「やぁ、侑李ちゃん」
「どうも、京楽隊長。リサいます?」
「確か平隊士達の稽古につきあっているはずだよ。どうかしたかい?」
「この後甘味処行こうって約束してて」
「いいねぇ、僕もついて行っちゃおうかな」
「リサが『仕事終わらんかったらウチの代わりにやってもらう』って言ってたんで、多分無理ですよ」
「あはは、リサちゃんらしいねぇ」
感想はそれでいいのか、八番隊隊長。
「リサ、暇。超絶面白いボケやって」
「布団が吹っ飛んだ」
「わ〜抱腹絶倒〜」
稽古は終わったけど書類仕事をある程度済ませてから、と言われたので執務室でリサが無表情のまま仕事をさばいているのをのんびり眺めていた。
こう見えて私の友人は結構真面目なのだ。いや、見た目は真面目だけど口を開けば意外とそうじゃないと思う人が多くて、でも実際はきちんと真面目だということで。んん、なんか頭がこんがらがってきた。
というかそもそもの話、
「隊長格、リサも含めてみんな色々と濃くない?話してるといっつも胸やけしそうなんだけど」
「気づいてへんようやから言うとくけど、隊長格やなくてもアンタも相当やで」
「この平々凡々の私のどこが?」
「平々凡々な死神は隠密起動の部隊長になんかならん」
「ぐぅ」
「ぐぅの音も出さん」
「それはさすがに平々凡々な人への理想が高すぎじゃない?」
ぐうくらいはみんな言うと思う。
そうやって仕事をしている友人にちょっかいをかけていると(何せ私は今日の仕事は終わらせてから八番隊にきたので)、寝っ転がっていた長椅子の上ににゅっと影がかかった。
「侑李ちゃんは霊術院時代から平子隊長と一緒に注目されていたよねぇ」
「わ、京楽隊長。おかえりなさい」
いきなり会話に入ってきた八番隊隊長は、さっき入ってくる時に入れ違いで隊舎を出て行っていたはずだ。何か忘れ物でもしたのだろうか。
不思議に思っていれば、京楽隊長が私越しにリサに声をかける。
「リサちゃん、僕の用事は終わったからいつでも休憩入っていいからね」
「おん」
あっ、なるほど。流石に有事でもないのに隊長格二人がいないのはまずいって思って、隊長が戻ってくるのを待ってたのか。それのついでに書類をしていたと。へぇ、なるほど。
「リサって結構いい女よね」
「侑李ちゃん、分かっちゃう〜?」
「そりゃあわかりますよ!なにせ心の友と書いて心友ですからね!」
「言うねぇ〜」
「仕事の邪魔するんやったら追い出すで」
ぴしゃりと言い放ったリサに、京楽隊長と顔を見合わせて肩をすくめた。やれやれ、恥ずかしがり屋なんだから。
隊首室に行って仕事するのがいやなのか、席官がいないことをいいことに手ごろな椅子に腰かけた京楽隊長は、一個前の話をもう一度引っ張り出してきた。
「平子隊長も侑李ちゃんも、成績がいい問題児って噂だったよね」
「遺憾の意ですね。平子隊長はともかく、私はとてもいい子でしたよ」
「ふふふ、当時の学院長から聞いた話とは少し違うなぁ」
「……んふふ〜」
笑ってごまかした。ごまかせているかわからないけど。
「どこが二人をとるかでまたひと悶着あってね。侑李ちゃんは最初は一番隊配属だったんだっけ?」
「そうですね。で、しばらくしてから夜一様に引き抜かれて二番隊に」
おぬしは隠密起動の方が輝けるぞ。儂のところにこい、才能を存分に使わせてやる。
そんなことを言われて、あれよあれよという間に移隊手続きが進んで、いつの間にか二番隊にいれられていた。今となっては感謝しているけど、当時は本当に何がなんだかさっぱりだったのを覚えている。
「そんな子が今じゃ隠密起動の隊長さんか。僕や浮竹も年をとるわけだ」
「まあその間に周りはどんどん隊長格になっていったんですけどねぇ」
ていうか京楽隊長も浮竹隊長も全然見た目変わったように見えないし。
