意外と気に入ったらしい



「あっっっつ……」

「侑李、顔ヤバいで」

「こんな暑さでヤバくならない方がヤバい」

カンカン照りという言葉が似合う日の差し具合だ。今年はここ数年イチの猛暑だって誰かが言ってたなぁ。
リサとかき氷を食べに行こうと八番隊の居室を出たはいいけれど、このままだと到着するまでに自分の方が溶けてしまいそう。

「無理、ただでさえ暑いのに死覇装が黒なせいで余計暑い」

「あたしとお揃いの死覇装着やん?」

「お気遣い誠にありがたいのですが、ご遠慮させていただきたく存じます」

「あんたのよりは涼しいで」

「生足を晒すのはちょっと……。流石に私も人並みの恥じらいはある」

「あん?」

「はあ?」

お互いの視線が交差したけれど、いくらもしないうちに黙ってまた歩き出した。口喧嘩(じゃれあい)をしている余裕がないくらいには日差しが厳しい。
早い所涼しい店内で氷を口いっぱいに頬張りたい、その一心で二人して足を休めずにいれば、少し遠くの通りを見慣れた人影が横切ったのが見えた。

「あ、浦原隊長とひよ里だ」

向こうもこちらに気づいたらしく、手を振れば振り返してくれた浦原隊長の横で我らがひよ里様はフンと鼻を鳴らして腕を組んだだけだった。すごい、ひよ里ってばいつ見ても浦原隊長よりも偉そうにしてる。
あ、浦原隊長が何かひよ里に話している。……と思ったら思い切り蹴り飛ばされていた。そのままひよ里によって引きずられていく浦原隊長にもう一度だけ手を振る。

「『ひよ里さんもアッチ行ってきてもいいですよ〜』みたいなこと言われたにこの後のかき氷」

「そんなん賭けにならへん」

「だよね」

あそこの言い合い、というか掛け合いは大体いつもそんな感じだ。曳舟元隊長の時とはまた違った距離感にはもうすっかり慣れた。

「それにしても隊長羽織暑そうだなぁ」

思い出すのはさっき見かけた浦原隊長の隊長羽織だ。あれを見るともうあの人は二番隊三席じゃないんだなぁとしみじみしてしまう。会えば楽しく話すから寂しくはないんだけど。

「夜一様とかはよく隊舎で羽織脱いでるけど、他の隊長もそうなのかな」

「真子とかよく脱いどらん?」

「確かに」

五番隊の隊首室を覗くと四回に一回くらいは羽織を脱いでいる真子に出くわす。(ちなみに二回に一回くらいの割合でそもそも部屋にいない)
やっぱりみんな外出る時は総隊長に何言われるかわからないからきちんと着ているだけで、隊長羽織は暑いって思ってるんだな。そんな中もう一枚上に羽織っている京楽隊長のお洒落に対する意識の高さに思いをはせていると、横からわざとらしい咳払いが聞こえた。
言わずもがな、リサだ。

「あ〜、そういや思い出したことあんねんけど」

「さよなら」

「ききいや!」

「やだよろくなことない!」

リサの棒読みの「あ〜」から始まる話題でまともな話だった記憶がない。

「心配しんときゃあ、ちゃんとろくでもある話や」

「本当にぃ〜?」

「真子に誓ってええ」

「卯ノ花隊長には?」

「……あたしら、心の友って書いて心友やないの」

ごまかした。この時点でほぼほぼ内容にはお察しである。
耳でもふさいでやろうかと思ったけど、その後に起こるであろうやり取りで体力を消耗することが容易に想像できてやめた。左から右に流しておけばいいや。

「真子んトコに今年入った子、知っとる?おさげの子」

「知らない」

「その子が真子のこと狙っとるらしいで」

「へぇ」

まあ、別に不思議ではない。一応アレでも隊長だし、面倒見はいいのだ。その新しい子とやらに限らず真子に好意を抱いている死神の女の子なんて少なくない。(藍染副隊長ほど多くはないというと真子に怒られるので言わないけど)
リサだってそのことを知っているから、わざとらしい前置きをしてまでこの話を持ち出すということは他に何かあるのだろう。
案の定、リサは横でチッチッチッ、と指を振って話をつづけた。

「隊首室から出ていく真子を追いかけて羽織を着せてあげる姿が新妻っぽかった、って噂になっとる。その子が『新婚さんみたいなことしちゃった』って同期に言ったのも一因やろうけど」

「ふぅん。ていうかリサもそんな高い声出せたんだね」

真子を狙っているのであればそういうことをしたりもするだろう。随分大胆に出たなとは思うけど、特にそれ以上の感想はわかない。強いて言うなら外に出る時に隊長羽織を忘れるな、くらい。

「で?」

「真子もマンザラじゃなさそうやったって」

ピタリ、と足が止まった。汗がぽたりとたれる。それからじわりと何かが心を侵食していく感覚。

「いきなり止まってどうしたん」

横で同じように立ち止まったリサの顔なんて見ていないけど、どんな顔をしているのか見なくてもわかる。仏頂面なんて言われているけど、意外と感情を乗せるリサの瞳はきっとニヤニヤと笑っている。
けれど、それについて言及する余力はなかった。

新人隊士に隊長羽織を着せてもらって、まんざらでもなかったと。ふうん、へぇ。
……なるほどね。

別に真子の浮気を疑っている訳ではない。他所に恋愛的な感情がわいた時点で、私とは関係が終わっているはずだから。真子はそういう誠意の示し方をしてくる男だ。
だからこれはそんな複雑なものじゃなくて、単純に真子にぐいぐい行く新人隊士が面白くないっていうのと、満更じゃなかったらしい真子への──。
そこまで考えて、ぽたりとまた滴り落ちた汗で我に返った。

「あ〜もう……」

やっぱりろくでもないことだった。
ため息をついて、止まっていた足を大きく一歩踏み出した。

「とりあえず、かき氷を食べて頭を冷やすことにするわ」

ざかざか歩いていく私に置いてけぼりにされたこと、そして恐らく予想していたのとは違う反応だったことに少しご不満だったのだろう。瞬歩を使ってまで追い越していったリサは何か言おうと私の方を振り向いて、

「それからリサ、作戦会議」

最高に面白くない顔をしているであろう私を見て、してやったりといった風にリサがぱちんと指をならした。

「心の友と書いて心友のあたしに任せとき」