大型犬(仮)に懐かれる

 私はどうも夏油くんに懐かれたらしい。
というのも、校内で私を見かけると大型犬のように寄ってきて世間話をしてくるし、結構頻繁に『勉強を教えてくれ』と(彼に勉強を教える人間は不要だろうに)部屋にくることもある。
 弟が出来たようで嬉しく、最近彼の任務が多いようで顔を出さない日々を少しだけ寂しいと思うくらいには彼が居るのが当たり前になっていた。

「花子」
「任務ですか?」
「ああ。頼むぞ」
「そういえば、夏油くん元気ですか?」

 私の言葉に担任が一瞬目を丸くして──だけどすぐに微笑んで「同じことを聞くんだな」と言った。
 その言葉に自分が他人を気遣う発言をしたことと、それに対する答えに顔に熱が集まってくるのがわかる。

「お前が他のヤツに興味持ってくれて俺は嬉しいよ」

 担任の言葉に返事をしないでいると「元気だぞ。それ終わったら会いに行ってやれ」と言われて、そういえば私から会いに行ったことはなかったなぁと思う。そんなことを思いながらも気持ちを切り替えて補助監督と合流した。



「マズったなぁ……」

 足を引き摺りながら帳の外へと歩く。
 血が、止まらない。
 考え事をしていたのが悪かったのか、運が悪かったのかはわからない。少し前までの私ならそのままぼんやり空を眺めて『このまま出血死しないかなぁ』なんて思っていた筈だ。
なのにどうだ。
 今の私は足を引き摺ってでも帰ろうとしている。──夏油くんに会う為に。これはもう、認めるしかないのだろう。

「山田さん!?」

 ボロボロの私に驚いた補助監督がこちらに駆け寄ったのを確認して緊張の糸が切れたのか、私は意識を手放した。



「花子さん! 花子さん!」

 名前を呼ばれている気がして目を開けると視界いっぱいに夏油くんがいた。なんだか泣きそうな顔をしている彼の頬に手を伸ばして「大丈夫だよ」と言おうとしたが、声が出ない。喉が渇いているのだろうか。

「水……硝子、水はあるかい!?」
「はいはい」

 渡してもらった水を喉に流し込むと漸くまとまに息が出来た気がした。

「ありがとう」

 お礼を言った私に夏油くんが抱きついて、先程『硝子』と呼ばれていた女の子が「重症だったんだから離れろ、馬鹿力」と言葉を投げ、それを聞いた夏油くんが素直に離れる。暖かかった体温が離れていき寒さを感じると同時に寂しさも感じる。

「えっと、ここ、医務室……だよね?」

 私の質問に補助監督が抱えていたのを見て慌てて自分が交代して硝子──家入硝子ちゃんに反転術式で治してもらったと夏油くんが教えてくれた。
 まさか貴重な反転術式を使われていたとは。彼女には一生頭が上がらなさそうだ。

「二人ともありがとう。お礼したいんだけど……」

 何が良いかと訊ねると硝子ちゃんは「コイツからもらってるんで大丈夫です」と言い、夏油くんは少し考えてから「一緒にご飯食べに行きませんか?」と言ってきた。
 その言葉に了承すると嬉しそうに笑ってから「後でまた連絡します」と言って、二人揃って授業へと戻って行った。
 私はというと、今日と明日は休んで良いと言われたので重たい身体を引き摺りながらそのまま自室へと戻りベッドに倒れ込んでそのまま意識を手放したのだった。
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