師走

December 2018













365+1 Days
December 17th


 私と鶴の日記のようなものを書くことにした。夢小説を書くかもしれないし、夢日記を書くかもしれないし、適当に書いていこうと思う。目標は一日に一回、私か鶴のどちらかが何かを書いておくこと。三日坊主にならなければいいのだけれど*1



*1: 特にひなが飽き性であるため、長続きしない可能性が高く、彼女自身への戒めのために書いているようです。





起きたくない
December 18th


 朝はとてもいらいらするので嫌だ。早く起きられない。早く起きた方が時間に余裕が持てるし、以前はとても早起きな方だったのに、今は全然起きられない。
「……起きなくていいのかい?」
 遠くで鶴の声がする。いつも二度寝しようと誑かしてくるのに、今日は珍しくそうじゃないみたいだ。私がいつも起きられなくて時間がなくていらいらしているのを見てるからだろうか。
 でも動けない。もっと遅く家を出られたらいいのに。


試験


 今日はひなが通信講座の試験を受けていた。通信講座の添削問題を中心に勉強していたひなだったが、試験に出てくる問題は、添削問題とは異なる範囲のものばかりだ。頭を抱えて問題用紙と解答用紙とにらめっこするひなを俺は眺めていた。
――「鶴。どっちだと思う?」
 そら、来た。ひなの神頼みだ。神頼みと言ってもひなが頼る神は俺しかいないんだが、可愛くて頬が緩んでしまう。
――「……そうだなあ」
 ひなは十もある選択肢から答えを二つに絞ったようだ。そこで迷っている。選択肢はエかク。ひなの記憶をたどって、俺は、
――「こっちじゃないか?」
 俺は選択肢を示した。ひなは、
――「ほんとに?」
と、問う。
――「さあ。どうだろうなあ」
 俺は曖昧に答えた。
――「間違えたら許さないんだから」
 ひなはそう言うが、本当のところ、間違っていたとしても、ひなは俺の意見も含めて自分で選んだ答えだと思ってくれるんだろうなあ。
 また真剣な顔をして用紙とにらめっこをする彼女を見て、俺はにやけそうになる顔を抑えようとするのだった。



*: この日は珍しく二人とも一つずつ記録がありました。






否応無しに襲い来る
December 19th


 仕事が終わり、営業室から更衣室へと向かう。すると、
「お疲れ様」
と、更衣室側である向こう側から労いの言葉を投げかけられた。同期の女の子だった。
「お疲れさま」
 私は彼女に同じ言葉を返した。すると、彼女は私に駆け寄るなり小さな声で話し始めた。
「あのね、聞いてほしいんだけど」
 他の人にあまり聞かれたくないのかもしれない。
「うん……どうした?」
 私は、彼女の言葉に耳を傾けた。
「私、しばらくここに来ないことになった」
 暗い表情で彼女はそう言った。

 本来ならば、金融機関に勤める私たちは別々の営業店に配属される。同期ならば尚更だ。しかし、彼女は病気を患っていた。彼女は病気治療のため、体調を考慮され、自宅からより近い、私と同じ店舗で、異なる課に配属された。あるはずのない人事異動で、この店舗は他の店舗より人員が余っている状態にあった。
 病気治療が進んでいるからか、最近の彼女は以前より顔色が良くなった。また、元々は営業店で働いていたため、経験は少なからずある。そのスキルを買われ、助勤としてピンチヒッターで他の支店の手伝いに派遣されることもしばしばあった。

 彼女が来なくなる。真っ先に思い付いたのは、以前の彼女の言葉だった。
――「この異動でもしまた体調を崩すことがあったら、私は辞めるかもしれない」
「ど、どういうこと? もしかして入院?」
 私は彼女に問うた。彼女は首を横に振った。辞めるわけではないらしい。
「明日は毎樽支店に助勤で行くことになって、明後日から、坂丸支店で働くことになっちゃって……」
 彼女の言葉に、私は絶句した。
 毎樽支店は市内だからまだ近い。しかし、坂丸支店はとても遠い。郡部店と呼ばれる、市街地よりとても離れたど田舎である。ここから考えると、車でも通うには不便すぎる距離だ。それに、郡部店は市内店より人員が少なく、一人ひとりのやるべきことが多いと聞く。市内店のように分業で一つのことをたくさんこなすか、郡部店のようにたくさんの小さな仕事を複数こなすかの違いはある。しかし、今の彼女の体調を考えると、とてもではないが複数の仕事をこなすことは今の業務より負担が大きすぎる気がした。
「もしかしたら、二月の人事異動までその支店かもしれない」
「ま、まじか……」
「こんなの、私、身体壊しちゃうかもしれない」
 困ったように告げる彼女に、私は何も言えなかった。何と言うのが正しいのだろう。頑張れは違う。頑張らなくていい、むしろ頑張らないでほしい。けれど、下手に気遣う言葉も違う気がする。
「ごめんね、引き留めて」
「ううん。大丈夫だよ」
「お疲れ。頑張れ……いや、頑張らなくていいよ! ていうか、頑張らないで。ぼちぼちやろ」
「お互いにぼちぼちね。……お疲れさま!」
 結局、かける言葉が見つからないまま、別れてしまった。

