偶然、いや彼との間に偶然が存在するかわからないが、私はマツバと偶然出会った。町内会の祭だった。
いきなり町内会長が、炎タイプのポケモン持ってない!?と血相変えてうちにやって来て、一体どうしたのか尋ねると、たこ焼きを焼くはずだったブーバーが急病で倒れてしまったという。代わりに焼いてくれるポケモンを探しているというので、ウルガモスならいるけど…と言ったが、衛生的に虫ポケモンはどうなの?と考えている間に連れて行かれてしまった。
結局近くのベンチでウルガモスの仕事を見ながら、私はたこ焼きをひたすら口に運んでいた。
普段は全てを焼き尽くす恐ろしいモスラ…たこ焼きなんて絶妙な火加減を求められる仕事ができるのか、私は心配だった。何しろあのアデクにもらった卵だからな。ガサツ、いや適当、いや大雑把、もといおおらかなので、火災の心配すらしたけれど、ねじり鉢巻を付けて黙々と作業をこなしていたから失笑ものだった。楽しそうやんけ。
そんな時、たこ焼きをコーラで流し込んでデブ活に勤しむ私に声をかける猛者がいた。お待たせしました呪怨奴、エンジュジムのマツバである。
「マツバさんって…占いみたいなのできるんですか?」
目的もなく歩きながら、私はマツバに尋ねた。
偶然だね、とやたら偶然を強調しながら声をかけてきたマツバに、私は首を傾げつつ器用に頷く。こんなヤマブキの小規模な祭にエンジュから遥々やって来て私と偶然出くわすかどうか怪しいもんだが、まぁ私は夢主なのでそういうミラクルには慣れていた。慣れていたついでに一緒に屋台を回ることになり、特に何をするわけでもなくだらだら歩いていれば、ふと占い1回300円と書かれた出店を見つけ、足を止める。
占い…。マツバといえば千里眼、自称人には見えないものが見える系男子だ。もしかしたら未来とか見えるかもしれないし、なんか予知的な事もしていた気がする。私ほど邪な人間だと、当たると噂になれば人が殺到して一攫千金狙えるな、などと考えるものだが、そこはやはり伝統あるエンジュのジムリーダー…私欲のために力を使ったりはしないのだろう。馬鹿なことを聞いたぜ…と首を振り、忘れてくださいと言いかけたのだが。
「やってみようか?」
やるんかい。やめとけよお前。くだらない事に使って罰当たって力失ったらどうすんだよ。それとももうホウオウ降りてこないからいらないって?すまんて。謝るからやめてください。
聞いてみただけなんで、と苦笑気味に断ったが、マツバは人の良さそうな笑顔で、そんな大したものじゃないから、と決行しようとする。大したものだろどう考えても。まさかこの展開も予知済みか?怖い怖い。普通に何考えてんのかわからないからこの人。いやいい人だとは思うぜ?ジムリーダーやってるくらいだし優しいイケメンだよ。でもなんだろう、隙を見せたら呪われるんじゃないかと思ってしまうこの気持ちは…私に後ろめたい事があるから…?こんなに清廉潔白な人生なのに…嘘松。
結局断れないまま安そうなプラスチックのテーブルにつき、隣で焼きそばを食べる家族連れなどを横目に見ながら、私は綿菓子片手に神妙な顔を作った。どんだけデブ活してんだよ。
「何か知りたい事はあるかい」
「いや特には…でも軽めのやつで…」
宝くじの当選番号などとは言えずに遠慮すると、マツバはしばし悩んだ素振りをしたのち、意味深な笑みを浮かべる。
「じゃあ…君を想っている人とか」
重いわ。軽めのやつって言っただろ。
耳ついてんのかと暴言を吐きかけるも、体裁を保ちたい私はグッと堪える。
何でだよ。そんなネタバレいらねぇ。そもそもどっちなの?怨念的な方?それとも好意なのか?前者には心当たりがありすぎるのでもはや知りたくもないって感じだ。そしてマツバにも知られたくない、私が古今東西で憎しみを抱かれている事を。善行しかしてないのに。
拾ったハイパーボールを届けもせず換金する悪行を記憶の彼方へ放っていれば、マツバは見透かしたような発言をして私を震え上がらせる。
「恋い焦がれてるって意味だよ」
読心術まであるの?嘘でしょ?じゃあさっき耳ついてんのかって暴言吐いたこともバレてんのかな、死ねるわ。
どこまで見通すことができるのか未知数のマツバに怯える私をよそに、彼は目を閉じて腕を組む。シンプルにイケメンすぎて、隣の家族連れもマツバに見惚れていた。焼きそば食ってろ。
「まず…ジムリーダーをやってて…」
五十人くらいに絞られたぞ。
与えられたヒントに私は首を傾げ、綿菓子を放り込み糖質を摂取した。
私に恋い焦がれているジムリーダー…自分で言うのも何だが一人は知ってる。トキワの奴だ。いやもうさすがに百年の恋も冷めてそうなもんだが、思い当たるのはそれだけである。他はちょっと…出禁にされたりしたから見当つかないですね…悲しい思い出を振り返るはめになり、たまらず目頭を押さえる。私が何をしたっていうんだ。
さすがにヒントが雑すぎるな、と苦笑し、別に知りたくないし本当かもわからないからこれ以上は結構なんだけど、マツバは第二ヒントで一気に答えを詰めてくる。真偽がどうであれマツバにそんなこと言われたらその人のこと意識しちゃうかもしれないだろ、結構流されやすいところあるんだから。生き方変えろ。
「それからゴーストタイプの使い手」
「ゴースト?」
突然狭まり、私はますます頭を抱えた。
ゴースト?そもそもゴースト使いそんなにいなくない?ヨスガジムのメリッサしか浮かばないが、どう考えてもメリッサさんに焦がれていただく要素はない。一方は優雅な装いのジムリーダー、もう一方は全身しまむらブランドのニート。対極。悲しすぎるわ。
そもそも私の知ってるゴースト使いは、マツバ以外みんな女性である。故に彼は夢界のヤンデレ枠を一身に受けているわけだが、消去法でいくとそのヤンデレしかいなくなるので、私は思わずゲンドウポーズだ。
クソニート喪女をからかってやがるのか?いや、マツバはそんな人ではない。いつだってガチ、愛が重すぎてホウオウも裸足で逃げ出すという、金髪でチャラそうなのに一途な尽くし系男子だ。そんな顔面の持ち腐れイケメンが、くだらない冗談で私を惑わすとは思えなかった。
という事は…これはマジ!
