太陽よ、背中を押して

風影様に過去の事を告げられてから私は、店を開ける気になれなくて暫く自宅で引きこもっていた。
働かなきゃと思えば思うほど、何もしたくなくなった。

でもこれじゃだめだなんて、少しの間店を休みにしてやってきたのは木の葉の里。

ただ縋りたかったのかもしれない。
私には、正しい道への進み方を教えてくれる人が居なかったから。
あの真っ直ぐで、太陽みたいな存在の火影様なら、私に、前へ進む何かをくれるかもしれないと思った。

だけど連絡先も知らない、他里の長である火影様に、一般人の私が簡単に会いに行っていいんだろうかなんて考えつつも、たどり着いたのは火影邸。



「ここにいるのかな」


キョロキョロと辺りを見回してみるものの、誰もいない。
風影邸の前には監視の人が居たのに、ここには監視なんていらないんだろうかと思う。
其れほど平和って事なのか。




「何をしている」

「…っ、あ、」


突然後ろから声をかけられて、振り向くと一人の男性が居た。
黒いマントに身を包んで、凛とした佇まいに思わず後ずさる。


「ナルトにでも用か。見たところ忍ではなさそうだが」

「へ、…えっと、ちょっと個人的な事、なんですけど、」



怪しい奴とでも思われただろうか。
そりゃそうだ。なんだよ個人的な事って。

あんまり怪しまれて火影様に会えなくなっても、ここまで来た意味がなくなる。
ここは一旦帰ろうかと、踵を返そうとした時だった。



「…ついて来い」

「え、ちょ、……あの、!」



突然そう言いながら火影邸に入っていこうとる男性に慌てて声をかけるが、「ナルトに用があるんだろう」と振り返りながら言われ、私はついていくしかなかった。






……


「ナルト、入るぞ」


マントの男性の後を追い、呆気なくたどり着いたのは火影様がいるんであろう執務室の前。
ノックもせずに扉を開けた男性は一体何者なんだろうかと思いつつ、開けられた扉の向こうに居た火影様へとお辞儀をした。


「ん?お前、名前だったか?なんでサスケと一緒に…?」

「屋敷の前にいるのを連れてきた。ナルト、お前に用があるそうだ」



火影様からの問いに、すぐさま答えたのはサスケと呼ばれたマントの男性。
用があるのは確かだけど、今ここで言うのはなんだか気が引けると思い動揺してしまった。

えっと、とか、その、とか、そんな事ばかり口から出てしまって、まともな言葉が出てこない。



「……みんな、ちっと席、外してくれねえか」



みんながいると話しづらい事だと、火影様は察してくれたのか、私以外のサスケさん、側近なんだろうもう一人のヒゲの男性に声をかけ、そしてみんな何も言わず出て行った。



「汚ねえとこで悪いな。まあ座れってばよ」

「いえ、なんか…すみません」



茶でも飲むか、なんて、近くにあった急須から湯のみにお茶を注ごうとするが、どうやら急須の中身は空っぽだったらしく、困った様に「すまねえ」と言われた。


「いえ、お構いなく…」

「そうか。…あー、それで、どうしたんだってばよ」



言っていいんだろうか、なんて今更考えてしまう。
こんな私情に、他里の長である火影様を巻き込んでしまって、ただの迷惑ではないだろうか。
勢いあまってここまで来たものの、どうしようと考えあぐねていると、先に口を開いたのは火影様。



「…何か、あったのか」


ああ、やっぱり何かあったと思われるよね。
離れた場所からわざわざ訪ねてきて、来たと思ったら何も言わない。
何かあったと勘繰るのは当たり前だ。

でも、何て言えばいいのか。
風影様と火影様は親しい様だったけど、昔からの知り合いなのかは知らない。
風影様の過去を火影様が知らなかったとしたら、私がそれを言ってしまっていいんだろうかと深く考えてしまって言葉が出ない。

それでも何か言わなければ。
自分勝手だけど、火影様に助けて欲しいと思ってここまで来たんだ。



「あの、…もし自分の大切な人の命を奪った相手が、近くに居たとして、火影様は仇を…取りますか」

「…」



こんな例え話の様な聞き方、卑怯かもしれない。
だけどこういう聞き方をするので精一杯だった。
風影様と私の事だなんて言ってしまっては、火影様自身の意見が聞けないと思ったからだ。



「…すみません、変な事聞い、……」

「お前なら、どうすると思う」



今までとは違った少し低い声が、私の言葉を遮って耳に届いた。
火影様の方へと視線を向けてみると、いつしか見た様な真剣な表情で。


お前ならどうするか、か。
私ならどうするんだろう。

あの時風影様に、仇を取れと言われて私はできませんと言った。
でもできないと言っておきながら許せるかどうかが分からなかった。


…私なら、


……ああ、分かった。


多分、私は許せと誰かに言って欲しかったんだ。
火影様なら、きっとそう言うだろうって、分かってて私はここまで来たんだ。
嘘でも、平和を願う火影の立場からすると、許せと言うに違いないって。

その一言で、背中を押して欲しかった。



「私は、…私なら、許したい…」



でも、本当にそれができるのか。
弱くて意気地無しで、狡い卑怯な人間。
逃げるばかりの私に、人の罪を許すなんて。
きっと復讐するより難しい事だと思う。
受け入れて、許すなんて事、心の弱い私にできるんだろうか。



「…なら、許せばいいってばよ。お前に一体何があったのかは分からねえが、ほんのちょっとでも許してえと思う気持ちがあんなら、そうすれば良いと思うぜ」

「……でも、私、心の弱い人間だから、本当にそれができるのか…分からなくて」



いつのまにか、例え話の筈だったものは何処かへ行ってしまっていて。
火影様は最初から分かってたんだろう。
真剣に、でも穏やかに、優しく諭してくれる火影様につい弱音を吐いてしまう。


「…お前は弱い人間じゃねえよ。ちょっとでも許そうと思える心は、充分強いと思うぜ。お前の言うその大切な人も、許せる心を持ったお前を誇りに思うはずだってばよ」

「…っ」



ああそうか。
今まで自分の気持ちばっかり考えて、悩んで、結果的に逃げてきたけど、
死んだ両親なら、きっと復讐なんて望まない。
そんな、簡単な事に今まで気づけなかったなんて、私はとんだ大馬鹿ものだ。


「っ、…、」

「…お、おい、泣くなって」

「っ、すみませ、」



火影様はやっぱり凄いな。
忍の見方を変えるきっかけを作ってくれて、許す心も与えてくれた。
私に、前を向かせてくれた。

今なら風影様に向きあえる。
そう思わせてくれた。



「火影様、…っ、ありがとうございます」