実はまだ叶ってない

「店長…怪しい人が…」

アルバイトの学生にそう言われ、びびりながら現場に行くと、怪しいイケメンが陳列棚の前にいた。クリスマスカードのコーナーを、かれこれ一時間微動だにせず眺めているというので、確かに怪しい人である。
親から継いだ小さな雑貨屋で働くこと数十年…不審者とは無縁の人生を送っていた私だったが、若いバイトくんに対応させるわけにもいかないので、意を決して声をかけた。

「あの…何かお探しですか?」

すると、緑髪の男はすぐに振り返り、意外にも普通の様子で受け答えをする。

「こういうものを贈ると…トモダチは喜んでくれるんだろうか?」

イケメンは棚にあったカードを指差し、真剣な顔で相談を持ちかけてきたため、突然のことに私は固まってしまった。何言ってんだこの人…と一瞬呆気に取られたが、怪しい行動の辻褄が合い、納得の声を上げる。

「ああ…クリスマスカードを選んで…」

いやそれにしても長すぎじゃない?一時間も見てたよね?
イケメンの言葉から察するに、どうやら友達にクリスマスカードを贈るかどうか悩んでいたらしい。ただの客だった事には安心したが、怪しい人呼ばわりしたバイトくんを責める事はできなさそうな雰囲気に、私は一筋の汗を流した。

一時間も微動だにせず考えることかね?変わった人だなぁ。パッと見だと妙な様子もないし、人より顔が整っている以外はどこにでもいそうなお兄ちゃんである。故に、彼の言動は不可思議に感じられた。

「喜ばれると思いますよ…手紙って貰えると嬉しいものですし…」

当たり障りなく答え、今はこれが一番人気です、とWardを模した紙にガチゴラスが暴れ回っているカードを指した。

何種類か置いているが、柄ではなく贈るかどうかを悩んでるパターンは斬新だ…。そりゃ誰だってもらえたら嬉しいものでしょうよ、宗教的にNGとかじゃなけりゃな。全てが電子化された昨今、手書きのメッセージのあたたかみは沁みるものである。
もしかして初めてできた友達なのかな…と目頭を熱くさせ、確かにどことなく物悲しい雰囲気を秘めた青年を見つめた。
それなら尚更贈った方がいいよ!年に一度のクリスマスは特別な日、大事な友達なら絶対喜んでくれるはず。普段照れて言えない事も、クリスマスムードに乗せてしまえば羞恥心など消え失せよう。是非贈りなさい、と脳内で背中を押していれば、その気持ちが通じたのか、不審な青年は微笑みを浮かべた。

「それじゃあ…渡してみようかな」
「いいと思います!ここに一言添えれますから!」

購入を決意した彼に大きく頷き、私はメッセージ欄を指したあと、ペンまで貸してあげるという大盤振る舞いを披露してレジに戻った。心配げに見ていたバイトくんに親指を立て、かろうじて不審者ではなかった事を伝える。

「なんかクリスマスカード選んで悩んでたみたい」
「一時間も!?よっぽど落としたい女に贈るんでしょうね…」
「いや…友達だって言ってたけど…」

的外れな事を言うバイトに真実を伝えたところ、相手はドヤ顔で首を振り、何故か自信げに目を細めた。

「女ですよ、絶対」

どうでもいいわ…と思う私は、どちらも正解であった事を、結局知らないままである。


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リア充の爆発を最も願う日、クリスマス。非リアニートの私も当然爆発希望側だが、今年は何やら私が爆破されそうな事が起きた。

「暴れ回るティラノサウルス…」

もといガチゴラス…。若干流行りに乗り遅れた感のあるハガキが届き、私は眉をひそめた。

なんだこの謎の手紙は。クリスマスカードか?
情報が渋滞しすぎて呆気に取られてしまったが、今朝方、私宛に一枚のハガキが届いていた。暴れ回るガチゴラスが描かれた謎のカードで、ツリーやサンタの絵が載っているところを見るに、クリスマスカードというやつだろう。
申し遅れたが私の名はレイコ。手紙なんてものは、ジムの出禁通知くらいしか届かない悲しいニートである。

そんな私に一体誰がクリスマスカードなどを…?と首を傾げ、何も書いていない差出人欄を凝視する。
マジ誰?このマイクロソフトみたいなセンスの奴。心当たりがないといえばないし、あるといえばありすぎるところがまた恐ろしかった。知人が変人ばかりで泣きたくなるレイコだった。

宛名は完全に私だから、送り間違いという事でもないのだろう。差出人がわからないのは不気味なので、何かヒントはないか探してみる。
すると下の方に、小さな手書きの文字を見つけた。そういうフォントかと思うくらい規則性のある文字だったため、一瞬メッセージと気付かなかった。しかしそれでも名前らしきものは見当たらない。何故名乗らないんだ。タイガーマスクか。

伊達直人の正体を探るべく、短いメッセージを読んでいくと、私はすぐに一人の人物に思い当たった。しかし確証が持てず、しばらく悩んだあと、カードをテレビの横に立て掛ける。どう考えても暴れ回るガチゴラスはインテリアには向かなかったけど、元々汚い部屋である、景観など今さらどうでもよかった。放っといてくれ。

「元気そうにしてんじゃん…」

さよならと言って別れてからいくつか季節が過ぎたが、こんなふざけたハガキを送ってくる程度には元気な彼を思い浮かべ、ついつい何度もメッセージを読み返してしまう私なのであった。
暴れ回るガチゴラスもう流行ってないけどな。


「メリークリスマス、レイコ。夢を叶えたキミと会いたい」