ワイルドエリアってトレーナーがタイプ:ワイルドになるエリアの事なんだろうか。
「寒い…」
私は凍えるワイルドニートことガラルチャンピオンのレイコ。テントなどもはや三分もあれば組み立てられるワイルドトレーナーだ。
何故こんなにワイルドになっているかと言うと、よその地方に派遣させられるたびに強いられる記録作業のせいである。
天気がコロコロ変化するこのワイルドエリアでは、空模様で姿を見せるポケモンが変わるため、じゃあ出てくる前は一体どこに隠れているかを調査しているわけだ。
今日は氷タイプの記録をしたいので、吹雪になるのをテントでじっと待っている状況である。カメラを設置したから動けないし、天気がまた変わりそうだったら別の対応を考えなきゃなので、ずっと空と睨めっこだった。
マジでやっと雪降ってくれたからさ〜このまま吹雪になってくれたらいいんだけど…一体どうなる事やら…。
ワイルドエリアは、本当に短いスパンで天気が変わりまくる。さっきまで晴れてたと思ったら土砂降りになるし、霧が出てたと思ったら砂嵐だし…。地獄巡りでもしてる気分で、心身ともに疲弊していた。ついでにめっちゃ眠かった。天気の変化を逐一チェックしなきゃだからろくに寝れず、さっきからあくびが止まらない。
そうやってテントに缶詰状態な私へ、リーグスタッフから連絡があった。何でも私の新しいリーグカードが出来上がったので、百枚ほどプレゼント特典用にサインをしてほしいと言うのだ。眠気が加速しそうな要求に、正直ノーと言いたかった。
なんでこんなクソ忙しくて眠い時に百枚もサインしなきゃいけないんだよ。書いてる間に寝るぜ絶対。大体サインってどう書けばいいの?いくら私がかつて自分のサインを考えまくっていた重症厨二病患者とはいえ、大人になってからガチのを書かされるとか難易度高すぎだろ。
今ワイルドエリアから動けないんで、と伝えて断ろうとしたところ、じゃあ誰かに届けてもらいます〜と予想外の答えが返ってきたので、私はスマホロトムを二度見した。届けられるほど生易しい場所じゃないんですが?って感じだからだ。
正気か?ここはタイプ:ワイルドの人間のみが足を踏み入れられる場所、ワイルドエリアだぞ。トレーナーでもない奴は来るべきではないし、雪もチラついている。旅慣れてない奴が来るのは大変危険極まりないので、私は安全を考慮してやめとけと伝えた。別にサインを書くのが怠かったわけじゃないから誤解するなよ。
もちろん怠いのが一番なんだが、しかしそんな私を汲んではくれず、どうやらスタッフは一刻も早くサインを書かせたいらしい。強いトレーナーに行ってもらうから大丈夫の一点張りで、こっちの都合はガン無視であった。
まぁ私も待機中で暇っちゃ暇だからいいけど、睡魔がそれを許すかな?って話だよ。レッドブル何本目だと思ってんだ。私の中の闘牛が目を覚ましても知らないからな。
翼を授けられそうな私の元に、結局リーグカードは届けられた。しかし雪がちらつく中で、ニートのテントをノックしたのが、本当に意外すぎる人物であったため、睡魔は一瞬消え去るのだった。
「どいつもこいつも…人を使い走りにしないでほしいんですがね」
雪を払いながら、リーグカードの入った袋を置いた相手に、私は返事もできず呆然とした。てっきりいつものグラサンスタッフが来るかと思っていたので、前衛アートのような前髪が視界に入った瞬間、だらけていた姿勢を思わず正す。世間体を気にするニートであった。
「ね、ネズ…さん…!」
私は寒空の下やって来た相手を、粗末なテントに招き入れた。おつかいを引き受けてくれたのは、意外なことに元スパイクジムのジムリーダー、ネズさんだったのだ。
いやいくら強いトレーナーに行ってもらうって言ったって、これは強すぎるだろ!ワイルドエリアも裸足で逃げ出すわ!
