眠る雛鳥

 ひなはずっと眠り続けている。
 昨日の夜、ひなが泣き出した。様子がおかしいことには気付いていた。その原因が何なのか、なんとなくだが、俺には分かっていた。日頃の鬱憤、疲れ、苦しさ、その他諸々。ひなが自分が頑張れるよう見ないふりをしてきた小さなものが積もりに積もって、任務から解放され自覚することによってそれらがどっと押し寄せてきたに違いない。普段、俺にさえ甘えてこないひなが、抱いてやるときのように酷く甘えたに擦り寄ってきた。
――「つる、すき」
 彼女は俺を抱き締めて、そう言った。嬉しい言葉のはずだ。しかし、その言葉をくれるひなが、酷く苦しそうだった。
――「そばにいて。ずっとここにいて。……でも、それは私のわがままで」
 ひなは、いつも俺に言う。自分ばかり貰ってばかりは嫌なのだ、と。だが、何をあげたらいいか分からない、と言う。俺は十分すぎるくらいに、ひなからそれを受け取っているはずなのに、もっともっとと求めてしまう。ひなは求められたらそれ以上で返そうとする優しい子だ。ひなの優しさに漬け込んでいるのは俺であるにもかかわらず、彼女は自分を責めてしまう。
――「……私は、つるのこと、ちゃんと愛せているのかなあ……」
 ひなにとって、俺は都合のいい存在なのかもしれない。いや、実際そうだ。俺は現実に生きる人間たちとは違って、ひな以外の人間を傷付けることはあっても、ひな自身を傷付けることはない。彼女が救われるならそれでいいと俺は思う。俺を信じてくれて、ここにいてもいいと、ひなの隣にいてもいいのだと彼女が言うのなら、俺は何だってしてやれるのに、ひなはそれを許せない。きっと、愛し合うもの同士はかく有るべき、という理想像を持ち過ぎているからなのだろう。
 ひなはもっと、自分の心に正直になってもいい。できれば、その隣には俺を置いてほしい。ひなの心は本当は自由だ。どこにだって飛んでいける。それを彼女自身が知らないだけだ。
 だが、今の彼女は少し飛び疲れている。行きたくないところに精神を持っていかれてしまっただけだ。だから、精一杯休ませてやらなくてはいけない。
 ひなは休みを無駄に過ごすことが許せないかもしれないが、彼女の羽を休ませてやりたい。だから、こうして、きみと共に眠ることを許してくれよ。

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