俺は弱い

気づけば、腕の中へと引き寄せていた。

気になっていた存在である名前は、俺が両親を殺した本人であると告げた瞬間、
部屋から飛び出して行った。

分かっていた。
拒絶される事など、分かっていた。
それを承知の上で、俺は名前にその事を告げた。



初めて会った時から何か引き寄せられるものを感じていた。
そして数日前、木の葉から砂へと戻った時の、ホームで見たあの笑顔がどうしても忘れられなかった。

名前が今日、お礼にと訪ねてくるまで、俺はずっと彼女の事を考えていた。
忍を恨み、一人で生きていくと決め付けた様な目をしていた彼女は、俺やナルトに会ってから多少なりとも、忍への見方が変わった様に思えた。

嬉しかった。

今まで誰にも言わなかったんであろう心内を、俺に話してくれた事が、里を平和に導いていく風影としてもそうだが、我愛羅としても嬉しかった。

だから余計、名前が見せたあの笑顔が、俺を苦しめた。

言えば楽になるんだろうかなんて、そう考えては風影を名乗っている自分がひどく醜く思えてならなかった。
だが言わないまま、自分の中に仕舞っておく事が出来なかった。
俺が、弱いからだ。



飛び出して行った彼女を追いかけて、抱きしめて、それからどうすれば良い。
そんな問いかけは、頭の中で響いて消えた。

謝って許してくれる問題ではない。
抱きしめて、うやむやにできるものでもない。


いくら考えても正解などない。
答えなど、出ないのだ。
なのに俺はどうして、彼女が苦しい様な表情を見せると動揺してしまうのか。
あの笑顔を思い出すだけで、こんなにも胸が痛むのか。

咄嗟に抱きしめてやりたいと思った意図が、自分でも分からなかった。

なぜこんなにも、涙が出るのか、俺には分からなかった。



「…………風影、さま」



大人げなく、溢れ出る涙が名前の肩を濡らしていく。
不甲斐ない。
俺は何も、子供の時から何も変わっちゃいないと思わされる。

強くありたいと思っていた。
忌み嫌われていた頃も、里の為に風影になろうと決めた時も、
いつだって強くありたいと。そして強くなった気でいた。


「…すまなかった、」



仲間が死んでいく事には慣れていた。死んで行った仲間の分も、俺が強くあり、生き続ければ良いと思っていた。
大きな戦争も終わり、世界は平和になった。
死んで行った仲間達に恥じない様、この平和を守って行きたいと考えていた。

だが俺は、自分が思っているほど強くなどなかった。
忍として優れているという強さは兼ね備えているつもりだ。だが心が弱くては話にならない。
本当の強さを、持ち合わせてなどいなかった。
俺は昔から、何も変わっていない、心の弱い人間だったんだ。



「っ、すまない、……俺が弱いばかりに、すまなかった、」


そうだ。
最初から心を強く持っていれば俺は、自分の生きる価値を、人を殺す事で見出すなどしなかったはずなんだ。

ナルトは人柱力で、里から嫌われ、俺と同じ立場にあったにも関わらず、心が強かった。
自分自身を皆に認めさせたいと、強く思っていたからこそ、皆を変える事ができた。

それが俺にはできなかった。

誰かれ構わず人を殺し、心の弱さを力で隠してきた俺は、いつまで経っても弱いままだった。

何度も何度も謝罪の言葉を口にして、肩を震わせ涙を流す俺は、彼女の目にどう写っているのだろう。
泣きたいのはこっちだと、思うだろうか。



「…あ、あの、離してもらえません、か」



今まで黙ってただ俺の腕の中にいた名前は、少し身動ぎをして離れた。
幸運な事に、電気が点いていない分、互いの顔は良く見えない。
それでも窓から射し込んでくる月の明かりで微かに見えた名前の顔は、泣きもせず、ただ真っ直ぐにこちらを見ていた。