ジムリーダー就任おめでとうと言ったきり、祝福を行動に起こしていなかった私は、チェレンを夕食に誘う事にした。ここは年上の余裕を見せたいところなので、もちろん奢りである。お祝いだからな。ぼちぼちの店で和やかにこの二年間の話でもしようと思ったのだが、私は忘れていた。自分が主人公であるという事を。
「…ごめん」
鳴り止まないライブキャスターを押さえつつ、私はチェレンに謝った。
現在イッシュでは、ポケモンワールドトーナメントというスーパーロボット大戦みたいなイベントが開催中である。という事はつまり私の知り合いが大集合しているわけである。大集合しているという事は、せっかくだから会わない?と言ってくる奴がいるわけである。せっかくだから会わない?と言ってくる奴は一人二人ではないわけで、結論から言うと電話がすごい。私こんなに人気あった?ってくらい鳴る。かつてない呼び出しに、私は心底焦っていた。
何で今日に限ってこんなに電話かけてくるんだよ…!ポケギア、ポケナビ、ポケッチ等の通信機器の転送先を全部ライブキャスターにしたツケがこんなところで回ってくるとは…いっそ電源を切るかとも思ったが、気を利かせたチェレンが、大事な連絡もあるでしょうから…と止めてきたので、ひたすらにコールである。
どうせ冷やかしだろお前ら。私がPWTに呼ばれなかったからネタにするために連絡してきてるんだろ!?こっちは傷付いてるんですからね!なんか調べたら結構ガチにトレーナー協会が私の出場を審議したらしくて心外どころじゃなかったわ。チートじゃねぇよ。
遊びでやってんじゃないんだよ、とマナーモードにしても光り続ける画面に憤り、ひとまずレッドからの着信は切った。おめーは喋らないんだから電話できねーだろ!イタ電やめろや。
「…すごいな、レイコさん。いろんな人と知り合いで」
「いやいや…そんな事は…」
あるんだなこれが。古今東西老若男女幅広く取り揃えております。しかしグリーンとレッドがギリ友達なくらいであとはみんな知人だから。知人に過ぎない連中が檻の中のゴリラが物珍しくて電話かけてきてんだよ。放っといてくれ。
「会場でもみんなレイコさんの話してますよ」
「えっ…!」
冷や汗をかいているとさらに冷や汗をかくような事を言われ、私はますます焦った。チェレンに変なこと吹き込んでないだろうな…と過去の記憶を呼び起こす。
やばい。誰一人としてろくな思い出がない。ワタルには似てないモノマネ見られるし、ダイゴにはクソダサいデボンスコープ付けた姿を笑われ、シロナさんにはもらった卵から孵ったリオルが微塵も懐かなくて全然進化しないというトレーナーとしての醜態まで見せている始末…いや、この辺はまだマシだろう。グリーンあたりに披露した無意識なチャラさなどが露呈するのが一番まずいぞ。レイコさん男にだらしないですよね、って言われたらもう立ち直れないよ。返す言葉もないし。いやあるわ。真っ当に生きてるだけだっての!
「ど、どんな話…?」
とりあえずジャブを打ってみると、同じようなパンチが返ってくる。
「思い出話とか…」
完全に濁されている。どういう思い出?ねぇ。悪の組織と勇猛果敢に戦った格好いい思い出話にしてもらえませんか?ニートはバレたけどまだ取り繕えると思ってるからチェレンには。今日は年上の余裕見せる日だから!
ふーん…とやましい事は何もない風を装い、私はナイフでステーキを切る。手が震えてガタガタ言ってた。どの辺が余裕?
「でも」
まぁ所詮知人だから、みたいな態度を繕っていた時、チェレンは俯きがちに口を開く。手を止めた彼の意味深な挙動に、もはやどんな肉も味がしなかった。
でも…?でも!?でもでもでもでも!?思わず小島よしおと化してしまうほどの動揺。お前たちに心があるのならどうかチェレンにまともな思い出を語っていてくれ…!そう願う私を、良い意味で裏切るような台詞が放たれる。
「でも、一緒に観覧車に乗ったのは僕だけでしたよ」
若干照れたように言われた私は、Nとも乗ったけどな、などとマジレスして水を差すのはやめておいた。あまりの初々しさに萌えという感情を理解し、邪まな想像ばかりしていた己を恥じる。
はー?可愛いんですけどチェレン氏〜初心すぎでござるよ〜!何だかこっちまで照れてしまい、私は渇いた笑みを浮かべながら、ジェットコースターも乗る?と調子のいい事を言うのだった。