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「シンキ君、行ってらっしゃい」

「…ああ」

「行って、らっしゃい」

「………行って来ます」


朝、朝食を終えてから任務に行くシンキ君を送り出す。
最近は毎日見送っていて、その際に必ず、私の行ってらっしゃいの言葉に対して、行って来ますと言ってくれるまで腕を掴んで離さないようにしている。
行ってらっしゃいと言われたら行って来ますと返すのが当たり前だろう。

言葉足らずの我愛羅君の元にずっといたシンキ君は、まるで我愛羅君の生き写しみたいな感じなので、挨拶くらいは叩き直したいと始めた事だ。

今日も渋々だが、最後には行って来ますと言ってくれたので掴んだ腕を離して笑顔で見送った。


「名前、シンキはもう行ったのか」

「うん、行って来ますって言ってくれたよ。なに、シンキ君になんか用事?」

「…ああ、少しな」

「ふーん。ま、帰って来てから言いなよ」


一体なんの用事だろうと気にはなったが、忍者云々の用事だと私には分からないから特に聞き出すような事はせず、我愛羅君も頑張ってねと言い残し、私は洗い物と洗濯をするべく先ほど朝食を取った部屋へと向かう。


「うーん、そろそろ布団も干したいな」


部屋に向かう廊下を歩きながら何をしようか考えていた時、前からカンクロウ君ともう一人見覚えのある人が一緒にこちらへ向かって来るのが見えた。


「見つけた、探したじゃん」

「シンキ君見送って来たんだよ、なんか用事?…そっちの人は、」


カンクロウ君の横にいる人に視線を漂わせれば、ペコっと軽く腰を曲げて会釈され、それにつられて私も腰を折る。
この人は確か…ていうかカタスケさんだよね。何でここにいるんだ。


「初めまして、私、木の葉で科学者をしております。カタスケと申します」

「あ、初めまして…、名前です」


一方的にカタスケさんを知っている私は思わず、辿々しい挨拶になってしまった。
名前さんですね、と私の名前を確認するように復唱しながら、えっと、など呟きながらチラチラこちらを伺って来るので、ああ、と思い出したように私は口を開く。


「立ち話もあれなんで、部屋……」


とは言っても応接室的な場所を勝手に使って良いんだろうか。
一回執務室行っとく?いやでもカンクロウ君もいるし別に良っか。

こっちに来てから来客対応なんて初めての事でどうしようかと戸惑ったが、何か言われたらカンクロウ君に全部押し付けてしまおうと応接室まで案内することにした。


部屋の扉を開けて、三人で入った後、ソファに座るようカタスケさんに促してから自分も対面している側のソファに腰を落ち着かせると、カンクロウ君も私の隣へ座って来た。
長くなったら嫌だなあ。


「それで、私に何か用ですか?」

「そうなんです。以前の中忍試験後に風影様がお一人でコレを私の元に持ってこられて」


ス、と両者の間にあるテーブルに置かれたのは、紛れもない私のスマホ。
中忍試験では色々な事がありすぎて、携帯の存在をすっかり忘れてしまっていた。この人が持ってたんかい。


「忘れてましたコレの存在!無くしてなくて良かった〜!」


置かれた携帯を手に取り、いつも通りにボタンに触れてみると画面が明るくなり、充電はされているんだと認識。
そのままホーム画面を見てみると、私が知っているアイコンの羅列ではなくなっていて、アレ?と呟きながらカタスケさんの方を見据えた。


「もっといっぱいアイコンありませんでした?なんか、最小限なんですけど」


SNSとか、画像編集するようなアプリとか、ゲームとか、自分でインストールしたアプリ達のアイコンが見当たらなくて、画面の中は簡素的になっている。
電話、メール、写真、連絡帳、と、まるで初期化した時のようだ。


「以前にも風影様は同じ機械をお持ちになられてですね、ソレと同じように、使用できるようにしてくれと頼まれまして、少しイジらせていただいたんですが…名前さんは聞いておられませんでしたか?」

「はあ、聞いてませんでしたけど…」


まさか初期化されているとは思いもよらなくて少しがっくりしてしまったが、すぐに気持ちを切り替えて手元にある携帯の画面をよく見てみる。
さっき一瞬見たときは気づかなかったけど、よくよく見てみれば電波のマークがちゃんと点いていて、思わず、おお…!と声をあげた。


「電波!ある!きゃー!これって電話もメールも使えるって事でよね?!」

「え、ええ。なかなか見た事ない回路が沢山ありましたので苦労しましたが、以前風影様が持ってこられたものと作りは同じようでしたのでそんなに時間はかからず、我々のネットワークを使えるようにできました」

