女のプライド

あれは数日前…グズマとカップルのフリをしてバトルイベントに参加した時の事である。
たまたまグリーンと出くわし、他人とのデート現場を見られた私はあわや修羅場と思い焦ったのだが、予想に反してグリーンの奴は私を冷ややかに見ると、視線でこう訴えたのである。
お前がデートなんかできるわけないだろ、と。
瞬間、私のプライドに火がついた。

「デートの定番といえば海だけど…でも運動はしたくないんだよな…どう思う?」

こちらの問いかけに、知らんがなという顔をするルカリオは、私の持つ雑誌をパラパラとめくる。アローラのデートスポットが載った本を買ったのは、もちろんデートをするために他ならない。相手は手持ちのルカリオだ。人間相手はちょっとハードル高かったので。私の喪女力は53万です。

私の名はレイコ。クソガキと変人にしか好かれないやばい女だ。やばい女だけど、デートができない女だとは思っていないので、グリーンの失礼極まりない態度に苛立ちの炎が燃え上がった。沸点の低さもやばい女の特徴である。
ふざけやがってグリーンの野郎…思い出しても腹が立つぜ…仮にも私を愛する身でありながら私の非モテを信じて疑わないとは何事なんだ?それつまりお前自身のセンスのなさを認めてるって事だぞ。誰がセンスのない女だよ。見る目ありまくりだわクソが。
怒りがおさまらなかったので、これは何としても男とデートをして見返してやろうと私は決意した。正直暇だった。チャンピオン辞退手続きが終わらなくて足止めを食ってるけど、まさか新作が出るまでアローラに滞在するはめになるんじゃないかと危惧し、それを忘れるためにも気晴らしがしたかったのだ。待てねぇよ2019年秋までなんか。こんなに太陽浴びて松崎しげるみたいになったら責任取ってくれんのか?

美白を保ちたい私は、これまでの人生を振り返り、確かに明確にデートと呼べるものをした事がないかもしれないと気付かされる。
いやまぁ…それらしいものはあった気もするわ。でも私がそう思ってるだけかもしれないからな…勘違いブスは悲しいので、ここらで確実なデート実績を積みたいところである。
しかし、いきなりクソニートから、デートしてもらえません?と言われ、不審に思わない奴はいないだろう。というわけで練習を試みているのである。うちの顔面戦闘力要員、ルカリオの協力を得てな。

ルカリオはシンオウでシロナさんにいただいた卵から孵ったポケモンだ。原型、擬人化共に人気が高いルカリオは、劇場版ではCV浪川大輔、アーロン様との熱い絆に涙した者も多いという、まさにデートの練習台にうってつけと言えよう。本人は迷惑そうにしているし性別も知らんけど無視だ。私のプライドのために頑張っていただきたい。
海デートはしたいが泳ぎたくないという私のわがままに、ルカリオは溜息をつきながら雑誌を指差した。視線を向けると、そこには浜辺で花火をするカップルの写真が載っており、これだわとハイタッチを交わす。
なるほどな、夜の海をしっぽり見ながら手持ち花火…ロマンチックやないか。私よりモテ力の高いルカリオに敗北心を抱きながらも、検討しようと頷いた時、後ろから声をかけられた。

「レイコさん!アローラ!」

陽気な声に、私は聞き覚えがあったのですぐに振り返る。浮かれたパリピサングラスとハワイアンなTシャツを見るたび、南国って人を変えるんだな…としみじみ感じたものである。

「デクシオ…今日はジーナと一緒じゃないんだ」

いつも一緒じゃないですよと微笑むデクシオだったが、その表情はわずかに疲れているように見え、私は静かに同情した。


デクシオとはカロスで出会った。いきなり現れるから度々原付で轢きかけたけども、まぁ毒にも薬にもならない青年である。ジーナの方はそうでもないけどな。あっちは毒だよ毒。
いつも二人でいる印象だったが、さすがに四六時中彼女といると心が蝕まれていくようなので、今日は別行動らしい。オフの日に私みたいなニートに出会うなんてとことん不運だな君は。公式立ち絵どころかポケモン勝負する機会もなかったXY時代の不遇に比べたら大した事ないかもしれないけど。あまりに不遇すぎてプレイヤーから忘れ去られサンムーンで登場した時に新キャラと思われがちだった事に比べたら本当全然大した事ないかもしれないけどね。やめてやれ。

