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突然の、耳をつん裂く様な大声での謝罪に、会議室にいた全員がざわついた。
なんだいきなりとか、色々聞こえるがそんな事は関係なく謝罪を続ける。
「風影さ、…主人が失礼な発言をしてしまい申し訳ありません…!大変遺憾に思われたと、主人に変わって謝罪いたします…!」
「名前、お前が頭を下げる必要など、……」
「ちょっと黙ってて、!」
私はただ、こんなしょうもない言い合いを早く終わらせたいだけだ。
このまま放っておいても、いずれはどちらかが言いくるめられて終わるだろうけど、こっちが謝って済むならそれでいい。
頭を下げる私を、我愛羅君は止めようとするが、私はその制止を振り切って頭を下げ続ける。
「折角ご紹介していただいた縁談話も蔑ろにしてしまい、申し訳ありません!勝手な事を申し上げますが、私は主人、風影様に生涯付きそうと決めた身ですので、縁談を進めていただく訳には参りませんが、もし大名様の元へ赴く事をお許しいただけるのなら私が直接謝罪致します!……ですので、今回の失礼をどうかお許しいただけないでしょうか……!」
よくもまあペラペラと、思ってもいないのに次から次へ謝罪文が浮かぶもんだと、自分に拍手を送りたくなる。
こんな事をして、お門違いも甚だしいかもしれない。
プライドもクソもないし、我愛羅君のプライドさえももしかしたら傷ついてしまっているかもしれない。
だけどお偉い人たちにはこういう謝罪が一番効く事を私は元の世界で学んだ。
「そこまで言わなくても……」とか、そんな言葉を言わせればこっちの勝ちだ。
それが聞けるまで、ただただ平謝りをしていれば、こんな面倒くさいやりとりは直ぐに終わるだろうと踏んで私は頭を下げ続けた。
だけどまあ、私の世界の偉い人たちと、こっちの世界の偉い人たちっていうのはハナから考え方が違うかもしれないので、これで許してもらえなかったら次はどうしようかと、頭を下げたまま至極冷静に考える。
そうしていれば、舌打ちと共に「もういい」と怒っていた上役の男性の声が聞こえた。
「……頭を上げろ。お前に免じて風影の失言は許してやる。話は終わりだ。皆解散せよ」
許す、の言葉が聞こえた瞬間思わず、ッシャオラァアアア!と叫びそうになったのをグっと堪える。
頭を下げたままにしておいて良かった。今の私の顔はきっとしてやったり顔でニヤついている。
そしてそのまま、上役達がゾロゾロと音を立てながら、会議室を後にしたのを確認して、そこでようやく頭をあげた。
「ぷはあ」
「お前、何者だよ」
頭をあげたのを見て、すかさず声をかけてきたのは隣に座っているカンクロウ君。
お前やるときゃやるんだなと、一体どこまで馬鹿な奴だと思われていたのか知らないけど、やってやったぜとピースしながらカンクロウ君に笑顔を向ける。
「あんな謝り方されたらもう何も言えねえじゃん。上役共全員が驚いてたしな」
「はは、偉い人には下手に出て悪くなくても謝る、そしてとことん媚を売るっていうのが悲しきかな、社会人には必要だったりするよね」
「お前がいた世界もなかなか大変なんだな……」
それはそうと、私には色々問いただしたい事がある。
今だ立ったままの、今回の問題の発信源である我愛羅君にだ。
カンクロウ君の方を向いていた身体を我愛羅君の方へと向かせ、おいコラ、と少し物騒な声をかける。
「我愛羅君、あんな口答えして、なんでそんな事したのさ」
「……思った事を口にしただけだ」
「いやダメだよ、急に喧嘩売るような真似したからびっくりしたじゃん。咄嗟にしちゃった事だけど何で私が謝罪しなくちゃいけないのって思っちゃったよ」
「お前が勝手に謝罪をしただけだろう。頼んだつもりはない」
「……!」
あーもう怒った。怒ったよ私。カチンときたよ。
確かに勝手にした事だけども。そうだけども。
じゃああのまま放って見てたら良かった訳か。
目上の人に喧嘩売っといて、更には上から言いくるめて、今回はそれで収まったとしても、ああいう人たちは影からネチネチと悪戯に悪さしてきたりするかもしれないって、なんでそう思わないの。
喧嘩売ったのはこっちなんだから素直に謝れば済む話じゃんか。
それじゃダメなんですかそうですか。
「大馬鹿野郎だよ君は」
ツーンと、唇をワザとらしく尖らせて、そっぽを向いてみせる。
ついさっき、役所にいた頃はあんなにいい雰囲気だったものが、もうすでに喧嘩状態。
我愛羅君は相変わらず無表情で、何考えてるのかいまいち分からないけど多分腹の中では勝手な事するなとか思ってんだろう。
そんな様子を見ていたカンクロウ君がおずおずと私達二人に声をかけてくる。
「お前ら早々に喧嘩してんじゃねーよ全く。我愛羅もあんまり上役に盾突くなって。やり難くなるのはお前なんだからよ。今回は名前に助けてもらったじゃん」
「……」
呆れ顔で言うカンクロウ君に、我愛羅君は何も答えず、戻るぞと一言残して会議室を後にする。
カンクロウ君も私も慌てて追いかけるが、会議室に残っていたもう一人の人物に呼ばれて、私だけ立ち止まり声をかけてきたその人の方へと身体を向ける。
「あの、何か」
その人物、バキさんを見据えれば、ジィっと私を見たまま黙っているので気まずい。
堪らず、あの〜と声をかけると低い声で、我愛羅を、と言ってきた。
「?」
「我愛羅を、よろしく頼む」
「へ?」
鋭い視線を向けてくるものだから、怒られたりするのかと思いきや、まさかの発言に間の抜けた声を上げてしまって焦る。
「あ、ああ、ええっと、こちらこそ、よろしくお願いしま…す?」
言っている途中でこの返事は合っているのかと、疑問形になってしまった。
それにうろたえてしまってゴニョゴニョと言いながら少し俯くと、フッとバキさんが笑った声が聞こえて顔をあげる。
「我愛羅は少し気難しい奴だが、お前なら大丈夫だろう。シンキの事もよろしく頼む」
「あ、は、はい!」
さっきまでとはまるで別人のような、柔らかい表情を向けられて、安堵する。
この人はずっと我愛羅君とかを近くで見てきたんだよなあ、もはやお父さんみたいな感じなんだろうと勝手に考えて、そのお父さんに受け入れてもらった事がすごく嬉しい。
「名前、行くぞ」
閉まっていた会議室の扉が開いた音が後ろから聞こえて振り向くと、我愛羅君が少し開いた扉の隙間から顔を覗かせて私を呼んでいて、バキさんに軽く挨拶をしてから会議室を後にした。
「バキと何を話していた」
「内緒ー」
執務室に向かい廊下を歩きながら、バキさんとの会話を思い出して、さっきまで我愛羅君と喧嘩してた事が嘘みたいに気分は上々だ。
自分でも気分屋が過ぎるなと思うが、別にそれでいい。
「あ、我愛羅君、お腹すいた?なんか作ろうか」
「……ああ」
そういえば私は朝から出払っていて何も食べてない事に、微かに鳴った腹の虫で気づいた。
廊下にある小さな窓から外を覗いてみれば太陽は真上で輝いていてる。
「じゃあ用意できたら執務室まで呼びに行くよ」
それに対して短く返事をくれた我愛羅君に、後でねと言い残し、私はキッチンがある部屋へと入って、何食べようかな〜と考えながら昼食の準備に取り掛かった。