過去

話してみようと思うものの、一体何処から話せばいいのか、何て言えばいいのか悩みに悩むが、そもそも風影様はお礼としてそんな事を聞くだけでいいのだろうか。
もっとなんかあっただろう。


「一つ聞きますけど、私の話し聞くだけでいいんですか?」

「…それでは物足りないと言ったら、お前はどうする」


その返答に思わず下がっていた顔を上げ、また、外れていた視線が合わさる。
その時に、少し悪戯ぽく微笑む風影様に少し上気した。


「…冗談だ。俺は忍と忍は勿論、忍とそうでない者が、手を取り合い平和に暮らせればとよく考える。今でこそそれが叶ったような世界だが、やはりお前の様に忍をよく思っていない人々もいる筈。そのわだかまりを解してこそ、皆が平和に暮らせると思う。だからお前の事が気になるんだ。…俺で良ければ話してくれないか」


私の方に向けていた視線は、話しの途中からどこか遠くを見ていて。
まるで遠い未来を見ているような、少し目を細めているその表情は、風影という立場の責任感とか、色んな物がのしかかっているようだった。

本当に、人の為に尽くす人なんだ。
やっぱり、風影邸や火影様に出会ってからは、忍への見方が少し変わった気がする。
この人に話す事で、本当に気持ちが楽になるような気がして、自分の膝を眺めながらゆっくりと口を開いた。


「…あの、私、10歳にも満たない位の時に、両親が亡くなってるんですけど、その…忍に殺されたって聞いて、だから、忍の人と関わると思い出しちゃって…」


初めて、人に話した私の心内。
ゆっくりだが単刀直入に、簡潔明瞭に話してみるが、待てど暮らせど風影様からの返答は無い。
だんだんと尻すぼみになって行った声の大きさに、最後の方が聞き取れなかったんではないだろうかなんて心配してしまった。


「あの、風影様、」

「ああ、…すまない。そうか、殺されたとは…。その忍は、今は…?」

「分からないんです、殺されたって聞いた時、色んな人に聞いてみたんですけど、砂の人柱力が殺ったって事だけ誰かが教えてくれて、…それから私、その砂の人柱力の忍を探そうとしたんですけど、何故か皆、怖がったりとか、関わるなって言って、居場所とか、誰なのかは教えてくれなくて、全然知らないんです」


だから、怖い。忍と関わって親しくなったりするのが。いつ何処にいるかも分からないから。

そう続けると、風影様は何を思ったのか突然、「お前はいくつになる」と聞いてきた。


「え、えっと、27歳ですけど、」

「…….そうか」


聞くだけ聞いて、そう短く返事をしたまま黙ってしまった。
やっぱり、言わない方が良かったのかな。

風影様が黙ったので、私もつられて黙る。
話してくれないかと申し出てきたのは彼なのに、話せば沈黙とは如何なものなのかなんて考えてしまう。

ガタンガタンと雷車の走る音が足元を伝って響いてきて、煩いと思った。


「…ひとつ聞く」

「なんですか?」

「その人柱力に会ったとしたらお前は、…」


どうする。

そう言われてフと顔を上げれば、風影様はこちらを向いていて、悲しいような、そんな表情をしていた。


「わ、分かりません。殺してやりたいとか、そんな風に思った事も、何度もありますけど…忍に私なんかが立ち向かったところで返り討ちにされちゃうだろうし」


出会ったら、なんてもう何度も何度も考えた。
殺せるものなら殺してやりたい。
けど、人を殺した事なんて勿論ない私は、後悔するかもしれない。
返り討ちにあって殺されるのも嫌だ。
そもそも、そんな事をしても誰も喜ばない。
私の、独り善がりかもしれない。

最初こそ探し出そうとしてたものの、今となっては自分の命を天秤に掛けて、復讐なんかするより普通の幸せを掴みたいなんて考えるようになった。
なるべく忍と関わらず、粛々と生きていければそれでいい。
だけど結局、それは上部だけの気持ちで、日を重ねるごとにどんどん憎くなって行っているように思う。
だが忘れたいのもまた事実なんだ。

だけど、だけどが重なって、もう分からない。
会ったらこの気持ちは無くなるのか。
復讐心が肥大して、返り討ちに合うのも省みず、殺そうとするものなんだろうか。


「そうか。………すまない」

「?、いえ、」


こんな事を聞き出してごめんという意味だろうか。
確かに気持ちの良い話ではないけど、なぜそんなに悲しそうな表情なんだろう。

その意味が分からないまま、私達は雷車に揺られ、再び沈黙が私たちを包んだ。