本命かつ大穴

無敗のカビゴン達とは言え、定期検診は必要である。ポケモンセンターでメンテを頼もうとすれば、入って早々、何やら中がざわついていた。
野次馬根性で覗きに行くと、見慣れたマントがあった気がしたので、瞬時に私の脳は無視を命令し、足の方向を変えさせる。賢明な判断だったと思う。ただ私がいくら無視しようとも、トラブルというのは向こうからやってきてしまうのだ。

「レイコちゃん!」

声をかけられた瞬間、本日の平穏は終了した。


君の家に行こうと思ってたんだよ、と恐ろしい事を言いながら近寄ってきたのは、ワタルだった。目立ちまくるマントを翻し、ポケモンセンターのど真ん中で私達は巡り合う。
ワタルというとまぁ…事案…ですよね。カイリュー破壊光線事件は全私にトラウマを植え付けたが、まぁ基本は気のいい兄ちゃんである。というかそう信じている。
カビゴン達が検診を受けている間、何故ワタルのような地位も名誉もある男が私などを訪ねてきたのか聞いてみると、全く意味がわからないのだが、見合い写真を持ってきたらしい。

「フスベの里では今婚活ブームでね」

知らんがなすぎる事態に、私はポケセンのカフェで適当に相槌を打つ。
少子化が加速する昨今、ドラゴン使いの一族も例外なく、衰退の一途を辿っているようだった。元々ドラゴン使いは圧倒的に男が多い。昔はドラゴン使い同士での結婚が望ましいとされていたが、今は時代に合わせて自由恋愛主義…とはいえフスベは田舎オブ田舎町であるから、そもそも出会いがないという問題に直面していた。消防士や自衛隊員と同じである。

「で?何故私に…」

しかもワタル直々に。お前長老の孫だか息子だかなんだろ?なんでこんな使いっ走りみたいな事してんだよ。確かに下っ端ドラゴン使いだと家に入れてもらえない可能性はあるけどな。誰が不審なマント男なんか招くか。お前もだぞ。
どうしてこの知人に過ぎない男が私の家を知っているのかはさておいて、私みたいなクソニートに見合い話を持ってくる理由は一体何なのだろう。親交が深いわけでもないし、強いて言えばかつて長老からミニリュウをもらったくらい…白羽の矢が立てられる覚えなどないんだが。
巻き込んですまない、と前置きしてから、ワタルは遠い目をして事の経緯を語り始めた。
ドラゴン使い主催の婚活パーティーは毎回成功とは言い難い成果な事、痺れを切らした長老が婚活に協力し始めた事、由緒あるドラゴン使い…相手は強いトレーナーが望ましい事、そもそも何で婚活に必死なのか尋ねれば、ドラゴンタイプは寿命が長いので子孫に託したい人が多いという話だった。
ふーん…と相槌を打ちながら、そりゃ誰も嫁がんわなと納得した。
前時代的すぎだろ。現代の価値観と合わねぇ。大体婚活なんてデリケートなもんにジジイがお節介焼く時点でろくな事はないね。なんか普通に惹かれ合って結婚したとしてもプレッシャー半端ないわ…皇室か。

「君は強いし、カイリューだって連れてるし」

ドラゴン使いってそんな感じ?一体でもドラゴンタイプ連れてたらそれでいいんだ?
どうやら混乱を極めているらしいフスベシティに同情しつつも、私は適当に見合い写真をめくるばかりで、なんと言って断ろうかとそればかり考えている。
強いトレーナーってだけで私が選ばれたわけか…本当に婚活上手くいってないんだな。私の人間性を知れば見合いなんて死んでも勧めなかった事でしょう。
申し訳ないが結婚したらニートじゃなくて主婦になってしまうからそれは無理なんですよね…と断ろうとすれば、その前にワタルが気を利かせた。

「ああ、本気にしなくていいからな。一応きみに見合い話を持っていった事にしないと長老がうるさくてね」
「大変ですねワタルさんも」
「でも、もし気が向いたら連絡くれよ。彼とか君と気が合いそうだ」

写真を指しながらワタルは微笑む。その人ゲンジさんじゃないですかねホウエンの四天王の。まさかの独身なの?絶対嘘でしょ。大体私と気が合う奴とかいないと思うし、いたとしてもろくな野郎じゃないと思うわ。うるせぇ。

「久しぶりに顔が見れてよかったよ」

親戚のおじさんみたいな事を言いながら、ワタルは見合い写真を持ち帰ろうとする。微塵もその気がないので置いて帰らない点は有り難かったが、ちょっと心苦しくて口を開いた。

「全部持って帰るんですか?怒られません?」

誰も長老に頭が上がらなさそうな完全縦社会、何の成果も得られず写真を持ち帰ったとあってはブチギレられるのではなかろうか。飄々とかわしそうなところはあるけど。
心優しい私の言葉に、大丈夫だよ、とワタルは微笑んだが、私の心象は大丈夫じゃない気がして立ち上がる。
いや写真全部持って帰ったらなんか…私がめっちゃ難癖つけたみたいじゃない?この程度の男しか揃えられない無能しかいないのかしら?つって突っぱねた高飛車女みたいに思われるだろ。実際石油王しか求めてない傲慢女だけども。放っといてくれ。

「じゃあ一枚だけください。ワタルさんのオススメ」

居酒屋のメニューみたいな頼み方をすれば、ワタルは頷き、特に悩む素振りも見せず写真を机に置いた。第一印象から決めてましたみたいな様子に、私は少し驚く。
あのワタルが秒で決めるくらいだ、すごい男なんじゃないのか。まさか…ゲンジ…?元海軍の男がニートと上手くいくわけないだろ。

「それじゃレイコちゃん、また会おう。いい返事を聞かせてくれると嬉しいな」

爽やかさの裏に何かを隠しているような笑顔を浮かべ、ワタルは去っていった。お元気で…と声をかけると、マントを揺らして応える。器用な人だ。
ちょうどタイミングよくカビゴン達の検診が終わったので、私はジョーイさんに結果を聞こうと歩き出す。見合い写真を持ち、一体ワタルが選んだのはどんな男なのか気になって、ゆっくり表をめくってみた。
イケメン…だろうか…それとも金持ち…街一番の凄腕トレーナーか…あとはゲンジかな…。
奇跡的に石油王が来るかも、と思い切って開いた時、そこには見覚えのあるオールバックと、重力に全力で逆らった赤い髪。

「お前じゃねーかよ!」

私は思わず写真を床に叩きつけた。
お前かよワタル!さりげなく自分の写真混ぜてんじゃねぇよ!どの辺がオススメ!?我が道を行く者同士だから!?婚活する気ゼロじゃん!絶やしとけ破壊光線の血筋は!
投げた写真を拾い、盛大な茶番に付き合わされた自分に溜息をついた。
死ぬほど無駄な時間を過ごした…やはり石油は自分で掘るしかない…いきなり奇行に走った私をジョーイさんが不審そうに見ていた事も不本意でしかない…全部あの男のせいなんです…早く帰らせてくれ。
ジョーイさんと絶妙に目をそらしながら、カイリューの血糖値が少し高いですね、と注意を受け、やっぱドラゴンは鬼門だと胸に刻みつけるレイコであった。