救ってくれた人

大人げなくも泣いてしまった私は、火影様の言われるがままに暫く執務室に居させてもらう事になった。

そんな顔で外出たくねえだろ、なんて言われ、自分の顔が涙を流した所為で赤くなっている事に気づかされる。


「なんなら、明日から中忍試験だからよ、折角なら観に来りゃいい。…あー、一般人に公開してんのは第三試験だけだから…三日後になっちまうな、」

「中忍、試験…?」



突然火影様の口から出た、初めて聞いたその単語に、疑問の表情を向けると、火影様は「ああ、」と言いながら、それについて説明してくれた。

周りをあまり見ないように、なるべく関わらないようにしてきた私は、忍のシステムなんて勿論知らない。

そんな私に、忍とはアカデミーを卒業して、下忍になり、試験を受けて中忍、そこからまた試験試験で上忍だったり特別上忍だったりになって行くものだと、火影様は教えてくれた。


「まあ俺は、結局中忍試験には合格せずに火影になったけどよ」

「へえ、…下忍でも火影になれるんですね」

「俺ってば実力があっからな!」



グっと力拳を作ってみせて、目を細めて笑う火影様。

忍の皆は、何かしら自分の強い意志があって、その試験に臨むんだろう。

下忍でも皆から認められりゃ、火影にだってなれるんだぜ!なんて言いながらカラカラと笑う火影様も、簡単には言うけどその道のりはとても困難なものだったに違いない。

風影様はどうだったんだろう。
どんな思想で、どんな理由で、風影を目指したのか、気づけば風影様の事ばかり考えてしまっていて、風影様もいつの日か臨んだその中忍試験とやらを、私も見てみたいと思った。


「観に行きます。中忍試験」



風影様も、火影様も通ってきた道を、この目で見てみたい。
それもあるけど、強い意志を持って臨むんであろう若い忍者達を見れば、私も心を強く持てる気がした。

今でも火影様のお陰で、少し前よりは自分が強くなった気もしているけど、あと少し、背中を押してもらおうと考えた結果、私は観に行く事を火影様に約束した。


「ボルトも試験には出るからよ、第三試験まで進める様に祈ってやってくれってばよ!」

「はいっ、」

「……おい、話は済んだかよ」



ボルト君も中忍試験に出るのかと、火影様に言われたように第三試験まで進んでこれる様、頑張ってほしいななんて思っていると、いつの間に入って来たのか、さっき出て行った二人が声をかけて来た。




マントの男性はサスケさん。ヒゲの男性はシカマルさん。
どちらも火影様と昔からの友人で、第四次忍界大戦を生きてくぐり抜けて来た人だと、火影様が教えてくれた。

私も改めて自分がどこの誰なのかを名乗り、火影様には以前お世話になったんだという事を伝えてから、あまり長居しても迷惑だからと砂隠れへ帰る事した。



「あの、ありがとうございます。突然来たのにお話聞いてくれて。他里の人間なのに」

「何言ってんだ。他里だろうが自里だろうが関係ねえ。困った時はお互い様ってな!悩み事でもなんでも、いつでも聞いてやるってばよ!」

「…おいナルト、いつでも聞いてやるってのは構わねえが、溜まってる仕事はきっちりやってくれるんだよな?」

「……」



ニコニコと、いつ見ても元気を貰えるような笑顔でいつでも来いと言ってくれる火影様に嬉しくなったが、すかさずシカマルさんが喝をいれる。

事務仕事とか苦手なんだよなーと愚痴をこぼす火影様を見て、風影様は事務仕事、得意なんだろうかなんて、また風影様の事を考えてしまった。

人ってのは好きって気づいた途端、こんなにもその人の事が頭に浮かぶものなのか。
恋する乙女なんて、柄じゃないけど。


「では、私は失礼します」


送って行こうか。扉に手をかけた私にそう言ってくれる火影様。
だけど私の所為で仕事が途中になってしまっているだろうに、送ってくれるなんて滅相も無いから「大丈夫です」と返事をした。



外へ出ると少しだけ冷えた風が、泣いてしまって熱くなっていた目元を冷やした。
砂の里は、昼間はいつも暑くて四季なんてあったもんじゃないけど、木の葉は季節があるらしい。
もうすぐ寒くなる時期なのかな。



「おい、」


この前みたいに乗り遅れ無いように、雷車の時間はきっちり確認した。
大丈夫。まだまだ私が乗る雷車までには時間がある。
何かお土産でも買って帰ろうかな。八百屋のおばちゃんにでも。なんて考えながらとりあえず歩いていると、後ろから声をかけられた。


「あれ、サスケ…さん?」


火影様とは違う低い声に振り向くと、そこにはサスケさんがいて。
私何か忘れ物でもしたのかなと一瞬考えてみたものの、忘れる程の荷物なんて持っていなかった。

一体何の用なんだろう。
片方しか見えていない黒い目を眺めながら、わざわざ私をここまで追いかけてきた理由を待っていると、突然「復讐など、ロクなものじゃない」と言われた。


「え、?」

「悪いが、お前がナルトに話していた事、全て聞いていた」

「へ」


まさかまさかの発言に、それなら泣いていた事も気づかれていたのかと恥ずかしさが先に込み上げる。
嘘でしょーなんて内心思いつつも、サスケさんが続けた言葉に耳を傾けた。


「お前が何故、どういう理由があってあんな、仇を取るだの取らないだの言っていたのかは知らないが、復讐なんざやめておけ」

「…えっと、」


一体この人はなんなんだ。
私は結局の所、復讐はしない、許そうと結論づけたはずなんだけど。
話、聞いてたんだよね?


「お前が、仇である奴を許そうと考えているのはさっき聞いたが、念のためだ。その心を強く持て。また仇に会った時、揺らぐ事もあるかもしれんが、惑わされるな」


ただ真っ直ぐ、黒い瞳が私を射抜く様に見つめてくる。
念のため、だなんて、どういう事なんだろうか。


「あの、なんでわざわざ、私にそれを?」

「俺は昔、復讐者だった」

「え、」

「あの頃の俺は光を見失い、…いや、光を見ようともしなかった。誰の声も聞かず、目を背け続け、復讐という闇に居続けた」


それからサスケさんが続けた事に、私は驚きが隠せなかった。
何度も何度も人を傷つけ、数え切れないほどの殺しもした。犯罪集団に加担して、里を落とそうとまでしていたと。



「…」

「復讐は復讐を生み、消える事はない。だが誰かが許せば、その先の復讐が生まれる事は無くなる。恨む気持ちもあるだろうが、復讐の道を行っても、心が晴れる事はない」


ああ、この人は復讐をした後の辛さを知っているんだ。
一度その道を歩んでしまえば、戻れなくなるかもしれないという事を、私に教えに来てくれたんだ。


「…一つ、聞いてもいいですか」

「ああ、」

「サスケさんは、どうやって復讐の道から戻って来たんですか」


里をも落とそうとするくらい、憎いと思うものがあったのにも関わらず、今こうしてこの里にいるという事は、サスケさんは復讐をやめたという事だ。
それはどうしてなのか、私は話を聞いていて疑問に思い、問うた。

するとサスケさんは振り返り、向こうに見える火影邸を見据え、そのまま口を開いた。




「あいつが…、ナルトが、俺を止めてくれた」