珍しいこともあるもんだ

「ひな。起きろ、ひな。時間だぜ」
 彼女にそう声をかけるも、一向に俺を離そうとしない。今週は特に、疲れた様子を見せていた。面倒なお客様とやらの依頼のせいか、はたまた他人にとっては繊細な職種だからか。
「……起きたくない」
 ひなは俺に跨った。しがみつくような格好だ。ついさっきまで、俺が寝ておけと甘やかす側だったのに、と思いつつも、さすがにこの時間だ。遅刻をしたり時間に余裕がなくなったら困るのはひなだ。彼女の不安はできるかぎり拭っておいたほうがいい。
 しかし、ひなは俺を離さない。それどころか、口付けてくる始末だ。完全に寝惚けている。
「……ひな?」
「やだ……」
 彼女を呼ぶと、小さな子どものようにいやいやと首を小さく振った。
「つるがいてくれなきゃ、いやだ……」
 ひなは言う。何度も見てきた、少し泣き出しそうな顔だった。
 少しは俺の気持ちも分かってくれたのだろうか。

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