08

「ちょ、と」


我愛羅君に腕を引かれて、風影邸とは逆方向へ、自分の意思とは関係なく足が動く。

あれ、私なんでこんな状況になってるんだっけ。

ついさっき、ついに私から不本意ながら告白してしまったと思った瞬間、突然私の腕を掴み歩き出した我愛羅君。
聞こえていたのかそうじゃないのか、ただ黙って私の腕を引く我愛羅君の表情が見えなくて、戸惑うしかない。


「ね、どこ行くの」

「…」


砂隠れの里はそんなに広くない。
だけど私は風影邸と、雷車が停まる駅までくらいの道のりくらいしか知らなくて、里の中だけど知らない方角に連れて行かれている今、一体どこへ連れて行くんだと不安こそは無いが多少の苛立ちを覚えて腕を振り解こうとする。が、苦しくもそれは叶わなかった。


「…っ」


人というのは不思議なもので、不本意ながらも、好きだという事を口にすると、頭に留めてフワリとしていた想いが形になって自覚して行く。
手を引かれながら前を行く背中に熱を感じて、自覚した気持ちがどんどん大きくなった気がした。

あれ、私、我愛羅君のことやっぱり好きなんじゃん。


「……ここからは里全体が見える」

「え?あ、」


砂地を歩いて、丘を上がったところでやっと腕を解放される。
たどり着いた場所からは砂隠れの里が一望できる場所で、自分のいる位置の高さに少し身体が慄いた。
だけど見渡せばそんな怖さは吹っ飛んで、まさに絶景。里も一望できるし、里の外に広がる砂漠も、少し傾いた陽の光にキラキラ輝いていた。

わああ、すげええと、可愛げも無い声を上げながら、でもなんで突然ここに連れてこられたんだと、今は後ろにいる我愛羅君に振り向きながら疑問の目を向ける。


「…俺は、風影としてこの里を守りたいと思っている」

「、うん」


背の小さい私を視線だけで通り越して、目を細めて里を見ている我愛羅君。
それにつられて私も再度、里の方に身体ごと、我愛羅君の視線を追いかけるように振り向いた。


「そしてお前が元の世界に帰れなくなったあの日、お前を守っていきたいとも思った。昔お前が俺を守ってくれたように」

「う、うん」

「だがその思いはいつしか、俺の中で変わって行った」


真っ直ぐに里を仰ぎ見ながらポツポツと話をして行く我愛羅君の横顔をチラリと盗み見ると、砂漠を照らしていた陽の光が反射して、我愛羅君の顔を照らしていた。


「護って行きたいと思っていた俺は、いつからかお前を俺のものにしたいと、誰にも渡したく無いと思うようになって行ったんだ。だがお前はいつか元の世界に帰ってしまう。以前勢い余って想いを伝えた事はあったが、ひどく後悔してしまった。帰れなくなった今でも、俺の側にいつまでもいてくれるのかは分からない。俺が自分の想いを言う事で、お前を苦しめてしまうんじゃ無いかと、」

「…」

「守ると言っておきながら、それはお前を閉じ込めておきたかっただけなのかもしれないと、考れば考えるほど暗い闇に落ちて行く感覚に襲われた。親のように見守りたい気持ちと、自分のものにしたい気持ちが混ざって、どうすればいいのか分からなかった」


光が反射した我愛羅君の表情は伺えなかったが、声の温度を低くしながら話す我愛羅君に、不甲斐なくも心臓が跳ねる。
そこまで私の事を想ってくれていたのかと、今まで自分の都合で聞こえないふりをしていた自分が情けなくて嫌悪した。


「だが先ほど、お前の気持ちを知って、改めてお前に俺の心情を話そうと思った」


お前の気持ちを知った上で話す俺は狡い奴なんだ、と続けた我愛羅君になんて返せばいいのか分からない。
そのまま黙って俯いて、話の続きを促すと、不意に横にあった影が動いた気がして顔をそちらに向けた。
動いた影はこちらを向いていて、その真剣な眼差しに目が逸らせなくなった。