「マツバさん…」
「ん?」
「その人は…イケメンですか?」
「…え?」
全ての答えが出る問いを投げ、私は真剣に相手を見た。
確かに…私は自称ヤマブキ随一の美少女だし、ホウオウに認められしエリートトレーナー…この圧倒的な主人公補正の前では万物がひれ伏すので、マツバのような人格者であろうとも憧れを抱く事があるかもしれなかった。たとえニートであろうとも。様々な生き霊に呪われていようとも。寝ながら茶を飲む横着野郎であろうとも。ねぇな。絶対にないと思うが、その疑心暗鬼もこの質問で全て解決する事でしょう。
固唾を飲んで見守っていると、マツバは困ったように眉を下げ、苦笑まじりに答えた。
「普通…だと思うけど…」
「じゃあ違うかー」
私は安堵のあまり素で呟き、背もたれに体を預けながら綿菓子を食べた。
イケメンだよって言われたらワンチャンでマツバまさか私の事を…?という展開もあったかもしれないが、イケメンではない、つまり私に焦がれてるゴーストタイプのジムリーダーはマツバではない、の方程式が成り立つわけだ。びっくりしたー思わせぶりなこと言うのやめろや。ブーメランである事には気付かないレイコであった。
マツバほどのイケメンがイケメンの自覚ないわけないからな。私の知らない地方のジムなんですかね、と真面目に返し、そろそろ全手動たこ焼き器の元へ戻らなくてはと席を立つ。
ぼちぼち有名人だもんな私…チェレンも私の神話知ってたし、遠い国でまだ見ぬ私に憧れているトレーナーがいるという事か…まぁ神話っつっても出禁神話だけど。憧憬の念ゼロ。
「その質問はズルいんじゃないかな…」
半分呆れたように笑うマツバを見つめた時、突然背後から声をかけられた。
「ここにいたの!レイコちゃん!」
振り返ると、ヤマブキの町内会長が立っていた。私のウルガモスを勝手に拉致したおっさんだ。
いきなりのモブキャラ出現に驚いたが、微妙な空気を緩和する最高のタイミングだったため、私は救世主に駆け寄る。
「デート中悪いんだけどね」
「デートじゃないから悪くないですよ」
昭和っぽいからかい方をしてくるおっさんを牽制し、マツバに失礼だからやめろやと舌打ちした。物ともしない会長は話を続け、マジでデートだったら呪われてたぞと助言したい気持ちにさえ駆られる。
「実は知り合いが自分の町内の祭でもたこ焼き作るのにウルガモスを貸してほしいって言うんだよ」
「何故…ていうか虫ポケは食品衛生的に…」
「焼き加減が絶妙なんだ!中はトロトロ、外はカリカリの新食感!是非貸してほしいって頼まれちゃって」
生焼けなんじゃないのそれ。食中毒起きても知らないよ。なんたってあのアデクにもらった卵だからな。何回言う。
マツバの手前、会長との無駄話を長引かせるわけにはいかない。ただでさえ変な占いをさせてしまったんだ、勝手にやりやがったという方が正しいと思うけど、放置してたこ焼き職人の進路を語り合うのは気が咎める。いろいろ気にはなりつつも、ひとまず了承しておいた。
「別にいいけど…どこの祭ですか?」
「ありがとう!ジョウトのエンジュって街なんだけどね」
瞬間、私の背中に悪寒が走った。赤い彗星くらいのスピードで駆け抜け、思わずマツバを二度見する。
そもそも、どこからが偶然だったのだろうか。私は今日の出来事を振り返り、様々な邪推を繰り返してしまう。
大体ジョウト在住のマツバがヤマブキに来てわざわざ祭に赴く事が妙だ。そりゃリニア使えば早いけど、でも天下のヤマブキだぞ。観光地はいくらでもあるのに、こんなショボい祭に来る意味がわからない。しかも一人で。ショボいといえどもそれなりの人だ、中から私を見つけ出せるか?ぼっちニートが目立ってたなら仕方ないかもだけど。放っとけ。
元はと言えば私が祭りに駆り出されたのが原因なわけで…それさえなければウルガモスがたこ焼き器としての才能を見出される事も、こんなに悪寒を感じる事もなかったのに…。つーか何でだったっけ?ウルガモスが拉致られた理由。確かたこ焼き職人のブーバーが…急病とか…なんとか…。
…急病?
凍りついた背筋を溶かせないまま、私はオフホワイトな微笑みを浮かべるマツバから視線を外せない。
急病って、普通に急病だよな?
まさか作為的にそんなこと…できないよな?
「また会えるかもしれないね」
真意の見えない笑顔に、確実に会うだろと悪態をつきたい私の横で、よっ!ご両人!お似合いだね!と囃し立てる町内会長だけが、私を俗世に留めているのであった。野次が昭和すぎ。