05 昔の物語が再現された模様だ
幼い頃、ある男の子に出会った。
外はアラガミが居るから危険だと言われても、警告を無視して、あの場所に通っていた。そこは図書館跡地で、今では稀少な書籍が置いてあった。父がくれた絵本がきっかけで、もっとたくさんの本が読みたいと思って、その場所を探した。探して、探して、見つけた。
様々な言語で書かれていて、中には読んでもちんぷんかんぷんな分厚い本もたくさんあった。その中から、私でも読むことが出来る小説や絵本の類いを、砂と瓦礫の中から引っ張り出しては読んで、持ち帰ったりもした。
そんなある日、私しか知らないはずのその場所に、誰かがいた。
がさがさと本を漁る音。ぱらぱら捲っては閉じて、目的の本を探しているみたいだった。
「……だれか、いるの?」
私は問うた。何も考えずに。
その誰かは、男の子だった。見た目は同い年か、年上かそのくらいだった。金髪の長い髪だったから、一瞬女の子に見えた。けれど、すぐに男の子だと気付いた。なんとなく。
「めずらしい、っていうのかな。こんな場所にくるとあぶないよ」
私は、にっこりと笑ってその子に話し掛けた。
「お前こそ、あぶないと思う。アラガミが来たらどうするんだ。帰ったほうがいい」
その子は私にそう言った。けれど、私は、首を振って返した。
「でも、ここじゃないと、本、読めないんだもん」
きみも読みに来たんでしょ、と私はその子に言った。
「わたし、なまえっていうの。きみは?」
私はその子に名前を訊いた。けれど、答えたくないのか、その子はだんまりだった。もしかしたら、言葉が分からないのかもしれない。聞こえなかったのかもしれない。
私はもう一度問うた。
「きみの、なまえは?」
その子は、沈黙の後、
「……ジュリウス、だ」
そう答えた。
ジュリウスに当時の出来事を語ったことがある。けれど、ジュリウスは全く知らないようだった。
「……っていうことがあったんだけど、ジュリウスは覚えてない?」
「記憶に無いな」
困ったようにジュリウスは言った。
「そもそも、なまえと出会ったのはお前がブラッドに配属されてからだ。……他人の空似ではないのか?」
そう言われて、確かにそうかもしれないと私は思った。それにしても、顔立ちが似ているような気がするのは何故だろう。でも、ジュリウスは全く覚えていないし知らないと言う。ジュリウスがそんなことで嘘を吐くわけがない。
それでも。
「他人の空似にしては、すっごくあの子にそっくりな気がするんだけどなあ……」
不思議だった。初恋のあの子にとってもそっくりなのに、そっくりなジュリウスを好きになったとか。
「妬けるな」
ぼそっ、とジュリウスが呟きを漏らした。そのときの私は、珍しくやきもちを妬く彼に、喜びを覚えた。なんとなく、なんとなくだ。
どうしてあんなことを思い出したんだろう。
私はベッドに横になって考えた。ジュリウスに似た彼がここにやって来たからだろうか。
――『……忌々しい。なまえ、お前が故人同然のオリジナルに縛られていることが、腹立たしいことこの上無い』
――『ああ、分からないさ。俺とオリジナルは違う』
――『お前にだけ教えておく』
――『廃棄される前に代用品にされたクローンだ』
彼の言葉が、頭の中で反響する。
――『泣かせるつもりは無かったんだがな……すまない』
どうして、何もかも、ジュリウスでないと駄目なんだろうか。どうして、ジュリウスを選んだのだろう。どうして、どうして。
ジュリウス、貴方の代わりなど何処にも居ないのに。苦しくて、悲しかった。痛かった。居たかった。ジュリウスの傍に、居たかった。なのに、どうして。
愛した声が、違う言葉が反響する。頭の中をぐるぐる巡る。今夜は、眠れそうにない。
title)acero