不甲斐なくも鳴いた心臓
わたしにとって、魔の五影会談から数日。
結局会談の日は夜の営業はせず、一人家に篭っていた。
会談するなら木の葉の里とかでやってくれ。もううんざりだなんて、あの日は何回も思ってしまったが、こうして何日かすぎてしまえば、里の住人達も次第にその話をしなくなり、またいつもの毎日に追われている。
「今日も疲れた、」
最後のお客さんを送り出し、暖簾を下ろしてから店の外にあるベンチで一服。
仕事の後の煙草は最高だと、フゥと一息つきながら、なんとなくここから見える風影邸の方をぼんやり見つめた。
「……あ、」
風影邸の真ん中にある、「風」という文字を見ながら、フと、風影様なら私の両親を殺した忍、人柱力のことを知っているんじゃないだろうかという考えが頭を過ぎる。
あ、だけど人柱力って昔から代々受け継いでるものだって聞くし、風影様がもし人柱力の事を知っていたとしても、そいつが私の両親を殺したって事にはならないかもしれない。
……というか、人柱力の事知ってますか、なんて聞きに行くのも嫌だ。
そもそも聞いてどうするって話だ。
私には知ったところで結局何もできないんだし。
「はああああああ……」
「何をそんなにため息を吐いている」
「??!!!」
また暗い感情が湧いて来た事にうなだれていると、座っている私の頭上から低い声が聞こえ、思わず顔をあげると今の今まで考えていた人物がいて盛大に驚いてしまった。
いや、タイミング!
「か、風影様、」
なんでこんな時間に、こんなところにいるのか。
驚く私を余所に、ただ私を見下ろして来る風影様へなんと声をかければ良いのか分からず、ただ呟く。
てか、いつからここにいたんだ。
忍ってのは本当に気配も足音でさえも消して近づいて来るから嫌なんだよ。
「…もう店は終いか」
「へ、」
「また寄らせてもらうと先日言ったんだが、やはり少し遅かったようだ」
私から視線を外す事なく、淡々と話す風影様の言葉を聞きながら、記憶を少し辿って見ると、確かに五影会談の日の朝、また寄らせてもらうなんて事言ってたなあ、と理解した。
ただの社交辞令的なものかとその時は思って流したけど、まさかそんな一言を守るために店まで来たのか。
どんだけ真面目なんだよ風影ってのは。
「、」
「まだやっているなら、食事をと思ったんだが、…また次回にするとしよう」
私はまだ閉店だとはっきり言った訳ではないんだけど、降ろされた暖簾を見て営業を終了していると取ったのか、少しばかり悲しそうな表情をしながら風影様は踵を返そうとする。
「あ、待って、…」
今の今まで無表情だったのに、突然悲しそうな表情に変わった風影様を見て、
よっぽどお腹が空いていて、やっと食事にありつけると思ったものの店が閉店してしまって悲しくなったんだと勝手に捉えた私は、ハッとしながら思わず風影様を引き止める。
が、相手は風影。関わりたくない忍の頂点にいる人を、お腹が空いているってだけで引き止めてしまった自分に驚いてしまった。
「…?」
「え、あ、いや…その、…」
待って、なんて言ってしまったが、やっぱり店に招き入れるのは…と考えてしまい言葉に詰まっていると、私に声をかけられた事で振り返っていた風影様がフと笑いながら「また来る」と言い、また背を向けてゆっくりと歩いて行ってしまった。
「…っ、」
…驚いた。
まだ会って三回ほどだけど、あんな風に笑っているのは初めて見た気がする。
無表情で有名だったし、確かに全然表情が読めない人だと感じてたから、ふんわり笑った姿に不甲斐なくもドキリとしてしまった。
「…いやいやいやいや、何ドキッとしてんの私。相手忍者だから。風影だから。あり得ないから」
既に灰と化してしまった煙草を灰皿に押し付けながら頭を振り、忍者なんて、と高鳴ってしまった心臓を押さえつける。
早いとこ片付けて今日はさっさと寝てしまおう。そうしよう。
そう考えながら側に立てかけてあった暖簾を手に取り、店内へと戻った。