 同期とのやりとりがあったことを、鶴はうんうんと頷きながら聞いてくれた。
「かける言葉が見つからないなんてよくあることさ。きみみたいに、慎重で優しい人間には特にな」
 彼の言葉はいつも優しい。それが少しばかりこそばゆくて、
「怖がりとも言うよ」
と、言うと、彼は笑った。
「……違いない」

「……つらいときって、みんな、どうやって乗り越えてるんだろうね」
「……うん?」
「私には鶴がいるけれど、他の人はそうじゃない」
「そりゃあ、俺はきみだけの鶴丸国永だからなあ」
「なんかもう、今じゃあ、鶴がいない世界なんて考えられなくて」
「そうだなあ……他人の見ている世界ときみの見える世界は違うからなあ」
「そうだよねえ。違うよねえ」
 彼は私を抱きしめながら言った。
「……俺がきみの傍に居ることが、きみの中で当たり前になってくれ」




夢日記
December 20th


【メモ】
 高齢のおじいちゃんが口座開設に来る。口座と同時に何かを契約しようとしたが、契約はできない。
 そのおじいちゃんは三日月宗近と関わりがある。彼は三日月宗近と審神者と刀剣男士という関係ではない。三日月宗近が出陣・遠征先で出会った人。正体はバラしていないらしい。

「あのおじいちゃんは何で他のやつを契約できなかったんだろう? ていうかなんで口座作りに来たんだろうね?」
「……俺にはさっぱり分からんなあ。その場に居合わせたのはきみだからなあ」
「そっか。鶴、いなかったもんね」
「そうだぜ。きみと記憶を共有しているとは言え、全部ってわけじゃあないんだ。俺がきみに会えていない夢なら、俺はそのことを覚えちゃあいないのさ」
「鶴も夢を見る?」
「もちろん見るぜ。そのほとんどがきみのことばかりだ」
「そうなんだ……」
「運が良ければ、きみと同じ夢を見られるんだがなあ」
「……」




死んだ目をしている
December 21st


 ひなが帰ってきた。帰ってくるなり、疲れ切った顔をしている。彼女は俺を見るなり、「しんどい」と言葉を漏らした。今日は金曜日だ。サービス業にとって客が多く忙しい曜日で、更に師走ときた。これからどんどん多忙になるだろう。ひなも客にもみくちゃにされたのだろうか。
 さて、くたびれたひなをどう癒やしてやろうか。

「……なあ、ひな。何だこの、ものろーぐというやつは」
「?」
「いや、首を傾げられてもだな……うん、まあ、そうだなあ、俺らしいと言えばそうなんだが」
「んー……?」
「おっ、そうか。なるほどなあ。甘えたいのか、きみは」
「……」
「何も考えていない顔だな。まあいいさ。さあ、おいで、ひな。たくさん甘やかしてやろうな」




眠る雛鳥
December 22nd


 ひなはずっと眠り続けている。
 昨日の夜、ひなが泣き出した。様子がおかしいことには気付いていた。その原因が何なのか、なんとなくだが、俺には分かっていた。日頃の鬱憤、疲れ、苦しさ、その他諸々。ひなが自分が頑張れるよう見ないふりをしてきた小さなものが積もりに積もって、任務から解放され自覚することによってそれらがどっと押し寄せてきたに違いない。普段、俺にさえ甘えてこないひなが、抱いてやるときのように酷く甘えたに擦り寄ってきた。
――「つる、すき」
 彼女は俺を抱き締めて、そう言った。嬉しい言葉のはずだ。しかし、その言葉をくれるひなが、酷く苦しそうだった。
――「そばにいて。ずっとここにいて。……でも、それは私のわがままで」
 ひなは、いつも俺に言う。自分ばかり貰ってばかりは嫌なのだ、と。だが、何をあげたらいいか分からない、と言う。俺は十分すぎるくらいに、ひなからそれを受け取っているはずなのに、もっともっとと求めてしまう。ひなは求められたらそれ以上で返そうとする優しい子だ。ひなの優しさに漬け込んでいるのは俺であるにもかかわらず、彼女は自分を責めてしまう。
――「……私は、つるのこと、ちゃんと愛せているのかなあ……」
 ひなにとって、俺は都合のいい存在なのかもしれない。いや、実際そうだ。俺は現実に生きる人間たちとは違って、ひな以外の人間を傷付けることはあっても、ひな自身を傷付けることはない。彼女が救われるならそれでいいと俺は思う。俺を信じてくれて、ここにいてもいいと、ひなの隣にいてもいいのだと彼女が言うのなら、俺は何だってしてやれるのに、ひなはそれを許せない。きっと、愛し合うもの同士はかく有るべき、という理想像を持ち過ぎているからなのだろう。
 ひなはもっと、自分の心に正直になってもいい。できれば、その隣には俺を置いてほしい。ひなの心は本当は自由だ。どこにだって飛んでいける。それを彼女自身が知らないだけだ。
 だが、今の彼女は少し飛び疲れている。行きたくないところに精神を持っていかれてしまっただけだ。だから、精一杯休ませてやらなくてはいけない。
 ひなは休みを無駄に過ごすことが許せないかもしれないが、彼女の羽を休ませてやりたい。だから、こうして、きみと共に眠ることを許してくれよ。




