乱菊曰く



侑李さんは、不思議な雰囲気の人だ。
どこにいても違和感がなくて、どこにいなくても違和感がない、そんな人。




「あっ、侑李さ〜ん!」

「あら、乱菊ちゃん」

「今週飲みに行きましょ!修兵とか恋次とかそこらへんも誘って!」

「いいですね。日程ならできるだけ合わせるので、また決まったら連絡くださいね」

出会い頭にこうやっていきなり誘っても、侑李さんはいやな顔一つしないで快諾してくれる。仕事がある時はきちんと断るので、押しに弱いというわけでもない。
誰に対しても人当たりのよい侑李さんが二番隊所属だと最初に聞いた時は、驚いたくらいだ。隠密起動よりも瀞霊廷通信とかの編集部の方が納得できるようなイメージだったから。
でも、(隠密起動の組織体制はよくわかってないけど)情報を取り扱う部隊の隊長と聞いて、ストンと納得した。
侑李さんの周りにはいつも情報が集まる。誰に対しても心地よい一定の距離を保つから、侑李さんと元から仲がいい人は勿論、普段絡まない人でも特に抵抗なく侑李さんといろんなことを話す。

さて、そんな誰とでも一定の距離を保つ侑李さんだけど、唯一例外がいる。
それが、

「あ、姉さんや。こんにちはァ」

「ギンってその目でどれだけの視界を確保できてるの?」

「何ですの、いきなり」

ギンだ。
基本的に丁寧な言葉を使う侑李さんは、あたしの幼馴染に対してはなんだか気さくだし軽口もたたく。ギンもギンで侑李さんのことを「姉さん」と呼んで慕っているし。一体どういう関係なのかしら。
ギンに聞いてもはぐらかされるし、侑李さんに飲み会の時に聞いてもなんかいつの間にか別の話題になっているし。
そうやってはぐらかされると余計に気になるのよねぇ。でもあの二人からはずっと聞き出せてないし。

「……ん、そういえば」

もう一人いた。侑李さんが気さくになる相手。




「ねぇ七緒〜、侑李さんって何でアンタとギンにだけ特別距離が近いの?」

押しかけた八番隊で、今日もクールに書類をさばいていた七緒はあたしの姿を見てため息をついた。

「日番谷隊長がカンカンになって探していましたよ」

「これだけ聞いたら戻るから!ね?」

「私に言われても……」

それでもあたしがテコでも動かないことを経験上知っている七緒は、眼鏡の位置を直してもう一度ため息をついた。書類を確認して仕分けする手は止めないままで、疑問に答えてくれる。

「私は小さい頃から可愛がっていただいていましたから。恐らく市丸隊長も同じ理由だと思いますよ」

「そっか、アンタも確か結構前から護廷十三隊にいたんだっけ」

この友人は見た目に反してそんじょそこらの死神よりも勤務歴が長い。小さい七緒が瀞霊廷をうろちょろしていたらそりゃあ可愛がるだろう。あたしだってかわいがる。
うんうんと頷いて納得しているところに、涼しい顔をして大きい七緒が爆弾を放り込んだ。

「まあ、以前は私や市丸隊長以外にも砕けた感じでしたけどね」

「えッ、そうなの!?どんな感じ?」

何それ、すっごく気になる。
思わず身を乗り出したあたしの頭をぐいと押しのける七緒の表情は何一つ変わらない。

「侑李さんが言わないことを私が勝手にいうわけにはいかないので」

「ちぇ〜つれないのね」

正論ではあるので引き下がるしかないんだけど。
でも、なんとなくだけど、ギンに対する態度みたいな感じだったのかなと思った。いろんな人に軽口をたたいたり、ちょっかいをかけたりする少し若い侑李さん。想像してみるとなんだか楽しそうで、自分の口元が緩むのがわかった。
きっとモテたんだろうなぁ。

「ま、今度根掘り葉掘り聞くことにして、今日はそろそろ帰るわ。隊長に黙ってサボってきてるわけだし」

「今度お答えするかはわかりませんが、帰った方がいいのは確かですね。日番谷隊長にはもう連絡をいれていますので」

「マジ!?」

さっき何やら伝令神機を弄っているわね、とは思ったけれども。早いところ退散しないと隊長が青筋を立てて怒鳴り込んできちゃう。あんまりカリカリすると成長分の栄養がそっちに回っちゃうのに。
バタバタと帰る準備をしていれば(なにせ手持ちのお菓子を机や椅子にばらまいていたので)、そこで七緒が初めて手を止めてこっちを見た。

「私からみれば貴女も随分特別だと思いますけどね」

「あたしがァ?」

「下の名前で呼ばれているでしょう」

「それって」

どういう意味、と続けようとしたけど、日番谷隊長の霊圧が近づいているのに気づいて慌ててその場を後にした。




『松本副隊長じゃなくて乱菊って呼んでくださいよ〜!』

『さすがに席次が上ですから』

『ぶ〜。あっ、でもでも、ギンは呼び捨てしてますよね?』

『あの子は入隊当初から知っているので、もうクセですね』

『え〜〜〜じゃあそのクセをあたしにも!こう見えてギンと幼馴染なんですよ!』

『あら、……そうなんですか』

『実は!なので、ねっねっ!』

『そうですねぇ……じゃあせめて、乱菊ちゃんで』




侑李さんは、不思議な雰囲気の人だ。
どこにいても違和感がなくて、どこにいなくても違和感がない、そんな人。
どうしてそうなったのか、昔はどんな人だったのか、ギンとのことをどう思っているのか、……あたしのことをどう思っているのか。

今はまだ聞けないけれど、いつか話してもらえたらあたしもギンのように「姉さん」って呼んでみようかしら。