私は弱い
「私には…仇を取るなんて、できません」
仇を取りたい、でも結局、忍でも無い私が仇を取るなんて事できるわけがない。
だから私は、憎いと思う気持ちを押し殺してただ何もしない、何も考えない。逃げる事で弱さを隠してきた卑怯者だ。
風影様は自分を弱いと言うけど、そんな事ない。
里をここまで守ってきて、もっといい国にして行きたいと考えてる。
そんな人を私なんかが個人的な理由で、手にかけるなんてできやしない。
なんて、これもまた、逃げてる事になるんだろうか。
ああもう分からない。なんなのこれ。
「……そうか」
俯いて一言。
相槌の様な空返事をした風影様はそれ以上何も言わなくて、長い沈黙が私たちを包んだ。
強い人間と言うのは一体なんなんだろうか。
過去の事だからと、許す事が強さなんだろうか。
其れとも仇を取る方が強いのか。
自らの命を投げ打とうとしてまで私に告白してきた風影様を、何もせずただここで突き放してしまうのは、どうなんだろうか。
私は今、風影様になんて言えばいいんだろう。
「…風影様、」
うまい言葉が見つからない。
何か言わなきゃと声をかけてみるものの、呼んだだけで言葉が詰まった。
続きを待っているであろう風影様をチラリと見やれば、その頬はまだ少し濡れていて、其れを見ただけでなんだか居た堪れない気持ちになった。
「…私は、まだどうすればいいのか、風影様に何を言えばいいのか、…分かりません。」
心の奥底では、忍が憎かった。仇を取りたいと思っていた。
でもこんなに平和になった世の中で、復讐を試みるなんて、できなかった。
でも許せるのかと聞かれたら、やっぱり無理なのかもしれない。
そんな無限ループに迷い込んでいた。
「とにかく今日は、…帰ってください、ごめんなさい」
自分でも整理がつかない。
自分には風影様を手にかける様な事できないなんて思っておきながら、
仇を取れと、殺せと言われているんだからそうすればいいと、結局どこかで思ってしまう自分もいる。
一体どちらが正解なのか、はたまたどちらも正解ではないのか、分からない。
「…不躾に上がり込んでしまって、すまなかった」
「……」
静かに、私の前から居なくなる風影様。
帰れと言ったのに、闇に浮かぶその後ろ姿を見て悲しくなるのはなんでだろうか。
遠くの方でガラガラと、店先の扉が開く音が聞こえた。
そのまま暫く、私はその場から動けずに窓から射し込む月の明かりを眺めていた。
今になって目の奥が熱くなって、その熱さを押し出す様に頬に雫が伝った。