「先ほどのお前の一言ではっきりした。俺はこの里ごと、お前の事を一生守りたい。お前が良いのであれば、俺に付いてきてくれないか」


良いのであれば、という言葉はきっと最後の保険なんだろう。
断られた時の心の沈みが、少しでも和らげば良いと、無意識に保険をかけたんだ。
それでも淀みもなく自分の気持ちを伝えてくる我愛羅君に、全身が熱を持った気がした。


「つ、付いてきてくれとは、その、つまり、どういう」


言いたい事は分かっている。我愛羅君の気持ちも百も承知なのだが、私は少し物足りなく感じてしまって、遠回しにハッキリ言ってくれとわがままを呟く。
私はいつからこんなに我愛羅君を想っていたんだろうと、今更ながらに感じて少し笑えてくる。今笑う場面じゃないのは馬鹿な私でも分かるので表情には出さないけど。

私の問いで、次に来る我愛羅君からの返答は確実にソレだろうと、ソレしかないだろうと期待を心に秘めながら熱っぽい自分の頬を手のひらで抑えて、来ると分かっている言葉を待った。


「…なんと言えば良い」

「………………は?」



ちょっと待て。


「え、あの、え?それ私から聞く?」

「ああ、聞けるものなら教えてくれ」


待て待て待て。
え、なに言っちゃってんの?馬鹿なの?教えてくれとか言っちゃってるけどそんな恥ずかしい事言えるわけないよね。
女っ気ないって聞いたけど、女以前の問題だよね。
それとも私がおかしいの?
こっちの世界では付いてきてくれっていうのが恋人とか夫婦になるきっかけの一言なの?それが常識なの?
え、私わかんない。

唖然としすぎていただろうか。開いた口が塞がらない私の目に、少し慌てた様子の我愛羅君が映った。


「…すまない、俺は今までこういった経験が無いんだ」


視線を逸らして、自分の恋愛経験の無さを訴える我愛羅君の顔は完全に照れていて。
初めてその赤く染まった頬を見た私は今、なんだか無性に腹を抱えて笑いたい気分に陥った。


「…くく、我愛羅君、可愛いすぎ」

「…」


腹を抱えたい衝動に狩られた気持ちをグッと堪ると、含み笑いになって私の口から笑みが吐露していく。
なんで自分は笑われているのか、照れの表情から疑問の表情に変わった我愛羅君に、更に笑みが溢れる。

これは少し助け舟を出してやっても良いかなと、溢れる笑いを深呼吸によって止めてから口を開いた。


「、我愛羅君はさ、私とどうなって行きたいの?」

「……お前には側にいて欲しいと、そう思う」

「いやいや答えになって無いじゃん。…んー、例えばテマリちゃんとシカマル君みたいな関係になりたいとか、別にそこまではまだ考えてないとか、そういう事を聞きたいなー、なんて」


側から見ればこの人たちは一体なんの会話をしているんだと思われるだろう。私だって思うんだから。
まるで我愛羅君の恋愛相談に私が乗っているような口ぶりだが、ここまで言えば流石に分かるだろうと、ダシに使うようで申し訳ないが、例として奈良家の夫婦を持ち出した。

その夫婦の話を持ち出した瞬間、ハッとしたような表情になった我愛羅君に、ん?と小さく首をかしげる。


「…すまない。ここまでお前に言わせてしまって、突然聞き返されて何を言えば良いのか分からなくなってしまった、」

「っ、わ、ちょ、っと」


突然、目の前を覆われたと思ったら身体が圧迫感に襲われ、我愛羅君に抱きしめられているんだと気づいた。
この腕には何度も抱きすくめられたが、こんなにも我愛羅君の心臓の音が早く聞こえるのは今日が初めてで、その早さにつられるように私の鼓動も早くなった。


「どうなりたいかと、お前は聞いたな」

「う、ん」

「一度しか言わない。聞いてくれるか」


丁度耳の上辺りから、吐息が混じった低い声が響いてきて、瞬間的にこの前見た夢を思い出してしまった。
一度しか言わないと言う我愛羅君に、夢を頭から追い払いながら頷くと、名前、とまた低く囁かれて身震いと共に何、と答えた。




「結婚してくれ」