07

「それでよ、お前、どうなんだ」

「は?何が」


カンクロウ君と以前来た喫茶店に足を運んだ私は今、次は絶対食べると決めていたこの店オススメのオムライスを食べている。

元の世界に帰れなくなって数日、相変わらず暇な毎日を送っていた私の元に現れたカンクロウ君に誘われるがまま昼食を食べに来たんだ。


「何が、って、いつ我愛羅とくっつくんだよお前」

「?!、げほっ、ちょ、吹きそうになったじゃん!」


話があるとは聞いていたけど、まさかそんな話とは思いもよらず、口に頬張っていたオムライスを目の前のカンクロウ君にぶちまけそうになったのを押し殺し、グッと飲み込んだ。
ストレート過ぎるんですけどこの人。


「お前にはストレートに言わねえと通じねえじゃん」

「それ私がアホだって言いたいのかなコラ」

「い、…睨むな睨むな。悪かったって」


遠回しにアホ呼ばわりされて、ジト目をカンクロウ君に送っていると素直に謝られた。

なに素直に謝ってんだよ気持ち悪いなあと悪態をつけば、うるせえよと野次をとばされる。


「あいつさ、小せえ頃はバケモノ扱いされて、今は立派に風影やってるけどよ、里の為を考えすぎて自分の事はからっきしじゃん。兄貴としては一人の男としての幸せ掴んで欲しいというか、な。あいつ女っ気がマジでねえし、心配じゃん。色んな意味で」

「…」

「上役から何度嫁を取れって迫られてもいらないの一点張りだしよ。それは多分、お前の存在があいつの中でデカイからなんじゃねえかと俺は思うんだよな。…だからよ、こんな事言うのはお前にとって重圧かもしれねえが、その、気にしてやってくれ。我愛羅の事」


やっぱり、カンクロウ君は前にも思った通り弟想いのいいお兄ちゃんだ。
多分私が我愛羅君をちょっと意識してるのにも気づいて言って来てるんだろう。
じゃないと自分の弟を遠回しにでも好きになってくれと言うのは完全にダシに使われているように思う。そんな事、多分カンクロウ君はしない。


「…我愛羅君には凄い萌え要素があるし、好きなんだけどさ、」


なんというか、実際に我愛羅君とそういう風になるのは想像がつかないというか、やっぱりまだ住んでる世界が違う気がして…と続けると、困ったような笑みを見せながら手元にあったコーヒーをカンクロウ君が飲む。


「まあ無理もねえじゃん。急いて悪かったな。あいつ見てると不器用すぎて。なんつーか、このままお前に何も言わねえつもりなんじゃ、とか思うんだよ」

「……カンクロウ君は好きな女の子がいたらすぐに告白しちゃうタイプなのか。だからなかなか手を出さない我愛羅君を見てるとモヤモヤすると。ふむ」

「なっ、てめえ人の恋路を勝手に考察すんじゃねえよ!」


わははは、とからかってみるとまんまとハマった様子で、図星ですと言っているような表情をしながら怒ってくる。
図星かよと追い討ちをかければタコさんよろしく顔が赤くなっていくのが面白い。


「お前こそ、たまに我愛羅の前で乙女全開みてえな表情してるじゃん!知ってんだぞ!」

「は、はあ?!してないし!ていうかこちとらいつも乙女だっつーの!」

「どこが乙女だ!減らず口ばっか叩くくせによ!」


今にもお互いに胸ぐらを掴み合いしそうな勢いでまた言い合いが始まったと思えば、店内にいる他のお客さんから、含んだような笑いが聞こえてきた。
だけどそんな事はお構いなしで、一体なんの言い合いなんだという様な口喧嘩を披露していると、突然肩を叩かれた。


「…何をしている。二人とも」

「が、我愛羅、」


振り向く前に、私の肩を叩いた人物の名前をカンクロウ君が口走った事で身体が固まった。
後半の会話は聞かれて困る様な内容では無かったが、何をしていると言われるとなんと答えればいいのか分からない。
目の前にいるカンクロウ君も、俺が言ってた事は我愛羅には言うな!という視線を向けてきていて、そんなの言える訳ないでしょーがと口パクで答えた。


「カンクロウ、お前は仕事が残っていたはずだが、」

「お、そうだったっけな?じ、じゃあ俺はこの辺で…」


そそくさと帰り支度をするカンクロウ君に、裏切り物のレッテルを貼り付け、目だけで悪いと謝ってくる様子に心の中で中指を立てる。
支払いを済ませてくれた後店を出て行ったカンクロウ君の後を視線だけで追うと、後ろから私の肩に手を置いていた我愛羅君から声がかかった。


「…カンクロウに何か言われたのか?」

「え、あ〜、」

「俺には…言えないか」


カンクロウ君が元居た席について、真っ直ぐ私に質問してきたかと思いきや、まごつかせている私を見て我愛羅君は少し顔に影を落としながら俯いてしまった。

い、言えない。
カンクロウ君が我愛羅君とはやくくっつけよなんて言ってきた事なんて言える訳ない。
どうやってこの場を切り抜ければいいんだよ、隈取り野郎がさっさと逃げやがって。

