貴方が居てくれるなら、
※失恋する話
「ごめん」
私の初恋は月明かりに照らされて神々しくも悲しそうな、申し訳なさそうな表情の彼から告げられた短い返事で終わった。
勝算があったわけではない。妹にしか見られていないのだろうとは何となく気付いていた。それでも、一足先に死地へ行くであろう彼に気持ちを伝えたかった。全ては自己満足で、それに付き合わされる彼はきっと迷惑だろうとは想像に容易いのだけれど、言わないと後悔しそうという私の勝手な気持ちを優先させた結果がこれだ。
刀を握り、大人顔負けの鍛錬を日々こなしているからとはいえまだまだ子供で鱗滝さんから食べさせてもらっている。早く強くなって一人前になりたいと思いながらも現を抜かしていた私と、前だけを見ている彼とでは釣り合わないのかもしれない。
この場を立ち去ることが何故だか出来ず、ぎゅっと拳を握り締めていた私の頭を彼は優しく撫でた。
「好きか嫌いかで答えるならば好きだよ。だけど今は鬼殺隊に早くなる為の努力だけをしていたい」
「うん、そうだよね。そういう錆兎が大好きだったから、謝らないで欲しいな。全部私の自己満足だから」
申し訳なさそうに眉を下げてもう一度だけ頭を撫でてから彼が戻ろうかと告げたので頷いた。優しい彼は夜女の子を一人残すなんてことはしないのだ。
昼間は蝉の合唱が鳴り響くのに、今は何故か静かで暑苦しくて仕方がない気温も今はあまり気にならない。
錆兎がいくら鍛錬に必死だとはいえ、心から愛する人であれば待っていて欲しいとか前向きな言葉をもらえた筈なのだ。つまり、何もなく断られたのは彼の大切なものにならなかったからなのだろう。
それでも、と彼の横顔を見つめる。傷があるものの綺麗な顔立ちで、いつも優しい彼を嫌いになれる日はきっと来ないのだろう。彼以上の人にも出会える気がしない。
錆兎の足が止まる。考え事をしていたせいで気が付かなかったが、鱗滝さんの家の前まで到着していたらしい。
「ここに入ったら全部忘れて欲しいな。この気持ちは私だけが持っておきたいから」
私の言葉に錆兎が頷いたのを確認して一足先に中へと足を踏み入れると、鱗滝さんが「お帰り」と短く言ったので「ただいま」と返した。
◆◇
「ねぇ、夏祭りがあるらしいの。一緒に行かない?」
「いいね。新しく浴衣を買おうかな」
「それなら一緒に見に行きましょうよ」
蜜璃ちゃんの言葉に頷くと嬉しそうに抱きつかれたので私も彼女の背中に腕を回す。
錆兎から振られて10度目の夏が来た。
鬼殺隊となってからまた告白しようと思っていた私の気持ちを、見事に鬼が踏み躙ってくれたので未だに消化出来ないでいる。
「そういえば、この前告白されてなかった?」
「……蜜璃ちゃんよく見てるね。お断りしたよ」
「そうなの? ねぇねぇ、それなら、どんな殿方が好き?」
「私より強くて優しくて、信念があって。私の為に怒ってくれるけど笑顔が素敵な人」
私の答えが具体的過ぎたからだろう、蜜璃ちゃんは目を瞬かせてから「そんな素敵な殿方がいらっしゃるのね」と笑顔を向けてくれた。
「うん、そうなの。とても素敵な人なんだよ」
もう居ないけどね、とは言えなかった。上手く笑えているかの自信もない。だけど、胸のつかえが少し取れた気がした。