03

まもなく砂隠れの里に到着致しますというアナウンスが夢の中で聞こえた気がして薄っすらと目を開けると、白く光った蛍光灯の明かりで逆光になった天井が見えた。


「ん、あれ、」

「到着だ」

「…んあ?!」


え、もしかして私出発してから今までずっと寝てたの?
どう考えても寝すぎでしょ、いくら雷車でも木の葉から砂まで結構な時間だよね?
起こしてくれたって良かったのに、…あ、いや、これはこれで逆に良かったではないか。

寝起きであやふやな頭が覚醒していく度に、雷車に乗る前のあの動悸を思い出して心底寝てしまって良かったと思った。


「降りるぞ」

「あ、う、うん」


前を歩き雷車から降りる我愛羅君に付いて行き私もホームへ足を踏み入れると、そこで待っていたのはカンクロウ君と、シンキ君。
辺りはもう真っ暗で、木の葉から砂までは雷車でもかなり時間がかかるんだなと改めて気づかされた。


「おかえり我愛羅、名前」

「カンクロウ君、シンキ君」


まさか迎えに来てくれるとは思っていなくて驚いた。
出迎えてくれ、更におかえりと言ってくるカンクロウ君になんと言えばいいのか分からなくてただ名前を呼んだだけでいると、ただいまって言えよと笑われた。


「ただい、ま」

「おー。シンキ、お前もなんか言えよ」

「元の世界に帰れなくなったと聞いた」


多分カンクロウ君は、おかえりとかそういう言葉を期待していたんだと思う。
だけどシンキ君から飛び出た言葉は全く違うもので、古傷をえぐるみたいな発言に私以外の二人、特にカンクロウ君は焦っている。


「いやいや、なんか言えとは言ったけどよ、そういう事じゃねえじゃん」

「あ、いや全然良いよ、…それでシンキ君、私この通り帰れなくなってさ、これからもお世話になりたいんだけど、いいですか?」


私はいつだったか、シンキ君と初めて喋った時に必ず自分の世界に帰るし、ずっと世話にはならないから安心してと言った事がある。
なんとなくこのまま何も言わずにお世話になるのは気が引けたので、改めてシンキ君に問うてみる。


「…義父上が良いなら俺は構わない」


そう言いながらチラリとシンキ君は我愛羅君の方を見てから再度私の方に向き直ってきたので、ありがとうと返事をした。


「ま、帰るじゃん」


いつまでもホームで話してる訳にいかねえしな、とポケットに手を突っ込みながら先を行くカンクロウ君と、無言で歩いていく我愛羅君に慌ててついて行こうとすると、いきなり腕を捕まれたので驚いて後ろを振り向いた。


「シ、シンキ君、どしたの」

「一つだけ言っておく。義父上がお前の所為で不幸になるような事があれば俺はお前を追い出す」

「え」


突然何を言われるかと思いきや、
突拍子もない事を言われ返事に困ってしまって上手く言葉が出ずにいると、何も言わない私に痺れを切らしたのか、捕まれている手の力が少し強くなった。


「い、いたたた、分かった、分かったよ」


ぐぐ、と音が鳴りそうな程腕を握られ思わず焦りながら了承の言葉を口にする。
まだほんの子供なのに、忍とは末恐ろしいななんて思いながら、やっとの事で離して貰えた腕をさすりながらため息を吐いた。
ちょっとは心開いてくれたかなーなんて思ってたのに、やっぱり敵視されてんだなシンキ君には。

それにしても、分かったとは言ったものの不幸にするななんて、そんな事言われてもなあ。
私がただ家にいるだけだと我愛羅君は別に不幸になんてならないだろうし、まあ逆に、幸せにしてやる事も特にできなさそうだけど。

…幸せに、


「あ、」


ちょっと待て。
不幸にするなって言ったよね。
え、じゃあもし、もしもの話だけど、我愛羅君が私に、け、結婚してくれなんて言ってきたら、どうすればいいの?
普通に考えたらプロポーズを断られたら不幸になるっていうのは大げさだけど、落ち込むよね。
シンキ君は私が突然自分のお母さんになる事と我愛羅君が落ち込むのと、どっちを取るんだ。
やっぱり我愛羅君が幸せな方を選ぶのかな?てことは私シンキ君の義母上になるって事?

…それなんかやばくない?
シンキ君から義母上って呼ばれるの、なんかやばくない?激萌えなんだけど。


「…うわあ、呼んで欲しい、絶対可愛いよね愛おしいよね、うわあ…」

「なんだ」

「あ、いや、いやいやいや、なんでもない」


私今絶対ニヤニヤしてた。絶対してた。
多分その顔を見たんだろう、少しのジト目でこちらを見ながら疑問を投げかけてくるシンキ君に、自分が考えていた事がバレては困ると、なんでもないと誤魔化すが、それと同時にとんでもない好奇心が私の頭をかすめた。

やっぱり気になる。
シンキ君は私がもし母親になるとしたら、それは良いのだろうか。
………聞いてみたい


「あ、あのさ、ちょっと聞きたいんだけど、」

「…なんだ」

「あ、あー、いや、えっと」


急な好奇心でついシンキ君に質問しようと声を上げたが、いざとなると聞きづらくなって、視線をキョロキョロとさせてしまう。
よく考えたらとんでもないこと聞こうとしてんじゃん私。
なに考えてんだああああ
だって私なら、突然一緒に住む事になった女に、自分の母親になるとしたら、なんて聞かれたら確実にウゼェェってなる。
ウゼェどころじゃないな。なんだコイツ状態だ。

やっぱりやめよう。聞くのやめよう。


「いや、やっぱりなんでもな、……」

「早く言え」


……

うわああああ、これ言わなきゃいけない感じ?そうなの?そうなのか?
なんてアホなんだ私は。こんな好奇心のせいで気まずい事を聞こうとするなんて、アホすぎる。

チラリとシンキ君を伺えば、早くしろとでも言いたげな目を向けてきている。
これは言うまでその目で私を見るつもりだな、そうなんだな?


「質問があると言ったのはお前だろう。さっさと言え」


…いやそれはそうなんだけど。
これはもう言ってしまおうか。聞いて驚けな質問だけどいいんだね?いいんだね?!

今度は私がシンキ君をジト目で見ながら、心の中で、言っていいんだな?と問いかける。
勿論返事は無いが、シンキ君は相変わらず声には出さないが催促の視線を向けてきているので、ああもう言ってしまえと一呼吸置いてから口を開いた。




「……シ、シンキ君はさ、私がもし、その、シンキ君のお母さんになるとしたら、…どう思う?」