暖かい人たち

「……」

「どした?」

「い、いえ、えーっと、」


なすがままに連れて来られた、火影様の家。
そして直ぐに案内されたのは電話の前。

正直なところ、わざわざ木の葉まで迎えに来てくれる知り合いなんていない。
さっきは適当に言ってしまったが、家族も恋人なんてのもいない私はただの孤独そのもの。
仲が良いといえば、八百屋のおばちゃんくらい、だろうか。

電話の前で、受話器を取るだけ取って微動だにしない私を、横から火影様はジッと見て来ていて、今更、知り合いなんて誰もいませんと言うのも気が引ける。


「えーっと、………番号が思い出せません…」


不意に口から出た、次なる嘘。
だけど理には叶っているだろうと、無意識ながらも自分よく思いついたと内心思う。
これで電話の件は回避して、砂へと帰る為の方法をまた考えればいいと、割と呑気な考えが浮かんだ瞬間、おもむろに手に持っていた受話器を取り上げられた。


「あ、」

「番号が分かんねえなら、その知り合いって奴の名前と住んでるとこだけ教えてくれってばよ。我愛羅にそいつを探してこっちまで来てくれって、言ってもらうよう俺が頼んでやっから」

「え?」


ニカッと歯を見せて笑う火影様は、言いながら電話の下にある引き出しから電話帳なるものを取り出し、「か、か、」とかなんとか呟きつつ、風影様の名前を探しだした。

まさかそう来るなんて思いもよらなかった私は、完全に頭が真っ白になる。
だって知り合いなんていないんだ。風影様に一体誰を探させるって言うんだ。

どうしよう、誰か適当な人の名前を言って……いやだめだ。もしその名前の人がいたら訳のわからない事になってしまう。
風影様の連絡先を見つけた様子の火影様は、私の考えなど露ほども知らずボタンを一つ一つ押していき、ついには発信音が、火影様の持つ受話器越しに聞こえて来た。


「……お、我愛羅、急にすまねえな!」


もう本当に、今更な事は言えない。
受話器に向かって陽気に話しだした火影様をチラリと盗み見、もうこうなったらまた嘘をついてしまう事になるけど、仕方ない。


「あ、あの…!思い出しました!私の知り合い、先日から旅に出ちゃって砂の里にはいないんでした!」

「は?、あ、我愛羅、ちょっと待ってくれってばよ」


突然口を開いた私に驚きつつも、受話器の向こう側にいる風影様に一旦待ってもうように伝えた後、火影様は「他には知ってる奴いねえの?」と聞いて来る。


「い、いません…すみません」

「…あー、分かった。じゃあ仕方ねえ、俺がなんとかしてやっからよ、とりあえず今日は泊まってけ。な?」

「、……」


どこまでも親切にしてくれる火影様に、それでも素直に頷く事ができない。
そんな私を余所に、風影様へと意識を向け、また受話器越しに話しだした。

泊まっていいものなのか、忍者にここまで世話になって、いいものなんだろうかなんて家までついて来ておいても尚、そんな考えが浮かぶ。


「おい、姉ちゃん、砂隠れから来たんだろ?」

「わ、…あ、はい、そうだけど」


ぼんやりと、自分の考えに浸りながらただ受話器へ話しかける火影様を見ていると、突然、目の前に私を助けてくれた忍者少年、もとい、火影様の息子の顔がドアップで映し出された。


「我愛羅のおっちゃんってさ、養子取ってんだろ?」


我愛羅のおっちゃんって、風影様はこの少年にそんな風に呼ばれてるのか。
興味津々、といった風に、その養子とやらの事を聞いて来るが、残念ながら私はそんな事知らない。
それをそのまま息子くんに伝えると、「チェ」とでも言いそうな表情に変わり、元々座っていたんであろうソファの方まで行ってしまった。
え、なんなんだ。



……

それから、火影様の家族四人と私、というなんとも奇妙な面子での食事。
泊めてもらうだけでも迷惑だと言うのに、食事まで頂く訳にはいかないと、結構ですの一点張りだった私を丸め込んだのは火影様の娘であるヒマワリちゃん。
可愛い顔して「一緒に食べよ?」なんて言われちゃ、断るわけにもいかないと、渋々席に着いた。

そして始まった、息子君(ボルト君と言うらしい)からの質問攻め。
彼は行ったことのないらしい砂隠れの里について、私に「どんな里なんだ」とか「砂漠ってどんな感じだ」などなど、そこまで気になるなら火影様に連れて行って貰えばいいのにと思うくらいの質問を投げかけてこられ、真面目に返すのも面倒になり「ただの砂漠だよ」と返すやりとりを何度も繰り返した。



「それで姉ちゃんはさ、なんで料理人になったんだ?」

「え、」


食事が始まってから今まで、砂隠れの里の事しか聞いてこなかったボルト君が、突然私の事を聞いて来て、思わず箸が止まる。
なんで私が小料理屋をしている事を知ってるんだと、少し考え、そういえば助けてもらって火影様が現れた後、私の事を説明していた気がする。


「両親が、……残してくれた店だから、私が受け継がなきゃ、って思って」

「お前の父ちゃんと母ちゃん、死んでんのか?」

「、ボルト…!……ごめんなさい、不躾よね」


唐突な、心臓を鷲掴みにして来るようなボルト君の発言に、身が固まる思いだったが、
慌てて謝罪をして来る奥様に「大丈夫です」と仕事モードの表情を向けた。


「両親はね、私がボルト君より少し幼いくらいかな、その時に亡くなってるよ」

「……そっか」

「もういいだろボルト」


仕事柄、「家族は?」と聞かれる事は慣れている。
こんな風に、忍者の人に話すのは初めて、…いや火影様と風影様には、忍者だと知らなかったとはいえ話したから二回目か。
憎いと思っている相手に、両親の事を話す時が来るなんて、なんだか自分でもよく分からない感情に苛まれた気がした。


火影様の制止を受けて、黙ったボルト君を見ながら早々に食事を済ます。
そして食事が終わった後は特に会話も無く、既に皆終わっていた食事の後片付けをしながら、ボルト君とヒマワリちゃんはテレビの前、奥様は洗い物をするべく台所へ。
残った火影様は私に今日の寝床まで案内してくれた。