09

我愛羅君に結婚してくれと言われて、はいと答えてから一夜が明けた。

昨日の夜は大変だった。
我愛羅君の、皆に報告しようの一言で、所謂家族会議のような時間が設けられ、突然すぎる事にカンクロウ君は驚きを隠せないようだったが、最後には我愛羅君に良かったな!と声をかけていた。
シンキ君はいつも通りのポーカーフェイス具合で、特に異論はなかった様子。
まるで婚約した両家の顔合わせよろしく重たい空気の中での話し合いだったので、流石の私もいきなり、お母さんって呼んでね!など能天気な事が言えるはずもなく、小さくよろしくとしか言えなかった。

そんな話し合いも終わって夜布団に入った時は、本当にこれで良かったんだろうかなんて、今更な事も考えたが、あんなに好きだったキャラクターと晴れて結婚なんてと考えると、ニヤニヤが治らなかった。

あれよあれよという内にこんな風になったが、なんやかんやで内心嬉しく思い昨日はぐっすり眠れた。


「名前、」

「あ、お、おはよう」

「今日は忙しくなる。起きて出かける準備をしてくれ」

「は、?え、出かけるってどこに」


まだ目が覚めてから数分と立っていないであろう私の頭はまだ半分夢意識で。
すでにいつもの風影様の格好をしている我愛羅君に布団を剥ぎ取られ無理やり覚醒させられる。


「色々、少し面倒だが付き合ってくれ」


いやどこに行くのかって聞いたんだけど、無視かよ。
そんな事より面倒ごとなら断りたいと思って、あからさまに嫌な顔をしてみせると、一番の目的は役所だが、と少し顔を赤らめて言うもんだから飛び起きた。


「おお…!それか!」


行く行く、と言いながらベッドがら這い出て寝室を我愛羅君と一緒に後にして、とりあえず顔洗うからと洗面所を目指す。


「というか役所、ってあるんだね」

「昔は無かったがな。今は戸籍もきっちり管理されている」

「へえ。あ、準備できたら執務室まで行こうか?」


それとも着替え見てく?と、ニヤニヤしながら我愛羅君に言ってみると、サラリと交わされた。
なーんだ、つまんないのーと唇をワザとらしく尖らせて、たどり着いた洗面所の扉を開けようとすると後ろから腕を掴まれた。


「な、何」

「一つ、昨日言いそびれた事がある」


ん?と、振り向くと同時に口にしようとすると抱きしめられる。


「ちょ、っと」


ぐい、と身体を腕の中に収められ、空気が上手く吸えなくなったと思った刹那、愛している。と耳元で囁かれて私の頭は完全にショート。
朝からそんな事をされては完全に意識してしまってこの後出かけるどころではなくなってしまうと咄嗟に思った私とは裏腹に、言いたかった事が言えて満足なのか、抱きしめていた身体を離した後、準備ができたら執務室まで来てくれと飄々と言ってのけ、そのまま行ってしまった。


「………あのやろ〜〜〜」


恋愛経験無しとか言ってたのに、なぜ奴はああも人を恥かしめる事に長けているのか、謎すぎる。
あれがワザとじゃなくて無意識ならとんでもない。

朝から悲惨な目にあったと、上気した顔を冷ます為、洗面所に入りそそくさと蛇口を捻ってから、冷たい水を顔に思いっきり浴びせた。









「おーい、準備できたけど」


顔を洗って寝癖を整え、以前買ってもらったメイク道具でちゃちゃっと顔を作ってから適当な服に着替え執務室の扉を叩いた。
役所に行くくらいなら別にどんな服装でも構わないだろうと、いつも通りの服装で来たが、トキメク乙女たちはきっと、ただ役所に行くだけでも気合いの入った格好で行くんだろう。
でも私には勝負服みたいなそんな服は持ち合わせていないのでいつも通り。これでいいんだ。


「名前、早かったじゃん」

「ふあ、カンクロウ君、おはよー」


執務室の中には我愛羅君と、カンクロウ君も居て、あくびをしながら執務室に入って来た私にシャキッとしろよと注意を入れて来た。


「では行こう。カンクロウ、俺たちが戻ってくるまでに会議室に上役達を呼んでおいてくれ」

「おお。まあゆっくり行ってこいよ」


ん?上役、呼んどく?
このあと会議なのかな?我愛羅君やっぱり忙しいんだね、なんて自分には関係のない事と勝手に決めつけ、部屋から出て行こうとする我愛羅君に付いて行く。
カンクロウ君に手を振ってから扉を閉めた。


「ねえ、役所に行くって事はさ、もしかしてもしかしなくてもアレを提出するんだよね?」

「…アレとはなんだ」

「いや、婚姻届の話だけど」


まさかこの世界に婚姻届けという紙切れは存在しないのかな、と一瞬頭を掠めたが、我愛羅君の短い返事によってやっぱりあるんだという結論に至った。のだけど。


「ていうか私ってさ、婚姻届けに書く住所とかないんだけど。そもそも戸籍ないんだけど。いや元の世界にはあるけどさ。あ、死亡してるからもう無いんだけど、とか言ってる場合じゃ無いけど、戸籍、どうするの?」


役所に行くと言われて、届けを出すんだな、とすぐに思いついた私が少し引っかかっていたものに今ようやく気づいた。私、この世界の人じゃなかったんだった。
私の世界なら、婚姻届けを出す際には戸籍謄本が必要だったりした気がする。いや結婚した事無いからよくは知らないんだけど。

戸籍もきっちり管理されていると我愛羅君は言っていたので、結果役所に行くとお前は誰だ状態になる。不法入国者として逮捕とかありえなくもなく無いか。
え、めちゃくちゃ嫌なんですけど。


「心配ない」

「え、?」


歩きながら頭を抱えて逮捕後の生活を想像して額に青筋を浮かべていると、いつも通りの無表情が喋った。


「大丈夫、って。我愛羅君さっき戸籍はきちんと管理されてるって言ってたじゃん」

「ああ。だが問題ない」


一体何がどうなれば問題が無くなるのか、非常に謎だが、今は風影として里の皆から信頼されているであろう我愛羅君の一声は鶴の一声と言っても過言では無いと思うし、まあ、そんな我愛羅君が問題無いと言うんであれば問題は無いんだろうと、気にしないことにした。