09 ひとりぼっちでないていたきみへ

 任務に出掛けた後、無理を言って、螺旋の樹の根元まで向かった。
 気持ちの整理はつかなかった。初恋の人は彼で、ジュリウスじゃない。愛したのはジュリウスで、彼ではない。それでも彼が私の中のジュリウスを塗りつぶして描き換えてしまいそうで、不安で仕方なかった。
 思えば、どちらのジュリウスも、いつも私のことを気にかけてくれていた。家族や、仲間、っていうのもある。
 私は、心配してくれる彼を困らせてしまったのだ。何だか、苦しかった。泣きじゃくる私を、彼は、慰めようとしてくれたんだろう。ジュリウスより不器用なその手は、温かくて、でも、似ていて。甘えてしまいそうになる。縋(すが)りついてしまいそうになる。
 ああ、また泣きそうだ。久し振りにジュリウスに会うんだ。泣いてなんかいられない。
 ジュリウスは、笑っている私が一番素敵だと言ってくれた。ジュリウスが一番好きだと言ってくれる私を、出来るだけ、ジュリウスに見せたい。
――『なまえ、笑っていてくれ』
 不意に、彼の言葉が甦る。
 彼も、優しく、私に笑ってと言った。ああ、ジュリウスに会いに行ったら泣いてしまうかもしれない。
 私は、ハンドルを握った。真っ直ぐに、ジュリウスの元へ向かう。



 螺旋の樹は、相変わらず、そこに存在する。
 いつぶりくらいかな、ここに来るのも。あの日以来かもしれない。もしかしたら、一ヶ月前にも来たかもしれない。何度か樹の根元に訪れているので、忘れた。
 私は、深呼吸して、ジュリウスに、螺旋の樹に話し掛ける。
「久し振り、ジュリウス。前に来たときより、もっと、もっといろんなことがあったよ」
 ジュリウスにこの声は届いているのだろうか。私は、想いながら、思いながら、報告を続ける。
「あのね、ジュリウス。ジュリウスと、そっくりな男の子が極東に、ブラッドに来たの。ロミオとそっくりな子も一緒だよ」
 私は続ける。
「ジュリウスに、前、話したこと、覚えてる?ジュリウスと私、ブラッドに入隊する前に、会ったことないかって、そういう話。あれね、私、ずっとジュリウスだと思ってた。ジュリウスが、忘れてるんだと思ってた」
 私はジュリウスに向かって語りかける。
「あの話、ジュリウスの方が正しかったよ。その子だったの、ジュリウスにそっくりな男の子。男の子はね、ジュリウスの代わりなんだって。姿形も中身も全く同じだけど、だけど……」
 言葉が、詰まった。それを無視して、自分でもまとまらない言葉を、私は、吐き出していく。
「君は、正直だね。馬鹿がつくくらい、誠実で、真っ直ぐで、仲間思いで、そのくせ、独りで抱え込んで、こんな風にどっか行っちゃう。ジュリウスの代わりなんて、どこにもいないはずなのに、どこにもいないはずなのに……」
 ぽたり、雫が滴り落ちる音がする。ぽたり、ぽたり。それは、私から溢れる涙だった。
「やっぱり割り切れないよ。どうしてジュリウスじゃないと駄目なんだろう。世界も、私も。貴方じゃないと嫌だよ。貴方のお願いひとつ叶えてあげられないなんて、私、私は」
 雫は溢れて止まらない。止まってくれない。泣かずに笑顔でジュリウスに会いたかったのに。どうして、どうして。
「どうしたらいいか、分かんないよ……隊長は、ジュリウスしか居ない。私の大好きな人も、ジュリウスしか居ない。隣に居たいのも、居て欲しいのも、たった一人なのに、貴方が消えてしまいそうで、」
 何を言っているのか自分でも分からない。分からなくなってきた。
 ジュリウスがもしここに居たら、きっと、困ってしまうんだろう。私は、ジュリウスを困らせてばかりだから。私は、我が儘で、独り善がりで、そのくせ誰も、自分の大切な人一人助けてあげられない。願いを叶えてあげられない。
 ザッ、と、音がする。私は、バッ、と振り返った。
 そこには、
「……なまえ」
ジュリウスと全く同じ、全く違う、彼が居た。

title)レイラの初恋