翌朝は二人そろって寝坊



「しんじだ〜!」

「誰やねんこの女にたらふく飲ませたんは」

「頼まれもせんと、自分でパカパカ飲んどったで」

「すごかったねぇ〜『お酒が私を呼んでる!いざ征かん、お酒の大海原!』って」

「ハァ〜〜」

予想はしていたけれども、それを上回る酔っ払いがデキあがっていた。
席官への昇級試験を兼ねた平隊士の虚討伐任務の監督後、まっすぐ向かってきたというのに、いつものメンツでの飲み会は既に宴もたけなわといった感じで机の上にはいくつもの徳利と杯が散乱していた。そしてその横に散乱している酔っ払いたち。地獄か。

「ねぇしんじぃ〜」

地獄の中での一番の極めつけはこの酔っ払いである。畳の上を水の中かなんかだと思っているのか、泳ぎながら(実際にはずりずりと畳の上をはいずりながら)こっちへやってきた。赤の他人なら関わらないでいたが、大変残念なことに恋人である。奇行を全て帳消しにするような気の抜けきった笑顔をこっちに向けてくる彼女を、ひとまずは座らせた。
ふにゃふにゃと寄りかかってきた侑李の死覇装の襟もとを手早く直してから、そこら辺に置いてあったお冷を口元に運んでやる。が、「や!」とぷいと横を向かれた。オイ。

「侑李チャ〜ン、どうしてこんなに酔いつぶれるまで飲むんですかァ〜?そんなんじゃ一人で帰れんやろ」

「だってしんじがむかえにきてくれるから、いいかなって」

「……ハァ〜〜〜〜〜〜〜〜」

「やになった?きらいになった?」

「ホンマ勘弁してや……」

手で顔を覆って天を仰いでしまったけれど、これについてオレに非は全くない。全てこの女の言動が悪い。
計算づくでオレを手のひらで転がしているのか、それとも酔っ払っているだけなのか。いっそのこと計算であってほしい。

「真子の目が段々据わってきてるね」

「まあ普通に同情するよな。おい白、寝るならせめて座布団から顔を出せ」

「この状況を記録するモンとかあったら傑作やのに。ひよ里ん所の隊長とか作ってないんか?」

「うちが知っとるわけないやろ」

「そこは把握しとけよ、副隊長だろ」

ピンピンしているローズや拳西、リサにひよ里が好き勝手言っているのがうるさかったのだろうか。「んんん……」とぐずった侑李は、もぞもぞと動いて自分の座る位置を調整した。すっぽりとオレに埋まるように座りなおして、右手をオレの腕の方に伸ばしてくる。
『健気で甘えたな恋人』と辞書で調べたら出てくるような女の子なら、ここで遠慮がちにオレの死覇装の裾をそっとつかんでいたのだろうが、生憎侑李は片手に一升瓶を抱えながら力強く羽織を握りしめてきた。それが彼女は計算づくでこれをやっているわけではないことを逆に示してくるので、頭が痛くなってくる。

「ねぇしんじ〜」

「なんや」

「わたしのことすき?」

「ッハァ!?」

とんでもない爆弾を落とされた。それと共に部屋中の視線が集まっていくのを感じる。
ここで下手なことをいえば数年くらいからかわれるのは目に見えていた。しかも侑李の方は酔っ払っていたという免罪符があるが、こっちは素面で言ったという事実のおまけがついてくる。どう転んでも最悪や。

「そ、んなん言わんでもわかるやろ」

「カッコつけてばっかりやと女は去っていくで〜」

「大事な言葉はちゃんと口にしないと」

「外野やかましいわ!」

本当に、やかましい。
にらみつけてもどこ吹く風の連中は心なしかにやにやしている雰囲気を醸し出しながら、まだ空いていない酒瓶に手を伸ばしている。どうやらオレ達のことを酒の肴にしているらしい。ホンマどついたろか。
自分一人だけが振り回されている現状に段々腹が立ってきて、唇の一つか二つ奪った方が酔っ払い共ばかりのこの場の収集が付くんじゃないかと思っていた時だった。

「こっちみて、しんじ」

「ア?……ドゥア!」

いつの間に酒瓶を横に置いていたのか、するりと首の後ろに回ってきた侑李の両手に導かれるがまま、二人して畳の上に転がった。ドタバタと大分騒がしい音がしたにも関わらず手を引いた侑李がオレに押しつぶされなかったのは、ひとえにオレの必死な努力の結果である。控えめな拍手は、おそらくローズからだ。

「うわ!あのハゲ真子、押し倒して侑李になにするつも……むぐぐ!」

「ひよ里、さすがに空気読め」

続いたひよ里と拳西の声が薄膜一枚隔てた先で聞こえるような錯覚。オレに押し倒されている姿勢のままで侑李が、「こっち見た〜」と少しだけ眉を下げて笑った。

「ね、わたしのことすき?」

ここまでしてもこの場でオレにどうにかされるとは思っていないし、酔っ払った勢いでわがままを言ったところで愛想をつかされるとも思っていない。
お互いがお互いの一番だと信じて疑わないその態度は、侑李の最上級の甘え方だと知っている。
……ホンマ、酒飲んだ時のこの甘え方は心臓に悪いわ。

「好きに決まっとるやろ。こんな場所でおまえのワガママに付き合うてもええと思うくらいには」

観念して囁けば、自分の髪の毛によって外の世界から切り離された空間で、世界で一番愛している女がとろりと笑った。

「わたしもすきよ、しんじ」

明日の朝、起きた侑李に今日の酔っ払い具合を話してからかいたい。でも自分一人だけの思い出にもしておきたい。
そんな相反する感情をいつものように抱えながら、「帰るで」と侑李に背中を向けてかがんだ。




「コイツもう酔いひどいから連れて帰るわ。オマエらもあんま飲みすぎて店の人に迷惑かけるんちゃうぞ」

「よっ、送り狼!送り真子!」

「ならんわ!」

「送り狼やなくて、そもそも自分トコに連れ込むしな」

「せッ、せんわボケ!」

「じゃあどこに連れてくんや」

「……そこらへんにある酒の大海原」

「明日侑李に言うたろ」