特定のポケモンの居場所がわかる装置なんて作れないですよね、と適当に尋ねたら、彼の返事はこうだった。
「できます」
あ、天才…なんですね…。髮型変だけど。
私の名はレイコ。いや、今はガバイト探索マシーンと名乗った方が正解かもしれない。
アローラに来てどれくらい経っただろうか。ハイナ砂漠の記録をしていた時、とあるポケモンの巣穴を見つけた。私は驚いた。何故ならそのポケモンを砂漠で目撃していないのにも関わらず、巣穴だけは存在していたからである。つまりここに生息してやがるわけだ、ガバイトの奴が。
私は連日、足を棒にして砂漠に挑んだ。恐ろしい事に、このハイナ砂漠は砂嵐によって地形が変化する。変化するってのは地面が砂に埋まったり、積もってた砂が移動して地面が剥き出しになったりするという事で、偶然砂が消えた日に私はガバイトの巣を見つけたのだ。あれ以来どこにあるのかわからなくなってしまったから、かつてないほど凶悪なダンジョンと化しているのである。もうどっかにいるって事がわかっただけでも良くない?そろそろ許してほしいわ。何も悪い事してないのに。
当然父は許してくれないので、しっかりとガバイトがこの砂漠で生活している証拠映像を撮影しない限り、私のニートは保障されない。悩みに悩み、やがて苦渋の決断を下した。
そうだ、科学力に頼ろう、と。
「ただ時間はかかりますよ。一時間いただいていいですか?」
「逆に一時間で出来るのかよ。お願いします」
彼の名はアクロマ。変な髪型の代償に科学力を授かった男である。
メビウスの輪に最も近い髪、ナガシマスパーランドの絶叫マシンにありそう、流しそうめんできるんじゃね?などと言われがちな髪型の彼と出会ったのは、イッシュ二周目の旅をしていた時である。元々やばい奴だったが、さらにやばさに拍車がかかり、アローラではとうとうパソコンを手放せないネット依存症になってしまっていた。突然大声を出したりするので、できれば知り合いである事を隠したい相手なんだけど、ニートのために背に腹は変えられない…恥をしのんでアクロマに協力を要請し、ホテルしおさいの一室で装置の完成を待っている状況であった。
貸しを作りたくない私は、作業中のアクロマに恐る恐る声をかける。
「ちなみに…おいくらお支払いすれば?」
「構いませんよ。チャンピオン就任のお祝いという事で」
タダより高いものはねぇんだよな。気前のいいマッドサイエンティストにビビり、頼むから金で解決させてくれとらしくない事を思った。
金はいいんだよ親父が出すからさぁ。何かもう怖いんだよね、怪しい機械渡されて実験台にされるの。今回は私が頼んだからあれだけど…とにかく金を出させてほしい。そしてアクロママシーンとかいう呼びづらい名前を付けないでほしい。私の望みはそれだけだ。
とりあえず一時間かかるんだったらラウンジで茶でも飲んできていいっすか?と退散しようとすれば、突然アクロマは声を上げ、私はホラー映画にビビる人みたいなリアクションを取ってしまう。
「やはりアローラは面白い!」
うわ出た!いきなりの奇声!
私は飛び上がって驚き、大きな声出さないで!と夫婦仲が上手くいってない夫に怒鳴る妻のような注意をした。何も面白くないからこっちは!そこにあるのは恐怖!この部屋にいたら心臓が持たないと荷物を背負い、ドアの近くにそそくさと移動した。
「あなたがこんなものに頼るくらいですから、多くのポケモンが独自の形態を持っているのでしょう」
「はぁ…そうみたいですね…」
「そしてあなたもトレーナーとして独自のスタイルを極めている…そうは思いませんか?」
知らんがな。私に問うなよ。ですね…とは言えねぇだろ普通。
独自のスタイルってニートの事じゃないだろうな…と身バレの不安に駆られる私は適当に笑って誤魔化しながら、アクロマの深淵を覗いているような眼差しから逃れた。少し俯き、独特の絡みづらさに頭を抱える。
もう…いいかな?外に出ても。頼んだ身で図々しいとは思うがこんな謎の空間で世間話なんてしてられないよ。悪い人じゃないのはわかるけど…と作業に戻ったアクロマを見ながら、そういう問題でもないので溜息をつく。
悪人じゃなくとも変人である。マジでポケモンに魅せられた科学者や研究者って本当やべぇ奴しかいないからな。人格に問題がある。いろいろ手助けしてくれたのは有り難いと思うぜ?かがくのちからってすげー!って脳筋の私も結構思わされたからな。でもさぁ、私の心がよぉ…この無学に染まった頭がよぉ、インテリを避けたいと叫びたがっているんだよ!IQが10違うと会話が成り立たないという逸話を裏付けるように!
