低嶺の花

黒ビキニのメーテルを見つけて驚かない奴はいない。まず私が驚いた。持っていたナマコブシを落とすくらいには。

ハウとナマコブシ投げのバイトをしていたら、やたらグラマーなメーテル風の女がビーチでくつろいでるなと思って、よく見たら普通にシロナさんだったよね。普段露出の少ない彼女が惜しげもなく白い肌を晒し、ハリウッドスターのようなサングラスまでしているのだから、アローラというのは人を浮かれさせる恐ろしい土地なのだろう。私は驚きのあまり五度見し、そして彼女も五度見した不審者に気付いた。光栄にも私を覚えてくださっていたようで、再会を祝して熱烈なポケモン勝負をし、当然私が勝ち、バイト中にはやめてよね、とナマコブシ投げおじさんに怒られたところまでがハイライトです。

「わー!すごい勝負だったねー!」

勝負中に最後のナマコブシを海に投げるかどうか迷うというトレーナーの風上にも置けない事を考えていた私と、ポケモン勝負は楽しむのが一番主義のシロナさんを見ながら、ハウは無邪気にはしゃいでいた。ハノハノリゾートという穏やかな地で、激しく争ったポケモン達の爪痕がビーチに残り、これぞチャンピオン同士の熾烈な戦いである事を物語っている。

「ありがとうレイコさん、すごく楽しかった!やっぱり君たちどんどん強くなってる」

そうかな、私にはカンストしてるようにしか見えないんだが。手持ち達を賞賛してくれる相手に照れ笑いを浮かべ、シロナさんも相変わらず種族値の暴力…いやお強いですね…と私はたどたどしい口調で返答した。普通に強いから私もいつもより集中したわ…ナマコブシの方が気になってはいたけども。集中の意味知ってる?

しかしシロナさん、久しぶりである。シンオウではいろいろお世話になった彼女とは、公式に愛されているのでちょこちょこ他の地方で会ったりもしたけど、まさかこんな平和なビーチで巡り会うとは思わず、つい五度見を決め込んでしまった。パラソルの下で足を伸ばしてるのが似合うね…セレブみたい…とても片付けられない女には見えねぇな、見た目通りの私と違って。うるせぇよ。

「レイコやっぱりすごいなー。なんだか友達として誇らしいよー」
「どうもありがとう…」

ハウが純粋に褒めてくれるだけでも有り難いのに、友達とまで言ってもらえたらニートはもう感無量であった。いい子かよ。ちょっとぶりっ子なのは知ってるけどな。
そのあと適当に雑談をし、勝負を受けてくれたお礼にアイスでも奢るとシロナさんが言ってくれたので、微塵も遠慮せずに我々はお言葉に甘えた。ハウが買ってくると申し出たのもお言葉に甘えた。一切働かないこの姿勢、ニートとして満点すぎる。

「いい子ね」

アイスを買いに走るハウの後ろ姿を見ながら、シロナは微笑んだ。せやな。いい子だよハウ。おおらかなアローラで育ったため、純粋でそれゆえに毒舌なところもある気の抜けないボーイです。ニートなのバレたら働きなよーとか言われるかもしんない。絶対黙っとこう。

「昔の君に似てる」

節穴か?
ハウと私を比べるような発言をされたので、思わず左右に首を振った。自分で言うのもなんだが私はあんなに眩しくはなかった。もっと淀んでましたけど?シロナさんには輝いて見えていた…?若さ…などが?

「何かに一生懸命になれる人って素敵…」

それニートでも同じこと言えんの?と苦笑し、どうやらニートへのひたむきな私の姿勢がシロナの中に強く印象付いているようだ。そして今もその情熱が変わっていない事に私は絶望を覚える。まだニートになれてないってマジ?衝撃なんだけど。
シロナさんの水着も素敵ですよと触れるべきか否か悩んでいれば、彼女はゲスト参戦している某イベントについて、突然思い出したように語る。

「ちょうど昨日、バトルツリーでレイコさんの話をしていたところなの」
「えっ」
「君っていつでも誰かの憧れなのね」

意味深なシロナの発言に、私の苦笑は止まらない。
そういう感想が出る話ってどんななんだよ。もう疑問の連鎖だよ。人を肴に変な話しないでくれ。やましい事がないとは言えないから焦りまくりだった。清らかに生きたい。
まぁ確かに私は全世界憧れの最強トレーナーだけども…しかしシロナさんのような才色兼備な女性に言われるとさすがに恐縮するな。クソガキと変人にしか好かれませんけどね、という事実は伏せて照れ笑いを浮かべたら、彼女は店から出てきたハウを見つめ、少し首を傾げる。

「手が届きそうで…届かないからかしら」

言い方。さっきから全部刺さる、私の柔らかな心に。
チャンピオンにしては庶民的ってこと?ポジティブに親しみやすいと受け取っていいか?
なんか全然チャンピオンって感じしないよね、と言われがちな私は目を細めてシロナを見る。
そりゃシロナさんとかは全然手届かなさそうだからな、こんなフレンドリーに話しかけてくるとは思えない、ファンに対して塩対応なメリル・ストリープなみの近寄りがたさを感じる。一方私は普通にその辺にいる喪女…こいつ意外と倒せるんじゃね?感が出ていてもおかしくはないわな。放っといてちょうだい。
だからあんなにクソガキになめられるの?と真理に気付いて絶望していれば、シロナはシャフト顔負けの見返り美人を披露し、私に声をかける。その美しさには鉄郎でなくても胸が弾んでしまった事でしょう。

「君にもいつか恋い焦がれるものができるのかな」

少女のように小首を傾げ、興味深さを隠しもせず問いかけてきたシロナに、私はつい言ってしまった。

「ありますよ」
「え?」
「な、内緒ですけど」

あっぶね!メーテルの美しさに思わず、ニートに焦がれて早999年…とか言いかけたじゃねーか。迂闊すぎだろ。
どうも顔のいい人には弱いな…と最低すぎる弱点に気付いている時に、ハウが帰ってきた。両手にアイスを持ち、もう一つは彼のライチュウが大事そうに抱えている。可愛い。ハウのポケモンってみんな可愛いよな…私わりと厨パなんだがそれでもクソガキになめられるのはなんで?もはや私個人の問題?
いっそキャプテンハーロックみたいな格好して威厳を出すか…と血迷いながらアイスを受け取ると、大人の話に興味津々なハウはシロナさんに尋ねた。

「ねーねー、何の話してたのー?」
「レイコさんに好きな人がいるって話」
「えー!?」

ハウの大声に、危うくアイスを吹き出しかけた。語弊のあるシロナの返事にも驚いたが、今しゃべると口腔内が大変なことになりそうなので弁解できない。するとハウは慌てて私の正面に回り、アイスそっちのけで叫ぶ。

「それって俺ー!?」

なんでだよ。ポジティブかな?
斜め上からのリアクションに、もういいよそれで…と適当に返しそうになるも、シロナさんが笑い出したのでちゃんと違いますと述べておいた。手が届きそうで届かない女に見えたのかなと思ったら、どうにも気恥ずかしいレイコであった。