「レイコさんとデートしたい人なんて山のようにいますよ」

ブティックで服を見ながら、デクシオはオーバーな慰めをしてくれて、私は有り難いやら申し訳ないやらで肩をすくめる。
デクシオと出会った時にデート雑誌を見ていたので、誤魔化すのも面倒だった私は、正直に現在の状況を話した。私とて花盛り…デートの一つや二つできる事を証明したいのだと告げれば、暇なのでお付き合いしますよと雑な感じに進言され、とりあえずブティックまでやってきていた。あんまり動きたくないという要求を告げたところ、それなら無難に買い物でもと言われたわけだ。スマートな展開運びに、さすがチャラスの国カロスで育っただけの事はあると感動させられる。
私はバタフライサングラスをルカリオに試着させながら、デクシオに尋ねた。

「しかし買い物って…男性諸君は楽しいのかな?どっちが似合う?とかいう世界一どうでもいい質問を受けるのダルくない?」
「あはは。まぁ…僕は慣れていますけど」

否定しないところを見るにダルいんだな。本日不在の相方を思い浮かべながら、麗しいあたくしに似合うのはどっちかしら?という台詞を脳内再生させ、それに付き合うデクシオがどっちでも良さげにスマートに返す姿を想像し、思わず首を振る。

「でもまぁジーナは何でも似合いそうだからな…アローラファッションも様になってたし…」

自称麗しの少女の格好を思い出して、対照的に激ダサなデクシオの南国Tシャツを見た。お前は何故それにしたって感じなんだが。イケメンゆえに許されているところはあるけど、浮かれ観光客感がすごいぞ。あえて隙を作ることで好印象効果を狙っているのか?深読みしすぎてファッションのドツボにはまった私は、ルカリオが持ってきたフレアスカートを鏡の前で合わせてみる。
花柄と無地のスカートを交互に見ながら、両方悪くないな…と自画自賛し、優柔不断を発揮させた。
無地ベージュのスカートか…白の花柄か…どっちも落ち着いた感じだね、清楚系ってやつかな。せめて格好だけでも清らかであれというルカリオのメッセージを受け取り、余計なお世話だよと舌打ちをした。

「どっちがいいと思う?」

世界一どうでもいい質問を受けたルカリオは、本当に面倒臭そうな表情を浮かべると、試着していたバタフライサングラスを外してスカートを凝視した。どうでもいいわりに真剣に考えてくれるところが神だな。これで擬人化してくれたら言う事ねぇよ。小言多そうだからやっぱやめとくわ。
波導の勇者には程遠い小姑のようなルカリオを遠い目で見つめていると、今度はデクシオが服を持ってきた。陽気な黄色いタンクトップは、既視感とかいうレベルじゃなく私の視界を混乱させる。

「レイコさんだって何でも似合うと思いますけどね。そう、メタモンのように変幻自在!」

そう言いながらハイテンションな彼が押し付けてきたのは、デクシオが着ている柄とお揃いのタンクトップだった。アローラナッシーと夕陽のシルエットが何とも言えない風情を感じさせ、一応鏡の前で合わせてみる。
いや浮かれすぎでしょ。もはやアローラに浮かれる時期過ぎてんだよこっちは。自国でもない国で防衛戦やってる私の気持ちわかるか?今はヤマブキのコンクリートジャングルTシャツの方が俄然欲しいレベルだよ。新海誠の映画に出てくる風景のようなビル街、恋しいです。
普通にいらん、と元の場所に返してくるよう伝えかけたが、ルカリオの奴が、そのタンクトップならこっちのベージュが合うね、と指差してきたので、なんかもうどうでもよくなってお買い上げしそうな心境である。
デートってこんなに無の境地に達するもんなの?それとも本番はもっと臨場感あるわけ?というか無の境地に達してる時点で私はデートする才能がないのか?グリーンの言う通り…私はデートできない女だっていうの…!?

