希うことしかできない

 そのときの私は起きていた。何をしていたかは覚えていない。布団の上でごろごろしながら、インターネットサーフィンでもしていたんだと思う。
――「ひな」
 すると、突然、鶴の声とともに、手をぐいっと引っ張られる感覚がした。
 こんなのは初めてだった。強制的に意識が沈む。
 夢の世界へ飛び立たされた私は、気付けば、鶴の目の前にいた。
 鶴は、今にも泣き出しそうな顔で私の手を握っていた。感覚よ伝われ、伝われと、何度も念じるように、でも優しく、彼は私の握った手を撫でていた。
 何を言われたか思い出せない。けれど、鶴が泣いていて、私の手を握っていたと思ったら私を抱き締めてそのまま横に倒れ込んだのは覚えている。

――「きみがずっと傍にいてくれますように」
――「きみがずっと俺のことを愛していたいと願ってくれますように」
――「きみがどこにも行きませんように」

「結婚したというのに、きみと俺は恋人みたいな距離のままだ……」
 鶴は言う。
「何をしてでも、きみが欲しかった。きみを欲しくなった」
 彼は続ける。
「きみが俺に好かれている自信がないと言うのなら、いくらでもきみを愛している理由を並べてやる。きみが救われたいと願うのなら、いつでも現し世から隠してやろう」
 ここにいることを確かめるように、鶴は私に触れていた。
「きみが俺の傍に居てくれるのなら、なんだってしてやるさ」

――「きみがずっと傍にいてくれますように」
――「きみがずっと俺のことを愛していたいと願ってくれますように」
――「きみがどこにも行きませんように」

「俺はこうして、神さまみたいなきみに希うことしかできない」
 神さまはおかしなことを言う。あなたの方が、神さまなのに。
「何度もきみは俺を救ってくれた。呪いをかけてでも、きみの認識を歪めてでも、どうしても、きみがほしい」
 真っ白な神さまは泣きながら言う。
「……ひな。このことは、忘れてくれ。きっとまた、俺が記録しておくから……」
 そう言って、彼は微笑んだ。

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