「京楽隊長、少し相談したいことが……」
「はぁ〜い、隊首室で聞くよ。じゃあ侑李ちゃん、ゆっくりしていってね」
「ありがとうございまーす」
そういって八番隊の平隊員と一緒にのんびり出ていく京楽隊長を見送った後。
「リサ、あとどれくらい?」
「キリええとこまで」
「あいあい」
こんなに時間を持て余すならなんか本でも持ってくればよかったなぁと思いながらぐるぐると手近な椅子を回して遊んでいると、ぱたぱたと足音が聞こえてきた。他の人よりも軽めのそれに聞き覚えがあったので入口の方を見ていれば、ぴょこんと顔を出したのはやっぱり見覚えのある少女だ。
「あの、矢胴丸副隊長いらっしゃ……あっ」
「七緒だ〜どうも〜」
「こんにちは、立花三席」
「どないした?」
「この書類に副隊長と隊長の署名をいただきたくて……」
「見せてみい」
小走りで近寄った七緒から差し出された紙をざっと見たリサは、さらさらと自分の名前を下に書いて捺印をしてから返した。
「あのアホは丁度出ていったところや。隊首室行けばつかまえられる」
「ありがとうございます」
「あら、一人で行かすの?」
てっきりついて行くのかと思って、私も一緒に行こうと腰を浮かせたところだったのに。リサがフンと鼻をならす。
「自分の隊長の所くらい一人で行けるようにせな」
「まあそれもそうか。七緒、途中で変なおじさんにつかまらないようにね」
「七緒から見たら皆変なオッサンやろ」
「そうなんだけど〜」
小さい女の子は、やっぱり心配をしてしまうのだ。お節介を焼いてしまいたくなる。
なんだかんだリサも似たような気持ちは抱いているようで(隊長室に一人で行けるように〜というのは一種の親心のようなものだろうし)、控え目にお辞儀をして出ていこうとしていた七緒を呼び止めた。
「後学のために、どんな男がええ男かを教えたる」
「はっ、はい!」
なんか出だしから嫌な予感がする。
「ええか、七緒。よく覚えとき。男の決め手は顔の良さちゃう、器の広さもちゃう」
七緒が真剣な表情でゴクリと唾をのんだのを見てから、表情を変えずにリサは口を開いた。
「アソコの大き……ッダァ!何すんのや!」
「情操教育!」
「下世話なオッサンに下ネタふられた時にばっさり切り捨てられるよう、今から切り返し方を学んどかなあかんやろ!」
「心配の方向性が少し違う!」
そして実践じゃなくていい!
幸い意味が分からないのか七緒は目を白黒させたままこちらを見ている。どうかもう少しはそのままでいてほしい。
「ええと、顔でも器でもないなら何なんでしょうか?」
が、この場を切り抜けなければそのままも何もない。
散々頭の中をいろんな言葉や建前が駆け回った挙句、出てきたのはいつも思っていることだった。
「お互いの原動力になれるかどうかかな」
「原動力、ですか?」
「うん。自分を受け止めてくれる人、その人と一緒なら安心して一人の時よりももっと遠くに行けるって人。……それで、相手も同じことを思ってくれてるってわかる人」
「えっと……」
「うーん、ごめんね。私もあまりうまく言葉にできなくて。でも七緒も、いつかそういう人と恋ができるといいわね」
とりあえず書類を隊長のところにもっていったら?と軽く肩を押してやれば、はっとした七緒はまたお辞儀をすると、小走りで執務室を出ていった。
「はぁ〜、なんとかなった」
ずっと黙っていたリサの方に視線をやる。てっきり七緒を私に任せて書類を進めているのかと思いきや、こっちを何ともいえない顔をしてみているだけだった。
「早く終わらせてよ。そろそろ八つ時で混み始めちゃう」
「行かへん」
「はぁ?なんで」
「アンタの惚気でもうおなか一杯や」
「さよけ」
「ケっ、真子の口癖移ってんで」
そう毒づきながらも、親友は執務机から立ち上がった。