沈黙のあとに
「……」
「……」
う…
き、気まずい…。
風影様に木の葉まで来てもらって、帰りの雷車の中。
私が先に乗り込んで、座った所。何故か隣へと腰を下ろした風影様が無言すぎて気まずさが辺りを包む。
というかなんで隣なんだ。
こんなに広い車内、向かい側でも良かっただろうに。
ていうか…!なんで他に誰もいないんだ!
風影だから?風影だからなの?!
まさか貸し切り?!そんな事できるの?!
「…どうした」
「え…?!い、いえ、」
きっと私がキョロキョロと辺りを見だした事が気になったんだろう風影様は、不意に声をかけてくる。
足を組んで、片肘を背もたれに掛けながら顔だけをこちらに向けてくる風影様と視線が重なった。
「この車両には誰も来ない。砂までは暫くかかる。好きに休んでいればいい」
「…はあ。……あ、あの、風影様、…すみません」
やっぱりこの車両に誰も居ないのは、風影様だからなんだなと、考えながら、そういえば来てくれた事に関してきちんとお礼を述べていなかったと思い、ありがとうございますと言おうとしたのだけど口をついて出たのは謝罪の言葉。
「…お前に礼を言われる事はあれど、謝罪をされる道理はないが」
「す、すみません…あ、」
また謝ってしまったと思った時にはもう遅い。
私の言った二度目の謝罪に、少し眉間を寄せた風影様はそのまま私から視線を外し、前方を向いた。
やっぱりここは礼を言わないとダメだったよね。
絶対的に暇ではない風影という立場の人が、わざわざただの一般人である私なんかを木の葉まで迎えに来てくれて、礼を言わないなんて普通は有り得ない。
そして私はそれが言えていない。
ああ言わなきゃ。
「か、風影様、」
「…なんだ」
「わざわざ、ありがとう…ございます。私なんかの為に。費用はお返ししますので」
風影様の方は見れず、自分の膝に置いた両手を見ながらやっと言ったお礼の言葉。
木の葉まで来てくれた費用は勿論返すと言う事も付け足した。
本当はきちんと目を見て言うべきなんだろうけど、気まずさなのか恥ずかしさなのか、よく分からない感情が邪魔をして、結局俯いたまま言う事になってしまった。
「…気にしなくていい。自里の者が困っているのを見過ごす訳にはいかないからな。費用の事も気にするな」
「い、いえ、そういう訳にはいきません」
懐が広いというかなんというか。
正直な気持ちだと、費用をまかなってくれるとうのは非常に嬉しい…事なのだが、流石にそれを素直に受け入れるのは無理だ。
それは相手が忍者だから、風影だから、貸しなんて作りたくないという理由が大きいが、心の奥底で生まれた「ここで終わりたくない」という気持ちから、また会う口実を作り上げてしまっているようにも思えた。
だけど結局、風影様は「いらない」と言うんだろうと思った矢先、聞こえたのは意外な言葉で。
「…では別で何か礼をしてくれ。なんでもいい。それでどうだ」
「へ、お、お礼ですか」
これは素直に受け取っておくべきだったかななんて、一瞬にして私の頭の中は算盤を弾く音でいっぱいになった。
迎えに来させたのと、費用に対する礼など、一体どれほどのものを用意すれば良いのか。頭の中の算盤は、木の葉までの費用よりも大きな金額を弾き出した。
性格が悪いのは商売人だからご愛嬌としてくれ。
「…いや、すまない、見返りを求めている訳では無いんだ。…いや、これだと求めている事になるか。忘れてくれ」
「あ、いや、見返り求めて当たり前ですし、お礼はします。親切にしていただいたんだし…。でも何をお返しすればいいのか、……あ」
算盤を頭で弾いていた所為で黙りこくってしまった私に、少し慌てた様子で謝罪をしてくる風影様。
しまった。気を遣わせてしまった。
そう思い私も慌てて、お礼はすると伝えるが、本当に何を返せばいいのか分からなくて、それを独り言の様に呟いた最中、ピンと来て風影様の方を向いた。
「あ、何かお役に立てる事はありませんか。折角なら風影様のして欲しい事とか、あれば。できる範囲内ではありますけど、」
再び合わさった視線を逸らす事なく、思いついた事を述べる。
これなら物を渡すとかしなくて良い、し、お礼としてはこの案はいいと思う。
例えば風影邸の掃除とか。そういうやつ。
希望を聞いて、それをした方が嬉しいだろうと思う。
だけど風影様の口から出たのは、私が思っていた様な事では無くて。
「…そうだな、では、お前が何故、忍を嫌うのか聞かせてくれ」
「え、」
まさかそんな希望が来るとは思ってもみなくて戸惑ってしまう。
何かお手伝いとか、私の店で好きなだけ食事するとか、そういうのを言ってくると勝手に思った上での提案だったから。
なんで、そんな事を聞きたいんだろうか。
別に聞いたってなんの得にもならないだろうに、流石は里の長といったところなのか、一般人である住人の心のケアまでするのが風影というものなのだろうか。
ぐるぐると、そんな考えが浮かんで、だけど希望を聞いておきながら「できません」というのはなんだか気が引ける。
まあ、できないといっても怒られはしないだろうけど。
そもそも私は風影様に、忍は嫌いだなんて一言も言っていない筈なんだが、きっと火影様が、忍と関わりたくないと言った私の言葉をそんな風なニュアンスで風影様に言ったんだろう。
世話焼きなんだかお節介なんだか。
「…嫌いと言われて、忍である風影様は不快な気持ちにはならないんですか」
「嫌うにも何か理由があるんだろう。俺はそれが知りたい。大切な里の者だ。俺に何かできる事があればと。……話したくないならかまわないが」
…大切な里の者、
「でも、風影様に言ったとしても…好きにはなれないかも、しれません。毛嫌いしてる訳じゃないんですかど、自分でも自分の事がよく分からないくて」
そうだ、別に恨みこそあれど嫌いという訳ではない。
そして私が恨んでいるのはたった一人の忍。
その人が誰なのか分からないから、忍の人みんなと関わりを持つのが怖いのだ。
関わって、親しくなって、両親を殺したのがもしその親しくなった人の中にいたとしたら、なんて考えると、その時自分はどうするのかが怖い。
全て忘れて平和でいたいと思う反面、平和になった後、知ってしまう事がもしあったら、私は耐えられないかもしれないと思う事もある。
でも、この感情を誰かにぶつける事ができたら、もしかしたら少しは楽になるのでは。
話した事で両親が帰ってくる訳でも、人柱力がどうなる訳でもないだろうが、
私の、ジワリと広がる心の隙間を埋めてくれるかもしれないなら、話してみるのもいいかもしれないと思った。