彼の目線

まさかと思った。
初めて会った時から、人生をただ時間が過ぎるものとして見ているような眼差しが気になっていた。

第四次忍界大戦が終わって十数年、火影となったナルトは世界から英雄と言われている。
俺も例外ではなく、あの時戦った忍は皆、各里の住人から英雄と言われるようになった。

里を歩けば皆、風影様、我愛羅様などと声をかけてくれ、幼い頃とは大違い。
皆、影の顔や名前は知っていて当たり前。
それが普通だと思っていた。

昔の俺を知っている者でさえ、今となっては慕ってくれる。
それ故、より里の者たちが暮らし易いよう、平和が続くよう、風影として心がけてきた。

忍に対して、…人柱力であった俺に対して、恨みを持っている者など、まだ沢山いると心の奥で思っていたが、その者たちの心の傷も、いつか癒す事ができるなら、俺は尽力しようと思っていた矢先、名前に会った。


名前は、里の者なら来ない者はいないという程の会談前にする演説を見にきた事がないという。
そして、ナルトや、俺の顔までも知らないといった様子だった。

現状他里の影よりは些か長く風影の座に就いているし、大戦後の復旧時には風影も、忍も一般人もなく手を取り合って復興に手を注いできた。
皆、知ってくれていると思っていた。

最初はそれに少し驚いたが、名前の「忍に対する嫌悪」をナルトから聞いて、納得した部分もあった。
関わりを持ちたくないと思っていたなら、知らなくてもなんら疑問はない。
見ないようにしていたんだと、思うのと同時に、一体彼女は何故そんなに忍を嫌うのかが気になった。

そしてそれを聞いて、ハッとした。
年齢を聞いて、確信した。
彼女の両親が殺された時期、人柱力であったのは


俺だ。


なんとなく予感はしていた。
荒れた時代に両親が死んだ理由は、多分誰かに殺された可能性もあるだろうと感じていた。
それが自分だったと、殺したのが俺だったと、まざまざと突きつけられ言葉がでなかった。

自分で名前の内心を聞いておいて、
聞かなければ良かったと思ってしまう俺はなんと弱いものか。


この事実を、彼女に言うべきなのか言わないべきなのか、
今まで苦労してきたであろう名前に、お前の両親を殺したのは俺だと、一体どうやって伝える事ができるのか。
少なからず、心を開いてくれつつあるだろう彼女を、奥深い底へと突き落とす事は、果たして正解なのか否か。

復讐してやると、俺に立ち向かってくるのだろうか。
どうしてそんな事をしたと泣くだろうか。
何が風影だと、軽蔑するだろうか。


俺はどうすればいい。




……

「風影様、到着したみたいです」

「…ああ」


結局、話を聞くだけ聞いて以降、一言も発さず、名前の呼びかけによって砂へ到着した事に気がついた。

名前は眠っていたんだろうか、寝起きの様な表情で、小さく欠伸をしながら下車の準備をし、座っている俺の前に立っていた。


「本当に、助かりました。ありがとうございました」

「いや、」

「あの、また何かきちんと御礼します」


立ちあがり、既に停車している雷車から降りる。
俺の前を行っていた名前は、ホームに降り立つと振り向き、丁寧にお辞儀をした。

事実を知らなかったなら、下げられた頭に触れただろう。
だが今の俺には名前に触れる資格などない。

先程名前は言っていた。
どこの誰が自分の両親を殺したのか分からないから、親しくなって、もしその人が本人だったと思うと怖いと。
だから関わらないようにしていたと話していた。

それを思い出し、もうこれ以上関わりを持つのはやめた方がいいのではないかと考えた。

だが、こちらから関わりを絶ってしまうという事は、名前に対する贖罪を放棄してしまうという事で。


どちらが良いんだ。
ありのままを名前に話すか、
このまま知らない振りをするか、
こいつにとって、どちらがいいのか。
俺にとって、どちらがいいのか。


下げられた頭が上がり、何も言わない名前は疑問の表情になる。

頭で考え過ぎている俺は口が上手い事動かず、やっと出た言葉は「また店にでも寄る」という遠回りな別れの挨拶。
それに「はい」と答えた名前の笑顔が脳裏にこびりついて、暫くは忘れられそうになかった。