衝撃の事実に傷付いた私は、意気消沈してベージュのスカートと南国タンクトップをカートに放り込んだ。これを着れば少しは浮かれ野郎になれるかもしれない、いやなりたい、そう思った。悲しみを紛らわせてくれるならもはや何でもよかった。
やってらんねぇぜ…確かにときメモでも買い物デートの時はよく選択肢間違ったもんな…あの頃からすでに才能のなさを露呈させていた私の悲しみの波動を察したのか、ルカリオは軽く肩を叩くと、慰めている風を装いながらそっとサングラスをカートに投げ入れた。おい。こっそり入れてんじゃねぇ。
ポケモンも紫外線を気にする時代か…と地球温暖化を懸念する私は、気に入ったなら買ってやるよと気前のいい事を言ったあとでサングラスが四万近くする事を知り、さらに撃沈するはめになる。

四万て。レイバンのサングラスより高いじゃねーかよ。マジか?どの辺が四万?何もわからん。これで紫外線完全カットじゃなかったら許さないからな。防衛戦とナマコブシ投げで貯めたお金がサングラスに消えていくと思うと血の涙が出そうであったが、チャンピオンの手持ちたるものそれなりのブランドを身につけた方が箔がつくという気持ちもあり、四人の諭吉に別れを告げる。
さよなら…トレーナー共から巻き上げたお金達…愛するルカリオのため、私は貢ぐよ。明日から馬車馬のように働いてもらうけど。もうお前一人で防衛してくれや…微妙にできそうなところもまた笑えないし…溜息をつきながらレジに並び、浮かれた観光客のデクシオに一応礼を述べておく。

「ありがとう付き合ってくれて…いろいろ勉強になったよ…」

デートの才能がない事とかな。そして知りたくはなかった。
買い物の才能すらない自分を嘆いていれば、急にデクシオは何かに気付いたように口を開けると、私の肩を叩く。

「レイコさん、大変です」

姉さん事件ですみたいに言われ、すでに四万支払って大変な思いをしている私は、これ以上の騒動は勘弁してくれと顔を歪めた。
何だよもう…やめてくれる?こっちはずっと大変なんだが?デートなんかできるわけないと煽られ、奮闘した甲斐なく才能が死に、挙句金まで消えていく。もう全てを失いそうだ。恐ろしすぎだよアローラ。私が何をしたっていうんだ。やっぱニート以外のプライドなんて持つべきではないと痛感し、私は俯いた。
そう…ニートにはニート以外不要なんだ。デートなんてする必要はないし、喪女力53万で上等だよ。グリーンをつけあがらせておくのは癪だけど、そもそも身の程知らずな私が愚かだったんだ…反省しよう。そして思い出そう、どうせ家から出ないんだからデートスキルなど不要だという事を。
諦めの境地に達した瞬間、それは突然手に入ったりするものである。

「花盛りの男女が仲良くショッピング…言うなればこれは、デートです」

私と自分を交互に指差して言ったデクシオの言葉に、私はハッとした。間抜けに口を開け、稲妻に打たれたような衝撃が走る。
街を歩き…優雅にショッピングをして…和やかに服を選ぶ…そしてお揃いのシャツを買うという一連の流れに、私はようやく気付かされた。ちょっとコブ付きだったけど…とルカリオを見たが、何より本人からのお墨付きがあるので、私は思わずコロンビアポーズをし、デクシオとルカリオから拍手を送られる。

デート、すでにしてた。知らぬ間に。
ていうか、しようと思わなくてもできるとか才能ありすぎじゃね?
一気に形勢逆転し、天狗になった私は高笑いして、勝手に勝ち誇った気分になるのであった。
デートって楽勝〜。