04
ついに聞いてしまった。
口に出すとより滑稽というか馬鹿げた質問に聞こえる。
シンキ君は驚いた表情も見せないで、ただ無表情でこちらを伺いながら黙っている。
なんでもいいから何か言ってくれ。頼む。
アホか。とか嫌だ。とか何でもいいから。頼むから。
「い、嫌だよね!そうですよね!ははは、」
沈黙に耐えられず、保身にも似た言葉を口にして、わざとらしい乾いた笑いを零すと、やっとシンキ君が口を開いた。
「…義父上がお前に好意を抱いているのは知っている」
「え?」
「義父上がそれを望むなら、俺は誰が母親になろうと構わない。お前は俺に義父上を不幸にするなと言われて、義父上が夫婦になる事を迫った時、それを断る事はどうなんだと思ったんだろう。」
「え?え?」
「だがそれを受け入れるか断るかはお前自身の事だ。俺はそんな事で義父上を不幸にするなと言ったんじゃない。妙な事を考えて下手な真似はするなと言っただけだ」
な、なんだこれは。
ちょっとシンキ君の察しが良すぎて私ついていけないんですけど、一旦ストップしてもらってもいいですか。
下手な真似って何ですか。暗殺とかですか。私にそんな能力あると思いますか。
ていうか我愛羅君が私に好意を寄せてる事知ってたのかよ。まじかよ、なんかめっちゃ恥ずかしいんだけど。
「あ、えと、分かりました。お答えいただきありがとうございました」
ついて行かない頭をどうにか覚醒させて、もうこの話は終わらせたいと、終止符を打った。
まさかの答えが返って来た事で完全に異次元の世界を見つめている私が言葉を発した事で、シンキ君は私の横を通り過ぎ、我愛羅君たちを追いかける。
「あ、」
それに私もついて行こうと、シンキ君の背中を追いかけ横並びに歩き出すと、小さくだがシンキ君が喋りだした。
「…お前なら、義母上と呼ぶのも悪くない」
……
え??!!
い、今、義母上って呼ぶのも悪くないって言ったよね?!
お前なら、って言ったよね?!
え、聞き間違いじゃないよね?!
ツンデレきたあああああ!!
「ちょ、あの!よく聞こえなかったんだけど、…も、もう一回言ってくれない?!」
「…聞こえていただろう。急ぐぞ」
「あ!ちょ、待っ!」
聞こえなかったという嘘が即座にバレて、もう一度シンキ君から天使のようなセリフを聞く事はできなくて、シンキ君はもう既に遥か先まで歩いて行ってしまっていた我愛羅君達の所まで飛んで行ってしまった。
急に凄い急ぐじゃん!と内心文句を言いつつ、早くない足を走らせ必死に後をついて行くが、ぴょんぴょんと地面を蹴って飛んで行くシンキ君にすぐには追いつける訳もなく、我愛羅君率いる三人の所に辿り着いた時にはゼエゼエと息を吐く始末だった。
「はあ、ちょ、マジで、っ、早すぎ、」
「名前お前、何してたんだよ」
「シンキ君と、ちょっとお話ししてて、そしたら置いてかれちゃったんだよ、あー疲れた」
「ふーん?シンキとなあ?」
追いついてきた私に真っ先に声をかけてきたカンクロウ君に、なんの話をしてたんだと問われたが、さっきのシンキ君との会話の内容を思い出し思わず咽せた。
「げほ、っ、ただの世間話だし」
「なんで咽せてんだ、まあいいけどよ」
あんな会話、話せる訳ない。しかも我愛羅君がいる前で。
空気読めよなこの隈取り野郎が。
そのまま無言で暫く歩いて、ようやく風影邸が見えてきた。
なんだか久しぶりな気がする風影邸をぼんやり眺めていると、我愛羅君に声を掛けられた。
「どうした」
「あ、いやなんでもないんだけど、ここが私の家になるのかあ、なんて」
「…嫌か」
「え、嫌とか思ってないよ、なんとなくそう思っただけで、寧ろこんな広すぎる屋敷みたいな家にこれからずっと住むとか凄いなーって思っただけ。ほら我愛羅君、私の部屋来たことあるでしょ。あの狭い部屋に住んでたんだから私」
私が一人暮らしをしていた部屋よりも、一軒家だった実家よりも、遥かに広いこの風影邸での暮らしは、まるでお城に住む様な感覚で、普通ならドキドキワクワクの楽しいものだろう。
別に嫌かと言われたら全然そうは思わないけど、やっぱりなんだか変な感じ。
「…お前のあの部屋も、俺は嫌いじゃない」
「いやいや、二人で住むには狭いよあの部屋。いくら我愛羅君が子供だったもしてもさ、窮屈だったでしょ」
「俺はお前と近くに居られる分、あのくらいの広さで充分だ」
本当に、サラっと、なんの恥ずかしげも無くそんな事を言い放つ我愛羅君に、目が点になりそうだ。
せめてシンキ君もカンクロウ君もいない時にしてくれよ。わざと?わざとなの?
「…我愛羅君、恥ずかしい事を唐突に言わないで、」
「思った事を言っただけだが」
「おいお前ら、イチャついてんじゃねーよ。我愛羅、お前は溜まった仕事が山積みじゃん、今夜は寝かせねーぞ」
「は、イチャついてねーし!カンクロウ君こそ、今夜は寝かせねーぞとか卑猥なんだよ!」
我愛羅君の無意識による恥ずかしい発言はどうにか辞めさせたい。
顔が少し熱を帯びているのを感じながら我愛羅君と話ているとカンクロウ君がチャチャを入れてきたので、正直助かったと思った。
我愛羅君に対して今夜は寝かせねーぞって言ってた事はちょっとどうかと思ったけど。
いや仕事させるって事はわかってるけど。もっと言い方あったよね。
「義父上、俺は部屋へ戻ります」
「ああ。ゆっくり休め」
「…はっ」
辿りついた風影邸に入り、シンキ君はもう休むと言い、そこで別れる。
そういえばもうそんな時間なんだ。
私はお腹空いたな、なんて考えながら自分の部屋へ戻るシンキ君の背中に手を振りながら考えていると、カンクロウ君が食材はあるからなんか作ればと言ってきた。
「え、めんどくささマックスすぎてどうしよう」
「じゃあ食うな、寝とけアホ」
「我愛羅君、飲みに行こうよ。我愛羅君も晩御飯まだでしょ」
「ああ、そうするとしよう」
「おい我愛羅!オメーは仕事があんじゃん!何シレっとサボろうとしてんだよ!」
私をアホ呼ばわりするカンクロウ君を無視して我愛羅君と外でご飯でもと誘ってみると即オッケーを出してきたので意外に思っていると、ものの数秒でカンクロウ君からツッコミが入った。
我愛羅君は意外にボケる側なのか。
「仕事は明日、纏めて片付ければいいだろう。カンクロウ、お前も一緒にどうだ」
「ったく、明日全部終わらせてくれよ。マジで山積みだからな!そして俺は行かねえ。二人で行ってくるじゃん」
「いえーい!我愛羅君行こ〜!カンクロウ君お休み〜!」
入院中、どこも悪くないのに味気の無い物しか食べられなくて、どこも悪くないのにお酒も飲めなくてモヤモヤしてたんだ。どこも悪くないのに。
そんな私に飲酒解禁のお言葉。
テンションの上がった私は我愛羅君の腕を引っ張り、早く早くと急かし飲屋街の方へと足を進める。
後ろから飲みすぎんなよというカンクロウ君の声が聞こえ、はーいと軽く返事をした。