「おお…!すげえ!さすが科学者!ありがとうございます!」

「…それでですね、その機械の出所と言いますか、今は消えてしまっている他のアイコンの事などを詳しく伺いたいと思いまして、」


文字通り、お伺いを立てるように聞いて来るカタスケさんの言葉を聞いて、言葉が詰まる。
携帯の出どころなんて、言おうもんなら私がこの世界の人間じゃない事から順をおって話さないといけなくなるし、どうしようかとカンクロウ君の方を見ればゆるく首を振られた。
言わない方がいいって事かな。


「あ〜、出どころ、はちょっと企業秘密なんですけど、アイコンの事ならちょっとだけ…なら良いのかな」

「是非!あのアイコン達は一体どこで生成されその小さな機械の中に表示されているのか、それが一番気になるところではありましたから!」


折角使えるようにしてくれたんだし、お礼と言ってはなんだけど、少しくらいなら話しても良いよねと勝手に考え、カタスケさんの言う今は無きアイコン達に点いて少し話す。


「私もよくは知らないんですけど、えーっとですね、」


私は携帯を作っている人でも無いし、機械の仕組みとかは分からないが、このアイコンが一体どこから来てみたいな話は一応できるので、それをゆっくり話していく。
確かこの世界の今はパソコンもあるしメールも使ってる。それにさっきネットワークとかカタスケさんは言ってたし、そういう概念はある程で、
ゲームやら何やら、色々な事ができるアプリケーションというものがネットワーク上で配信されている事、
それをこの携帯の所有者が好きなアプリを選んでこの携帯に入れる…インストールをすると、このアイコンが表示されて、ゲームとかが出来るようになるという事、
インストールさえしてしまえば電波が無い場所でも使えるもの、そうで無いものの事など、本当になんとなくしか分からないけどポツポツと話している内、カタスケさんは目をキラキラ輝かせながら、なるほど!と言った。


「それではあのアイコン達はこのスマートフォンという機械にとって言わば知恵のようなものと言う訳ですね!」

「うーん、平たく言えばそうですかね、…これくらいしか知らないですけど、こんなもんで良かったですか?」

「もちろんです!なるほどネットワーク上の世界を広げれば全世界どこにいても我々の開発したものが使える、と言う事…素晴らしいです!」


ありがとうございます!と割と大きめの声でお礼を述べながら握手を求めて来るのでそれに応じる。
日本てよっぽど化学が進歩してたんだなと改めて感じながら、未だにウキウキワクワクしてる目の前の眼鏡のおじさんを見て苦笑いを浮かべた。
多分カタスケさんが日本に来てたらもう楽しくて仕方が無いだろう。


「今日はどうも貴重なご意見をありがとうございました!あ、そのスマホの連絡帳に私の研究室の番号を登録しておきましたので、不具合などありましたらいつでも!」


立ち上がり、帰るらしいカタスケさんを部屋の扉のところまで送っていると、まさかの連絡先登録してる発言に少し驚いた。
けど、この人の開発が進めばいずれゲームとかそう言うのもインストールさせてもらえるかもしれないと思い、分かりましたと返事をする。
ていうかもう既にスマホって言ってんの面白い。


「では失礼いたします!あ、見送りは結構です!部下を外で待たせているので!」

「あ、分かりました。じゃあ、」


片手を上げて、テンションも下がらないまま風影邸の出口まで颯爽と歩いて行く様子を後ろから眺めて、見えなくなったところで未だにソファで座っているカンクロウ君の元に行くと、あいつ変な奴だなと呆れ顔で言っていた。


「嵐みたいな人だったね」

「ああ、それにしてもお前らの話、俺には何言ってんのかさっぱりだったじゃん」

「私の世界の科学者たちは凄いという事だよカンクロウ君」

「なんでお前が偉そうに言うんだよ、お前は凄くねえだろ」

「え、うっさ。でも私の言った事をすぐ理解してくれたカタスケさんも凄いよね。相当賢いよ見た目アホそうなのにあの人」


カンクロウ君が座るソファとは反対側の、さっきまでカタスケさんが座っていたソファへ腰掛けながら純粋に思った事を言うと、お前それただの悪口じゃんと笑いながら言われた。

いつまで経ってもソファから腰を上げず、終いには横になって項垂れているカンクロウ君に、そういえば任務とか無いの?と聞くと、今日は休みらしい。


「カンクロウ君、休みとかあるんだ」

「俺だって人間じゃん。休ませてくれよ」


参謀も疲れるんだよとか言いながら、このまま寝てしまいそうな勢いだったので、休みなら彼女に会いに行けば?居るのか知らないけど。と嫌味を吐いてやる。


「んなもんいねーよ」

「うわあ可哀想」


どうやら私の嫌味に対して怒って来る元気もないようで、目を瞑ったまま適当に返事をして来るカンクロウ君に、つまんないのと呟いた。

でもいつも忙しそうにしてるし、疲れきってるんだろう。
何かシーツでも持ってきてやるかと、応接室を後にした。
あ、私優しい。