あのエーテル財団のエビルプリーストことザオボーさんから連絡をもらった時は、一体何を企んでいるのかと警戒しまくったものである。今も充分してるけどな。信用できるわけないだろ。この世で信じちゃいけないもの、それはニートにしてくれるという親父との約束、絶対言わないから!と秘密を打ち明けさせようとする女子、そしてザオボーである。
カビゴンに会いたがっているカビゴンがいると聞き、そのややこしさに頭を抱えながらも、私はエーテルパラダイスのエレベーターでザオボーから話を聞いていた。
「先日、防衛戦の映像がニュースで流れていましたよね」
「ああ…代表が来た時のやつね…」
エーテル財団代表がチャンピオンに挑むという事で中継が入った日を思い出し、私は肩をすくめる。
申し遅れたが私の名はレイコ。アローラ新チャンピオンだ。いつもの癖でチャンピオンとなったはいいが、引き継ぎ問題で話がまとまらず、いまだアローラに足止めを食っている状態である。もう死んだ事にしてくれていいから故郷に帰してもらえないか?このままだとグリーンやレッドみたいに南国浮かれ野郎になっちまうよ。
リーリエには悪いが遠慮なくルザミーネさんをボコボコにさせてもらった回が一体どうしたのかと尋ねたら、何でも保護区にいたカビゴンがその番組を見てたらしく、それ以来私のカビゴンに夢中なんだそうだ。録画した番組をしつこく見ては、止めようとするとボディプレスを食らわせてくるので手を焼いているとの事。
で?って感じ。で?
「あなたのカビゴンに会わせれば多少は熱も冷めるのではないかと」
「余計燃え上がるかもしんないよ」
「それならいっそお見合いでもどうですか」
何の用かと思えばそんな事か、と呆れた次の瞬間、いきなり急展開を迎えて私はザオボーを勢いよく振り返る。
見合い?なんでそうなった?理解が追いつかず、つい黙り込んでしまっても無理はないだろう。
なんでだよ。何も意味わからねぇよ。いやまぁカビゴンに来てほしい理由はわかったよ、保護区のカビゴンがテレビばっか見て困ってるからうちのカビゴンから何とか言ってほしいって事でしょ?それは仕方ないから掛け合ってやる。あとでマラサダくらいは奢れよな。でも見合いは何もわからん。なんで?うちのカビゴンはファンに手を出すようなクズじゃないんですけど?
また何か良からぬことを考えてるんじゃないだろうな、と私はザオボーを凝視した。
こいつライアーゲームの福永くらい軽率に裏切るからな…何も信用できねぇ。大体見合いっつったってお前…もし仮にカップル成立したらどうすんだよ。うちでカビゴン二匹養うのか?無理だから。これで卵でも産まれたら総重量が1トン超えるからね。かと言って現地妻みたいなのも責任感がなさすぎるというか、とにかく間に合ってる。バイバイバタフリー案件になっても困るし!
「…また何か企んでるんじゃないんすか?」
「とんでもない!最強のカビゴンの血を引いたポケモンを育てて地位を得ようだなんてそんなこと…」
両手を振って否定したザオボーは言葉を詰まらせ、数秒の間の後、私は溜息をつく。
「思ってるんですね」
「思ってませんよ」
思ってるんだなクソ野郎。エレベーターから落ちてくれんか?
そんな事だろうと思ったよ!と不届きすぎるザオボーに舌打ちし、私は断固拒否を誓った。
不純すぎだろ全てが!ポケモンを出世の道具に使うな!マジでこいつパチ屋のバイトにまでランク落ちてほしいわー。何でまだ雇ってんだよ代表。慈悲が深すぎるだろ。もう帰ろうかなとエレベーターを操作しようとすれば、ザオボーはボタンの前に立ってそれを阻止する。二回目の舌打ちをしながら、そもそも根本的な問題について提唱した。
「大体…保護区のカビゴンの性別は?」
「オスですが?」
髭をいじりながら応えたザオボーに、私は勝ち誇った顔でせせら笑った。
だろうな。カビゴンはオスが九割を占めているからメスが産まれるのは極めて稀…野生で見かけた奴も圧倒的にオスが多かった。そこから推測されるに…私のカビゴンも恐らく…!
「えっ?そっちもオスなんですか?」
「いや、知らない」
知らねぇよ調べてないから。マジでこのポケモン界、繁殖目的がなければ性別を調べる意味があまりにもない。性別によって罹りやすい病気が異なるとかもない。だからわざわざ調べはしない。しないけど、オスが九割ならうちのカビゴンもオスでしょ、確率的に。
即答した私にザオボーは目を細め、冗談は顔だけにしろよ的な態度で口元を歪めた。
「知らないわけないでしょう」
「本当に知らないです」
繰り返すと、相手は引いたように首を左右に振り、そして心外すぎる言葉を私に投げるのだった。
「あなた…生き方を改めては?」
お前が言うなよ!お前にだけは言われたくねぇよ!