やはり頼るべきではなかった…と脳筋ニートは後悔し、深い溜息をついたところで、またしても奇声が私を襲った。
「レイコさん!あなたには可能性を感じるわけです!広げてください、これからも!」
突然振り返ってそんな事を言われ、激励したいのかビビらせたいのかわからないアクロマに、私は眉を下げて頷く。だから声がでかいんだって。しおさいはハノハノリゾートより壁薄いんだからやめな。
安いホテルに泊まるインテリが部屋から出してくれないので、ラウンジで優雅なティータイムは諦めかけた時、何故かアクロマは立ち上がると、こちらにじりじりと近付いてくる。暑苦しい服がアローラにミスマッチすぎて、お前の方が独自のスタイル突っ走ってんじゃねーかと吐き捨てたくなった。髪型もオリジナリティすごいし。どこの美容師がそんな仕事するんだよ。志茂田景樹も衝撃受けるわ。
警戒するこちらをよそに、アクロマは私の手を取ると、その上に無機質な何かを乗せた。円形で方眼みたいなマス目の引いてあるその機械は、どこからどう見てもドラゴンボールを見つけるあのハイテクマシン、ドラゴンレーダーである。
「あなたに頼まれると私の力も一層発揮されるので不思議です」
意味不明なアクロマの言葉の意味をしばし考えて、私はハッとした。
えっ、もう出来たってこと!?頼んだ機械が!?
ガバイトがドラゴンタイプだからドラゴンレーダー風なの?というどうでもいいこだわりを尋ねることもなく、私は黙って頭を下げた。一時間かかると言っていたのに三十分足らずで完成したそれを触り、恐る恐るスイッチを入れる。すると画面にマップが映し出されたので、マジでただの天才なんだな…と私は目を細めた。
この才能をこんな事のために使わせてしまった…私の根性が足りなかったばっかりに…しかも無償で…マジでちゃんとお礼をしなくては。何としても貸しを作りたくない私は深々とお辞儀をし、変な髪型とか言ってすまんかったと心の中で謝罪する。
「ありがとうございます…助かります」
プロフェッショナルを目の当たりにした私は、因縁のインテリにも素直に礼を述べた。アクロマは特に態度を変える事なく微笑みを浮かべ、お役に立てて何より、と元悪の組織の臨時ボスとは思えないボランティア精神を披露する。感謝しながらも、やっぱ変わってんな…としみじみ思った。私だったら絶対金取るね。特許も取ると思うわ。見習えアクロマを。
ここにいるよりは砂漠の方がマシだと感じた私は、買ってもらった玩具で遊びたくてたまらない子供のような純粋な態度を装い、早速使ってきますとドアを開けた。逃げ帰る私を引き止めもしないアクロマだったが、最後にとんでもない置き土産をしやがったので、今度は私が奇声を上げるはめになったのである。
「ああ、ちなみにその機械は何度か使うと壊れますから」
「早く言えよ!」
マジで耐久性ないな!こいつの発明品!
ポンコツドラゴンレーダーを片手に、私はハイナ砂漠で、遠くの方で発生している砂嵐を見つめていた。普段地中に潜っていると思われるガバイト達は、レーダーによると砂嵐の近くにいるらしい。というか、ガバイトがいる辺りに砂嵐が発生したと言う方が正しい。
「盲点だった…!」
私は科学に完全敗北した悲しみで、その場に膝をついた。
ハイナ砂漠では砂嵐が頻繁に起こり、その度に地形が変わる。砂に潜って生活しているガバイト達は、嵐に頭上の砂を巻き上げられた時にだけ姿を現す…つまり砂嵐の日にだけ出てくるというカラクリだった。わざわざ嵐の日に記録に出るなんて事はしないので、そりゃ出会わないはずだよと溜息をつく。
何をやってるんだ私は…こんなド素人みたいな失敗を…!環境によって生態は変わるという研究テーマを掲げる実父の顔に泥を塗る行為ですよこれは。ざまぁ。全然申し訳なくなかった。
しかしインテリに敗北を喫した事は大ダメージなので、私はローテンションでだらだらと砂嵐対策をする。可能性を広げてくださいと言ったアクロマのフラグめいた言葉を思い出し、また落ち込んだ。
可能性か…自分で狭めちまってたな…。
長年記録に励んできたけど…私もまだまだって事ね…あらゆる可能性を考慮し、脳筋らしくしらみつぶしで当たっていく…そういう頭脳とパワーの合わせ技が大事というわけですよ。いや記録は本職じゃねーけどな!カントー帰ったら二度とやらねぇからどうでもいいわ!
映像は乱れつつも因縁の砂漠と決別した私は、アクロマの言った通り数回使って壊れたドラゴンレーダーをゴミ箱に捨てかけ、しかし何となく手放せずに、今もリュックの底で眠っているのである。