君とぼくと不等号


「ねぇ、ひーくん。何で人を殺しちゃいけないの?」
「知らねぇよ。兄貴に聞け」

私の言葉に視線も作業の手も止めずに返事をしてくる彼は家賊だ。彼からそう思われているかはわからないし、仲間意識が強いものの流血の繋がり──実の兄弟ではないのだけど。

「私はひーくんに聞いてるんだけど」
「今忙しい」
「ナイフの手入れしながらでも良くない?」
「片手間で相手して満足するか?」
「……しない」

私の言葉にフッと口元を緩ませて頭を撫でてくれるひーくんは狡い。こんなのかっこ良すぎるなんて思いながら大人しく隣でひーくんの作業を見ていた。

「で、何だっけ?」

作業の片付けをしながら、でも視線をこちらに向けてくれる彼に「人を殺しちゃいけない理由に関して」と言う。

「法律で決められてるから──がマジョリティ側の意見じゃねぇの」
「マジョリティ側でもマイノリティ側でもなくて、ひーくんの意見が聞きたいんだけど」
「人を殺しちゃいけないとは思ったことねぇよ」

道徳的なものを考えちゃいけない。
だって私たちは『零崎』だ。
そう、人を殺すのは息をするのと同じなのだ。
だからこそ、気になってはいたのだけど。

「ねぇ、ひーくん」
「今度は何だよ」
「私が妹で良かった?」
「さぁな。男ばかりでなくて良かったとは思うけど」

確かに私以外は男だったから双識お兄ちゃんから喜ばれたっけ。今は舞織ちゃんがいるけど。
そういえば、いつから私は『トクベツ』じゃなくなったんだっけ。
唯一の女の子ではなくなって、私より零崎の血が濃くて可愛くて、それでいて頭も良い舞織ちゃんが来た時は嬉しいのと同時に悲しかった──気がする。

「ねぇ、ひーくん」

私の言葉に面倒臭そうな表情をするひーくんを見て笑う。
なんだかんだ私の話を聞いてくれるひーくんは優しい。そう言ったところで『はぁ?』と笑われるだけだから言わないけど。

「大好きだよ」
「知ってる」

返って来た言葉は予想の斜め上だった。
だって──私の気持ちがひーくんに筒抜けなのは理解していた。その上で知らないふりをしているのだと、理解していたから。

「諦めるかと思ってたのに全然諦めねぇのな」
「……諦める理由がないし」
「都合の良い時だけ『妹』だって主張するし、言葉にすることはないし」

ひーくんの言葉に何も言えない。返す言葉がない。

「俺も好きだよ」
「え……」

ポカンとする私にナイフが飛んでくる。

「ま、だから何だって話だけど」
「確かに」

ひーくんの言葉に頷く。だって、お互い好きだからって何かが変わることはない。
きっとこのくらいの距離感が私達はちょうど良いのだと思う。
でも、でもね。
抱き着いた私の腰に腕を回してポンポンと叩いてくれるのは、きちんと伝えたからだろうなって思うよ。
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