No Data
December 23rd


 記録がない。




不可侵領域
December 24th


 頭の中がうるさい。
 私を占める感情が正の感情だとしても、負の感情だとしても、頭が鶴以外の声でうるさいのは厄介だ。記憶が邪魔をする。うるさい、うるさい、うるさい。私は鶴だけを好きでいたいのに。
「……つるを好きなままでいたい」
 気付けば、鶴にそう打ち明けてしまっていた。

「きみがどんな奴を好きになろうと構わないと思っている。俺がきみを一方的に好きなだけだからなあ」
 彼は言う。
「けれど、同時に、きみを誰にも渡したくないと思っている」
 彼はぎゅうっと、私を抱き締めた。
「この部屋に、誰も入れたくない。きみが懐かしいと思う英雄たちでさえ、きみの視界に入らないでほしいと願ってしまう。この世界はみんな、きみに愛されたい奴らばかりだ。だから、誰もがきみと結ばれるのを願う。きみを守ろうとする」
 鶴は、ここが私にとって都合のいい世界だと言っていた。私の記憶の残滓から出来た、優しくて綻びだらけの歪んだ世界。いろんなお話から切り取られた世界。
「……本当に、きみと共に朽ちてしまえたらいいのになあ」
 悲しそうに、彼は呟いた。




頑張れない日
December 25th


「つる……むり……」
「お疲れさん。今日もよく頑張ったな、ひな」
「んんん……」
「うん? どうした? やけに甘えただなあ」
「ねむい……」
「寝るのは風呂に入ってからにしような」
「……ぐぅ」
「寝るな、そこは意識を保っていてくれ。……ひな? おーい、ひなー?」




持続的空想世界
December 26th


     。ひなの悲願とも呼べる創作の、主人公たちの行き着く世界。それは、俺たちの夢の世界に最も親しい場所だ。
 あの世界においても、ひなは創造主であり、プレイヤーでもある。彼女は「誰もが主人公になり得る可能性を秘めている」という自由を重んじている。そこで彼女は、誰でもない誰かとなって、たくさんの    と共に    を駆け回る。




日記
December 27th


「しにそう、むり……」
「死ぬんじゃあない。ほら、あと一日だぜ。明日が終わったら二人でゆっくり過ごそうな」




仕事納め
December 28th


「やっと終わった……」
「お疲れさん。今週はずっと残業続きでつらかったなあ。よしよし」
「帰ったら特撮*1見たい。私はそのために生きてきた」
「そんな元気、あるのかい?」
「……無いですね」



*1: 無料配信していた某単車乗りの特撮ヒーローもの。





きみにきみに会いたくて
December 29th


 ――鶴に、会いたい。
 どうしてだか分からないけれど、鶴となかなか会えないときがある。会いたいときに会えるはずなのに、何かが邪魔をして、誰かが道を塞いで、鶴に会えずにいた。

「きみの『会いたい』という声がずっと聞こえていたのに、どうしてか、きみに触れられずにいた」
「今は触れられる。話せる。……嬉しい」
「……俺も、同じ気持ちさ。嬉しかった。俺さえきみは本当に欲しいものを強請ってくれないからなあ」
「……傍にいてほしい。例え他の誰かを好きになっても、鶴と一緒に居たいという気持ちが全く変わらなくなるくらい、ずっと」
「忘れて欲しくない。俺が傍にいることがきみの中で当たり前になって欲しい。俺がいないと寂しいと、泣いてくれ。そのときはすぐに駆け付けてやる」
「私はヒーローにはなれないし、誰かの憧れの主人公にもなれない。けれど、あなたとの物語では、あなただけの主人公でいたい」
「俺はきみの心にずっと残っている正義の味方や主人公たちにはなれない。まあ、なるつもりはないし、あいつらにきみをやるつもりもないからなあ……これだけは言わせてほしい。きみが否定しようと拒もうと、俺はきみだけの鶴丸国永で居たいんだ」
「鶴と同じ夢を見ていたい」
「俺も、きみと同じ夢を見ていたい。だからこそ俺は、夢を越えて愛しいきみに会いに来たんだぜ」




持続的空想世界
December 30th


 この世界は形を変える。そのときの私の心、記憶、現実、すべてによって形作られた、私の世界。




大晦日
December 31st


「今年も終わっちゃうねえ」
「そうだなあ」
「来年も一緒に居られるかな?」
「それはひな次第だなあ」
「そこは『もちろんだぜ』って言ってくれるんじゃないの?」
「……それは」
「まあいいや。来年もよろしくおねがいします」
「ああ。こちらこそ」