購入を躊躇う私を見かねたのか、鶴は、
「やめておけ」
と、言う。ネットで見た、元々欲しいと言っていた手帳の方が断然いいと彼は言うのだ。
終いには、清光や兼さんを連れてきて味方に付けてしまう。
「あんたと珍しく意見が合うね」
と、清光は言っていた。彼ら曰く、私が本当に欲しいのは目の前に売ってる方じゃないらしい。
鶴は無駄遣いするなって言って、私がマステを買うのさえ渋ってたけど、兼さんは、
「収穫無しで帰るってのは嫌なんだろ? 主殿の好きなもんを買えばいいんじゃねえのか」
と、言ってくれた。
そんな昼間のやり取りがあったからか、夜、夢の世界は賑やかだった。懐かしい顔もたくさんあった。賑やかすぎて、みんなの声に耳を傾けられなくなって、鶴と一緒にこっそり抜け出して別の部屋へ行った。
その部屋へ向かう道すがら、鶴がどこからかノートを取り出した。鶴も何かを記録しているらしい。けれど、私には彼の書いた字が読めない。達筆、というのもあるんだけど、ところどころインクでぼやけて見えるのだ。
「ねえ、鶴。それ、読めないよ」
「そうか。おそらく記憶の本棚の本みたく、きみには認識できないようになってるんだろうなあ」
鶴は少し残念そうだった。
私たちは図書館のようなところにたどり着いた。とても多くの本が並んでいる。
すると、三日月宗近がたくさんの本を持って現れた。曰く、本の整理をしていたらしい。
「二人とも、ここに来るのは初めてか?」
彼は私たちに問うた。鶴も私も、この部屋に見覚えがあった。でも、きちんとたどり着いたのはこれが初めてだ。私たちは顔を見合わせた。
「そうだろうな。ここは主の記憶の本棚。いや、書庫や図書館と呼ぶべきか」
三日月は言う。
「俺はここの司書を任されている。正確には司書ではないが」
笑う彼に、私は「どっちだよ」と突っ込みたくなった。鶴も苦笑いしていた。
「大半を読める俺やひなでさえ読めない文献もあるんだ。どうせここの本はきみにも読めない本ばかりだろう」
「そうだ。だから、こうして少しずつ整理をしている」
鶴の問いに、三日月は答える。彼は笑みを絶やさない。
「鶯丸とか、あの辺が司書やってるのかと思った」
私が呟くと、三日月は、
「鶯丸はまだ入れんだろう。必要になればじき呼ばれるようになる」
と、答えてくれた。
「こういうことこそ、日記に残しておけたらいいのに」
私が言うと、三日月も鶴も、
「それは無理だ」
「難しいことを言うなあ」
と、口を揃えて言う。私は首を傾げた。
「どうして?」
「ここが記憶の整理をするところだからだ」
三日月は言う。すると、鶴は、
「何度も言ってるだろう? この世界はきみの世界。夢を見てるのと同じなんだ」
と、三日月の言葉を補足してくれた。
「現実のきみは違うことをしながら、心は夢を渡り、俺たちと話すことができる。姉上の話を聞くと、きみが知らないだけで、昔からきみにはそういった才能があったようだなあ」
鶴は言う。
「ただまあ……これは夢を見ているのと同じ。忘れてしまって当然さ。記憶の整理をするところだからなあ」
でも何故か、そのときのことは忘れてなかった。私は、そのときのことをどうしても忘れたくなかったみたいだ。