって振り返ると、無表情から真剣な表情に変わった我愛羅君と目が合った。

どうしたんだ、お腹でも痛いのか。なんて、完全にお門違いな事を考えつつも、何か言いたげなのに喋ろうとしない我愛羅君に見兼ねてもう一度、どしたの?と声をかける。


「…名前、気持ちの整理はついたのか」

「ん?」

「完全に元の世界の事を忘れるのは不可能だろうが、忘れられないだけ苦しい事もあるだろう。…お前は退院する少し前から人が変わった様に明るく振舞っているが、無理はしなくてもいい。俺はお前が生き返った日、もう泣くなと言ったが、…悲しい時は泣いてもいいんだ」


ちょっと悲しそうな表情をしながら、何を言うのかと思えば。
でも本当に、もう私は大丈夫なんだ。元々、いつまでもウジウジクヨクヨする性格でも無いし、吹っ切れた後の方向転換は早い方だ。
無理して明るく振舞ってなんかない。
元の私に戻っただけ。
女心は秋の空ってね。あ、この言葉って恋愛云々の時に使うんだっけ?


「私は大丈夫だよ。いつまでもウジウジしてても仕方ないし。それに、」

「…なんだ」

「我愛羅君が、私の家族に、居場所になってくれるって言ってくれたから。元の世界を忘れるなんて無理だと思うけど、我愛羅君がそう言ってくれたから安心できたし、こっちでも頑張ろうって思ったの。だからもう心配しなくても大丈夫」


気持ちの整理はついてるよ。と言いながら我愛羅君に触れられる距離まで近づき、頬を両手で摘んで引っ張ってやる。

途端に、何をするんだとでも言いたげな表情に変わったので手を離すと、また少し悲しそうな表情に戻ってしまった。


「だーかーらー、そんな顔するなって言ってんじゃん。心配性かよ」

「…」

「私が大丈夫って言ったら大丈夫なの。我愛羅君は本当に過保護だよねえ」


私より背の高い我愛羅君の顔を間近で見上げながら心配性、過保護、などと嫌味の様に言っていると、そっと肩に手を置かれた。


「…お前が大丈夫だと言うなら、そうなのかもしれない。だが、何かあればすぐに言ってくれ。些細な事でもなんでもいい」


真っ直ぐと、曇りのない目でこちらを見ながらそう言ってくる我愛羅君が真剣過ぎて、それが幸せに思えてなんだか少し笑えてきた。

フフ、と頬を緩ませていると、なにが可笑しいんだと指摘されたので、なんでもなーいと言いながら踵を返した。
そのまま歩きだし、後ろから我愛羅君が無言でついてきているのを気配で感じてから、また振り向き口を開く。


「我愛羅君、ありがとね。本当に私、もう大丈夫だと思う。けど、もし何かあったら頼らせてもらうね。その時はよろしくお願いします。あ、あと言い忘れてたんだけど、不束者ですが、これからもよろしくお願いします」


私が振り返った事によって立ち止まった我愛羅君に向かってペコリと丁寧すぎる角度で頭を下げながら言い忘れていたお礼を改めて述べる。
その直後、下げた頭に感じた暖かい感触に、頭を撫でられていると思い折り曲げていた腰を真っ直ぐに伸ばし我愛羅君の顔を見ると、さっきまでのちょっと悲しそうな表情から一変、緩やかな笑顔になっていて、思わず心臓が跳ねた。

あ、あれ、なんだこれ。
頭なんて何回も撫でられてるのに。微笑んでるのだって何回も見たことあるのに。
なんでこんなにドキッとしてんだ私。


「っ、か、帰ろ!」

「…ああ」


自分の胸の内がドキドキした事に動揺して、我愛羅君から目を逸らし振り向いて、そのまま歩き出した。
短く返事をした我愛羅君は静かに私の後ろを付いてきていて、さっきの動揺がバレていないか妙に緊張してしまう。

なんで今になって我愛羅君にときめいてんだ。
いや何回もときめいた事は確かにあるけど、
さっきのは今までの感じとはちょっと違う気が…、

いやいや気のせいだ。トキメキに種類なんかないだろう。
そうだ、きっと吊り橋効果にハマったんだ。そう思うようにしよう。きっと吊り橋効果なんて今だけだ。
少し経てば元に戻る。絶対そうだ。

ブツブツと声にならない声で独り言を言いながら我愛羅君の前を歩き、やっと辿り着いた駅で丁度来ていた雷車に乗り込んだ。


それから私は、なんとなく我愛羅君の顔が見れなくて黙ったまま目を瞑り、ゆらゆらと揺れる雷車の中で気づけば寝てしまっていた。