黙ったまま何も言わない私に、一体どうしたらそういう考えに至るのか不思議だが、我愛羅君は思いついたように喋り出し、それに私はこの後大声を上げることになる。


「……カンクロウとお前は、そういう関係なのか」

「は、はあ?!」


まるで子犬みたいな、顔を少し伏せながら言ってくる我愛羅君に、うわ萌えとか思ったが一旦それは置いといて。
一体この狸は何を言っているんだと、何故そうなったと、その真意を呆れ混じりに問いただしてみる。


「以前から仲が良いように感じていた。お前が帰れなくなった後、二人で偶にこうやって食事に行っていただろう」

「あ、いや、それはそうだけどさ、」


確かに、砂に戻ってきてから今までの数日間、何回か二人で食事はした。
だけど恋人同士の食事とかでは決して無くて、カンクロウ君の口から出る会話は我愛羅君の話とか、シンキ君の話で。
私が話す事と言えば今ではもう感じる事のできない会社での愚痴とか、思い出話などをしていただけだ。
きゃっきゃうふふみたいな事、一ミリもない。


「カンクロウにはお前の事について相談紛いな事をしていたが、カンクロウからするといい迷惑だった訳か」

「や、あの、一旦人の話聞こうか?」


まるでこっちの話に耳を傾けてようとせずに、思った事をポツポツと言ってくる目の前の狸に、呆れが頂点に達した所で盛大なため息を吐く。


「なんでそうなったかは知らないけど、私はカンクロウ君推しじゃないからね。違うからね」


小さい声で、推し…?という疑問が聞こえたが、今それは無視である。
なんなんだ、三十超えたおっさんが、何を中学生みたいな早とちりをしてるんだ。


「だが俺には言えないような話をしているんだろう、」

「…ぐ、だ、だから」


これは俗に言う嫉妬というやつなのか?そうなのか?
俺に内緒でなにコソコソ喋ってんだよ、という俺様な性格が滲み出ているって事でオッケー?

何故そんな目を向けてくるんだと言いたいくらい、さっきまでの悲しそうな子ダヌキの視線から、威厳のある少し鋭い視線に変わった事に狼狽えてしまい、思わずカンクロウ君から言われた事を吐露しそうになったが、それでは弟想いの兄の面子が立たないと、そこはグッと堪える。


「だから、なんだ」

「そ、それは言っちゃうとカンクロウ君が可哀想というかなんというか、」

「……そうか」


それは言えないんだよという事をなるべく波立たないように、諭すように言い聞かせててみると、分かったという風な返事が返ってきたので、やっと解ってくれたと心で安堵したのも束の間。


「お前達の関係をどうこう言う気はない。好きにしてくれ」


まるでもう聞きたくないとでも言っているかの様に立ち上がり、席を離れようとする我愛羅君の腕を咄嗟に掴む。

一体なんで私はこんな風に言われてるんだ。
例えるなら浮気がバレて詰められて、もう話は終わりだ、なんて言われてるような雰囲気じゃないかコレは。
私が悪い?私が悪いの?

私に掴まれた腕を振り払う事はせずに、ただこっちをジッと見てくる我愛羅君の態度というか哀愁漂う雰囲気にイラっとくる。


「だから話聞いてた?私はカンクロウ君推しじゃないんだってば。え、なんで私ちょっと怒られたみたいな雰囲気になってんの?話聞かない君に怒りたいんだけどこっちは。あと逃げやがった隈取り野郎にもキレたいね」


そうだ、全てはあの弟想いの兄のせいだ。そして不器用すぎるお前のせいだ。
さっさと彼女でも作って結婚でもしてればカンクロウ君が心配する事なんてなかったし、早くくっつけよなんて言われている現場を話の中心である我愛羅君に見つかって気まずい雰囲気に巻き込まれることなんか無かったのに。
ああ、なんだこの空気は。


「…すまない。干渉しないと言っておきながら、…俺は名前の事となると少し我を忘れてしまう様だ。本当に、これからは何も言わない」

「いや、違う違う。そういう事じゃなくて、だから」


まだ言うかと、どこまで早とちりで鈍感で、不器用なんだお前はと、言ってやろうかと思った最中、掴んでいた手をゆっくりと解かれ店を出て行こうとする我愛羅君に痺れを切らして追いかける。


「すまなかったな、邪魔をして。カンクロウにも俺から謝っておこ、……」

「いや、だから!カンクロウ君とはそういうんじゃなくて!私は我愛羅君が好きってさっきから…!」


追いかけて店を出たところで、背中に向かって無意識に口から出ていた言葉を最後まで言う事なく、両手で口を押さえた。
喫茶店の扉が閉まる音が、後ろで微かに聞こえた。

あれ、これ告白とかいうやつじゃね。
あれ、この後どうすればいいんだっけ。
誰か教えてくれ。