性別知らないくらいでそこまで言う!?とキレ散らかしている間に、エレベーターは保護区に辿り着いた。激怒しながらも、せっかくここまで来たからカビゴンとカビゴンの対面は許してやる事にし、ボールを投げて様子を見守った。
いいよ別に。どうせオスだろうし、卵は絶対できないからいくらでも会わせてやるよ。残念だったな、最強カビゴン計画が白紙になって。怒りと優越に挟まれながら、私はカビゴンとカビゴンが握手し合っているという奇妙な光景を見て、ふと思い至る。
でも普通に考えて…対面した時点ですでに見合いじゃね?
しまった…と落とし穴に気付き、しかしカビゴンはファンのアプローチに心動かされたりしないはず!と信じ、私は固唾を飲んで見守った。
卵ができなかろうがオス同士だろうが、運命の出会いにならないとは限らない…もし二匹が結ばれたら、本当にバイバイバタフリー案件になってしまうんじゃないか?と急に不安になって、私は思わず合掌した。
どうしよ。俺はここに残るよ!とか言われたら。普通に無理なんだが。もはやカビゴンなしでは生きていけないよ。幼い頃から共に過ごし…過酷な旅でもいつも一緒にいてくれた…カビゴンと過ごした時間は親と過ごした時間よりも長い事でしょう、旅してばっかりだからな不本意にも。
そんなカビゴンをポッと出のファンに取られでもしたら、私は間違いなくアローラを滅ぼす。カイリュー破壊光線を駆使して。
あの時のワタルの気持ちがわかる…と過去のトラウマを今やっと乗り越え、私は目頭を熱くさせた。
トレーナーにはな、人に向かって破壊光線を撃たなきゃならない時があるんだよ。例えばこのザオボー。小悪党で済んでたのが私とカビゴンを引き離しでもしたら世紀の大罪人に変わるからな。殺すしかない。そうでなくともパチ屋のバイトに格下げしてほしいのに。
ハラハラしていると、そんな私の心境を悟ったのか、世紀の大罪人候補は呆れたように呟く。
「…意外と心配性ですね、レイコさん」
意外とは余計じゃない?なに?普段は図太そうって事?本当に破壊光線食らわせてやろうか?
般若の形相で睨み付ければ、すぐに補足が飛ぶ。
「可愛げがあるという意味ですよ」
そうか。許そう。
取ってつけたようなフォローに私は頷き、ザオボーの数々の非礼を許した。私の可愛げに気付いたなら今日はこのくらいで勘弁しといてやる。気付くのが遅すぎるくらいだと思うけど、まぁザオボーも反省してるみたいだし、パチ屋の店員は先延ばしにしてやってもいいか。
チョロすぎる性格を披露している間にも、カビゴンとカビゴンの交流は続いていた。ファンのカビゴンは興奮状態で飛び跳ね、その度に地響きがしたが、私のカビゴンはびくともしない。そしてどこから取り出したのか色紙とペンを渡されると、サイン…など書けるわけがないので、ぐしゃぐしゃっと適当に落書きし、それをファンカビゴンに返していた。大御所の貫禄を出しているマイカビゴンは、褒められると調子に乗る私に似過ぎていて、人のふり見て我がふり直せという言葉を胸に刻ませる。
なんか…アカンところばっか似てるんだよな…私と手持ちの連中…イケメン好きのカイリューがザオボーには塩対応だったところも、鏡を見ているようでつらかった。すまん。なんか…すまん。
微妙な気持ちで佇んでいれば、二匹は早々にお開きムードとなっていた。お辞儀をするファンにカビゴンは手を挙げて応えながら、いや〜参っちゃったよ〜みたいな態度で私の元に戻ってくる。さっさとボールに入ると、バイバイバタフリーを踏襲する事もなく即寝した。何だか全てがアホらしくなってきた。
何の時間だった?これ。ザオボーと顔を見合わせながら、私達は同じタイミングで溜息をつく。
何が見合いだよ。憧れの選手に会えた野球少年みたいな感じで終わったじゃねーか。無駄にハラハラさせないでよね!心配して損したでしょ!
もう帰らせていただきますと漫才のオチのようにザオボーの肩をド突き、私はエレベーターに乗り込んだ。勝手知ったる我が家状態でボタンを操作し、ここに来るとろくな事がねぇと改めて思い知る。
二度と来ないからなこんなところ。むしろ私をトラブルから保護してくれや。絶滅危惧種ニートは見送りに来たザオボーを冷ややかに見て、相手の懲りない発言にさらに目つきを鋭くさせるのであった。
「次はメスのカビゴンを保護してきましょうかね」
全然懲りてねぇ。その時はお前がパチ屋にまで堕ちる時だからな、と私は捨て台詞を吐くしかないのだった。
絶対チャンピオン権限でクビにしてやる。バイバイ!ザオボー!つってな。