06

身体を蝕む暑さで目が覚めた。
薄っすらと目を開けて、身体に纏わり付いていたシーツを邪険に扱い上体を起こしす。


「今何時だ、」


我愛羅君が朝部屋から出て行ったあとでまた寝てしまっていた私は窓の外を仰ぎ見る。
太陽は真上より少し傾いていて、なるほど昼過ぎ位かなと納得した。
昨日お風呂にも入らず酔って寝てしまった為なのか、自身から少しお酒の匂いが漂うのに嫌悪感が湧いてきて、とりあえずお風呂に入ろうと部屋を出る。


「…こんな酒臭い状態で我愛羅君と一緒に寝てたのか私」


すんすんと腕の辺りを嗅ぎながら、浴室までの道を歩いて朝の出来事を思い出すと小っ恥ずかしい気持ちになった。
それにしても二日酔いにはなっていない様で自分に安心する。どれくらい飲んだのか全く覚えてないけど。
だけど我愛羅君に余計な事とか言ってないかが心配だ。

たどり着いた浴室の扉を開けて脱衣所でそそくさと服を全部脱いで行く。
何も考えずに全部脱ぎ終えた時、思わず、あ、と声を出した。


「着替え持ってくるの忘れた」


あーもう、と洗濯カゴに入れ今し方まで着ていた服をもう一度着ようとした、が、
漂ってくるお酒の匂いに着る気を無くしてしまった。


「これもう一回着るのやだなあ」


脱いだ事で寄り強く感じるお酒の匂いに、まるで汚いものを持つ様にしてそのままカゴに戻した。

誰か来ないかな、と言ってもここらは執務室がある周りとは違って人は通らない。
バスタオル巻いて着替え取りに行く?それとも一旦忘れてとりあえずお風呂にする?
…いや、後者は無いな。前者も無いけど。

裸のまま脱衣所で立ち尽くし、我慢してまた同じ服を着ようかと悩んでいた折、大きい声を出したら誰か来てきれないかなと、なんとも傍迷惑な考えに及んだ。


「一回、ちょっと試してみよっかなあ、誰か来てくれたらラッキーって感じで」


よし、と閉めていた廊下に続く扉を少しだけ開けてから、顔を覗かせつつ息を思い切り吸い込んで、


「誰かーーー!!!」


と叫んだ。
シン、と静まり返った廊下に私の金切り声が響いて木霊したのを確認してから、足音とかが聞こえて来ないだろうかと耳を済ましてみる。


「……やっぱ聞こえないかあ、」


ちぇ、と唇を尖らせながら、仕方ないから酒臭い服をもう一回着ようとカゴに手を手を伸ばした瞬間、バン!と大きな音を立てて私の後ろにある扉が開いた。


「どうした?!…っ」

「?!ぎゃ、」


ぎゃあああああああ!!

風を切る音がするくらいの勢いで後ろを振り向いて、扉を開けた人物を見た瞬間、自分が裸である事が脳裏を掠め思わず大きな声を上げてしまった。
まさか執務室にいたであろう我愛羅君がここまでくるなんて思ってもいなくて、気が動転しすぎた。

カゴに伸ばしていた手を、酒臭い服と一緒に胸元に手繰り寄せ、別に何もして来ないというのは重々分かってはいるが、微かな防衛本能でジリジリと少しづつ後ろに下がった。


「っ、すまない」

「いや分かったから!とりあえず閉めて!ドア閉めて!」


扉を開けたまま、顔を背けて謝る我愛羅君にいいから出て行けと声を上げた。
きっと私が助けてくれという様な声を上げた所為で心配して来てくれたんだろうけど、扉を開ければ素っ裸な私がいたもんだから我愛羅君も焦ったんだろう。

私の呼びかけでハっとした表情を見せた後、もう一度謝って静かに扉を閉めた。


「ご、ごめんね、まさか聞こえるとは思ってなくて」

「…いや、俺ももっと慎重になるべきだった。突然入ってすまなかった。…それで、どうした」

「ああ、えっと、」


扉の向こうにいる我愛羅君に、当初の目的を伝えると微かだがため息が扉越しに聞こえる。
なにため息吐いてんだと愚痴をぶつけそうになったが、そりゃため息も出るかと、開いた口を閉じた。


「と、いう事で私がお風呂はいってる間に着替え持って来て置いといてくれると嬉しいな〜なんて」

「…ああ、分かった」


忙しい我愛羅君にはあまり期待もせずに言ってみたが、あっけなく快諾してくれ、ヒャホウと声を上げた。
少しの間だが裸でいたことによって少し全身が冷えている。
分かったと言った我愛羅君に、じゃあお願いと一言残しそそくさと浴室へと入った。

我愛羅君は優しいなあ、なんて考えながら蛇口を捻ってシャワーを浴びる。
暖かいお湯が冷えた身体に流れかかって、水の球になって滑り落ちていくのを見ながらしばらくすると、浴室の外、脱衣所の扉が開いた音がして、我愛羅君が着替えを持って来てくれたことに気がついた。


「あ、我愛羅君、ありがとーねー」

「構わん。ここに置いておく」

「はーい」


すりガラスの様な浴室の扉越しに例を言うと、いつもの落ち着いた返事が返って来て安心した。

そのまま身体を洗い、湯船にはお湯を張っていないので、丹念にシャワーで身体を洗い流してから浴室を後にする。


「あースッキリ」


扉を超えたところにあるマットの上で身体をタオルで拭きながら、我愛羅君が持って来てくれた着替えにチラリと視線を寄越すと、綺麗に畳まれた、以前買ってもらったチャイナ服と、私がいつも履いているデニムが確認できた。

身体を拭き終わって、用がなくなったバスタオルを洗濯カゴに入れた刹那、下着類も持って来てもらうのを言い忘れた事に気づいて、だけど流石に我愛羅君だって男の子なんだし言っても恥ずかしかっただろうから、服だけ来てあとで下着は身に付けようと、畳まれたチャイナ服に手を伸ばした。


「…え」


……なんだろう。今一瞬で顔が熱くなった気がする。

畳まれたチャイナ服を取って、その下から出て来たのは紛れもない、私の下着。なんだけど。
服と服の間に下着をわざわざ挟んで置いていると言う我愛羅君の妙な気遣いにはちょっと笑える。
だけどそれ以上に、選別された下着の種類がとんでもなくて、恥ずかしさが一気に込み上げてきた。
いや下着も持って来てくれた事には感謝したいけど、なんでこれを選んだんだ。

以前私が下着を何着か買った時、誰に見せるでもないんだからシンプルなものでいいと、フラットで装飾が何もない、黒色のものを選んだ。まるで女子力がないけど。
それを見たテマリちゃんが、一つくらいこういうのも持っておけ。勝負下着だと、ピンク色の、レースで花の形が刺繍されているものを買い物かごに入れられたんだっけ。


「…わあ、」


確かこの下着は引き出しの結構奥の方に仕舞っていたはずで、この下着がここにあるという事は、我愛羅君がわざわざこれを選んで持って来たという事だ。

なんで私の下着が入っている引き出しを知っているのかは、まあ咎めない事にしよう。
我愛羅君の事だ、全部のクローゼットや引き出しを開けに開けまくって見つけたんだろう。


「うわあ、想像したらちょっと可愛い」


人に選ばれた下着を身につけるのがこんなに恥ずかしいとは思わなかったけど、一旦落ち着いて、我愛羅君の好みと勝手に解釈した下着を身につけ服を着てから脱衣所を後にした。