一歩進んで二歩下がる
なんだか最近よく会うなと思っていると相手もそう思っていた様ではあったが、笑顔で大人の対応をしてくれた。
「その様子だと悟と上手くいったみたいだね」
「夏油さん……はい。ありがとうございます」
「もうこの辺りに来てはいけないよ。出来るだけ知り合いを直接手にかけたくはないんだ」
そう言った夏油さんの顔はどこか悲しそうで、明日ケーキを作るからよかったら初めて出会ったあの場所にと、そこには悟さんも連れて行くからと伝えると「悪いけど明日は大切な予定があるんだ。悟も──多分帰りが遅くなるんじゃないかな」と言われる。その言葉の意味を知りたくて夏油さんを見つめるがそれ以上なにか言うことはなく、だがただ一言「全てが終わったらお邪魔するよ」とだけ発して手をひらひらさせながら去っていった。
その背中を見つめていると悟さんからWごめん。イブは仕事が入ったWと連絡が来て、やはり追いかけようと思ったが顔を上げた時には既に夏油さんの姿はなかった。
嫌な予感がした。だけど、きっと気のせいだと思うことにして買い物を中断して家へと帰った。
◆
夏油さんの死を知ったのはクリスマスイブのこと。傷はないのにボロボロに見える悟さんが「親友とお別れしてきた」と言って、その時にポロッと出た名前でピンときた。
二人とも辛かったのだろうと想像は出来るが、あくまで想像の域を超えることはなくて。私はただただ悟さんを抱きしめるしか出来なかったのだけど、彼は何も言わずに静かにされるがままとなっていたので間違いではなかったと思いたい。
その日は二人とも何かを話す気にはなれなくて、お祝いもする気力はなく抱きしめ合いながら眠った。せめて明日はいい日になるようにとそんなことを願いながら。
次の日には彼はいつものように笑って、私に何か出来たのかわからないまま二人でケーキを食べた。
珍しく学生時代の話を聞いたからか、来世があるのなら悟さんや夏油さん、話でしか知らない家入さんと一緒にテーブルを囲んでケーキが食べられるといいな、なんて。
だけど私は今を生きているから、今を大切に生きないといけないから彼に笑顔を向けるのだ。
「私は出来る限り長生きするね」
だから悟さんもそうしてねと付け足すと彼は笑って「ありがとう」と言ってくれるから。