「忍」という人たち
歓声が上がって、ついに始まった中忍選抜第三試験、決勝。
トーナメント制で行われた決勝までの勝ち残りである三人が、今私を含む皆の眼下で向き合っている。
…ボルト君、決勝まで勝ち上がってきたんだ。凄いな。
そして三人の中でもう一人、知っている顔が居るのに驚いた。
シンキ君だ。
彼も試験に臨んでいたのかと今日初めて知って、なんとなく息をのんだ。
ボルト君を影ながら応援しようと内心思っていたけど、シンキ君も出ている、しかも決勝で戦うとなるとどちらを応援すれば良いのか…。
それにたった一人、女の子だろう眼鏡の子にも、同じ女子として頑張って欲しい気持ちもあった。
「始め!」
うーん…と悩んで、そもそも私は勝ち負けを見にきた訳じゃ無いと思い出したところで、
この試験の進行役なんであろうオカッパの男性が開始の合図をした。
観に来ている人達は木の葉の人が多いんだろうか。
圧倒的にボルト君やサラダちゃんと呼ばれた眼鏡の女の子を応援する声が多い気がした。
だけど試合が始まってからはそんな会場の声なんて、私には聞こえないくらい、三人の闘いぶりに見入ってしまっていて。
きっと三人共、自分の強い意志の元戦ってるんだ。
あんなに若いのに、私には備わっていない強さをあの三人は持っていて、それを証明する為とか、誰かに認めて貰いたいとか、そしてもっと強くなりたいと思ってるんだろう。
「…凄い、な」
頑張ってる三人を見てると、私の悩みなんて小さいものに見えてくる。
そう思うと、なんだか勝手に満足してしまって、席を立った。
このまま誰かが負けるのを見るのも嫌な気がするし、終わるまで会場の外で煙草でも吸ってよう。
見えてるかはわからないけど、上の方から試合を観ているであろう風影様に向かって軽く会釈をしつつ、私は会場の外へ。
ここへ来た時にチェックしておいた、備え付けられている灰皿の元まで辿り着き、煙草に火を付ける。
「…ふう、」
この試合が終わって、中忍試験が終わったら、私は風影様にちゃんと自分の気持ちを伝えるんだ。
本当に、ただ「もう良いよ」と一言いうだけなのにどんだけウジウジとしてるんだって自分でも思うけど、それももう終わりだ。
あの時涙を流しながら私に「すまない」と言ってきた風影様に、その場で何も言えず突き返してしまった事も謝りたい。
…好きとも伝えたいけど、それはまだまだ先かな。
「…だめだ落ち着け。ドキドキしてきた。…もう一本吸ってよう」
なんだか妙にドキドキしてしまって、気分を落ち着かせる様、もう一本に火を付ける。
そもそも試験が終わった後すぐ言うのか?いや風影様も試験直後だと忙しいだろうし、木の葉から砂へ戻ったタイミングで言うのがいいかな、わざわざ時間を開けてもらうのも悪いし、ちょっといいですか!スタイルで行こうか。
いつ言うのか、どんな風にに言おうか、考えれば考える程分からなくなってきた。
「うーーん、」
唸りながら煙草を吸って、そろそろ吸い終わるかなって時だった。
ドーン!と
会場の方から大きな爆発音みたいな音が聴こえて、驚きのあまり思わず会場の壁を仰ぎ見る。
「な、なに?!」
試合?、の音、なの?
それにしても尋常じゃない音がした気がするけど。
とにかくもう一度中に入ってみようと、煙草を灰皿に押し付けて会場内へ足を進める。
だけど客席へ続く廊下を進む度、大きく聞こえてくる悲鳴。
そして足音が聞こえると共に、前から観客達であろう人達が大勢走ってきた。
その人たちは私に目もくれず、ぶつかりながらも外へ出て行く様で、怖いと思いながらも私は会場の方へと、走ってくる人達を避けながら進む。
風影様に何かあったらと思うと居ても立っても居られなかった。
「…え?!」
暗い廊下からやっと出てきて、私の目の前に広がったのは、さっきまで私がいた会場とは形が全く変わってしまった光景で。
崩れた壁や屋根、逃げ惑う人達、それを手助けする忍の人達、そして、
「火影様…?!」
どうやら観客席の方じゃなく、今まで皆が戦っていた方へと出てきてしまった私の目の前で、白い人と戦っている火影様。
意図せず名前を呼んでしまった事で、私に気づいた火影様と、白い人越しに目があった瞬間、
「…まだ人間がいたのか」
「名前!逃げろ!走れ!」
「へ、」
火影様が声を上げたのも束の間、いつのまにかこちらを向いていた白い人がニヤリと笑ったのがスローモーションの様に見えて、目を見開いたと同時くらい。
私の意識はそこで途切れた。