加減のわからないスタッフにツッコミながら、直後に吹雪き始めたこの場所で、私達はしばし滞在を強いられるのである。
「冷え込んできましたね…」
私は微妙に気まずい空気の中、電気ストーブを強に回した。風を浴びるテントは時折爆音を奏で、吹雪の凄まじさを物語っている。
急にめっちゃ吹雪いてきやがった。記録作業には有り難いけど、代わりにネズさんが帰れなくなったから、どっちもどっちって感じである。
まるで何か大きな…夢小説的な力が吹雪を引き起こしたみたいな…そういうものを感じるな。とはいえ私はただのチャンピオン、あっちはただの元ジムリーダー…何か起きるはずもなく、適当に駄弁ってやり過ごすのみである。
私は早速リーグカードのサインを書き始め、秒で睡魔に襲われながらも、気力でペンを走らせた。本当にマジで眠かった。
吹雪になってくれたから気が緩んじゃったかもしれないな…天気を見張らなきゃいけない緊張感からようやく抜け出し、あとは雪が止んだ時に仕掛けたカメラを回収すれば終わりであるため、仕事はほとんど済んだも同然だった。安堵感を抱いても仕方あるまいって感じだよ。
もう少しの辛抱だぞ…と言い聞かせ、床に並べたカードを一枚一枚さばいていく。百枚直筆プレゼントなんて企画を考えた奴をビンタしたい衝動とも戦っていた。
「チャンピオンも大変ですね」
するとネズから雑な感じの労いを受け、私は苦笑する。本当に大変だと思ってるか?って感じだが、こう見えてわりと責任感の強いネズさんなので、本心かもしれない。
まぁ大変だけど親父のおつかいよりはマシだからな…何より無償じゃないからいいわよ。という事は私はいま労働をしている…?この限界ニートの私が…?ウッ…具合悪くなってきた。
労働アレルギーの私は頭を押さえながら、まぁ気負いすぎず頑張りますと当たり障りない言葉を返し、サインを書き続けた。ネズさんも静かにストーブに当たっているので、無言の時間が睡魔を加速させる。
ね、眠い…。
マジでやばい。床に置いたカードにサインするという姿勢がまず入眠を誘っているじゃん。退屈な単調作業、一仕事終えた安心感、子守唄代わりの風の音…全てが私に眠る事を推奨していやがる。目頭を強く押しながら、何とか眠気を堪え、ギリギリで戦っていた。
クソ…なんでネズさんデスメタルじゃねぇんだよ…。一曲歌ってもらって眠気をDEATHしてくれたらどんなによかったか…。
ヨハネ・クラウザーII世には程遠いネズを見上げることもできず、私の意識はどんどん現実から遠ざかっていく。ペンが止まっている事にも気付かずに、頭を床につけたところで、異変を察したネズが声を上げた。
「レイコ!」
吹雪の中響いた声に、私はハッとして顔を上げた。完全に飛んでいた意識が一瞬で舞い戻り、そしてまたすぐ消えそうになる。
やべぇ。本当に寝るわこれ。何とかしないと…と思い、ひとまず笑ってごまかしたが、全てを見透かしたネズには通用せず、訝しげな視線を向けられる。
「お前まさか…寝やがらないですよね?」
そのまさかなんだよな。
図星を喰らって苦笑する私は、もはや全てを諦める勢いだった。これがもっと緊迫感のある相手なら起きてる努力をしたけど、まぁネズさんだし…という舐め腐った私の態度が、睡魔に付け込まれる要因となる。
「実はあまり寝れてなくて…」
「そんなに忙しいですか」
「チャンピオン業とは関係ないところなんですがね…」
親父の研究のせいで…と喋りながら、私の体はどんどん前へ傾いていく。そのたびにネズさんが、おいおいおいと床を叩いたけれど、もはやそれさえも心地よいBGMだった。
マジで駄目だ。もう瞼が開かねぇ。
私は土下座のような姿勢で睡眠ポジションに入り、言い訳を述べながらあとの全てをネズに託した。体裁は捨てる事になるけど、ネズさんいい人だし、別に寝ても許してくれるかなって感じだろう。甘えと怠惰を全面に出しながら、帰る時に起こしてくれる事を願い、段々と夢心地になっていく。
「一人だと気を張れてたんですけど…ネズさんが来て気が緩んじゃって…」
「こっちは気が気でないですよ…」
「申し訳ござらん…」
呂律が回らなくなってきた私に、とうとうネズも諦めたらしい。まぁいいですけどね、と呆れたように溜息をついて、彼は置いてあった毛布を私に投げた。礼も言えずに眠りに落ちる中、何だか声が聞こえた気がしたけど、それはもう夢の話かもしれない。
「…おやすみ、レイコ。いい夢見ろよ」
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歌が聞こえる。
ぼんやりする頭の中で、私は聞き覚えのあるメロディーに耳を澄ませた。
なんだっけな、この歌…。絶対知ってんだけど、思考が停滞してて思い出せない。
有り得ないくらいの心地よさが、身も心も支配している。一生この堕落に浸かっていたいな…と幸福の絶頂にいる私は、それを阻害するよう聞こえてくる歌に、意識をとらわれ始めていた。
えー…絶対聞いたことあるのに。何だったっけこれ。
ドンキホーテの歌でもなくて…と激安ジャングルへと思いを馳せながら、不意にサビに入った瞬間、全ての記憶がよみがえった。というか歌詞が聞こえた。
あーわかった!これ、あれだ。
愛してーるのエールをあげーるだ。
ネズの歌じゃん!と思った瞬間、現実に引き戻される。ということはアラームが鳴ってんだ。最近目覚まし代わりにしているこの曲のおかげで、朝が来た事を理解し、堕落との決別を心から悲しく思う。
せっかく気持ち良く寝てたってのにもう朝かよ…。憂鬱な朝に愛してーるのエールをもらったら多少はポジティブになれるかと思ったが、どんな応援の力も夜型ニートの前には無力だな。己の品行の悪さが悲しいレイコだった。
アラーム音をやめて着信音にするか…と考えながら、私は手を伸ばして音を止めようとする。
そういや私…スマホどこに置いたっけ。そもそも今日はどこに泊まったんだ?ホテル?ポケセン?テント?半分寝ている私は曖昧な記憶を呼び戻せないまま、とりあえず毛布の中から音の方向に手を伸ばし続ける。
いつもならすぐそばに置いているはずだけど、どこを触っても機械の感触を得られず、それどころか何に触れているかもわからなくて、徐々に意識が輪郭を帯び始めた。
「ちょ、ちょっと…」
すると、突然アラーム音が止み、代わりに人の声が聞こえてきたため、さすがに薄っすらと目を開けた。
もしかしてうっかり電話でも掛けてしまったんだろうか。慌てた私はさっきより乱雑に周囲を探り、全然馴染みのない感触を奇妙だとは思いつつも、スマホロトムを探し続けた。もうロトムを呼んだ方が早いかもしれないと思った瞬間、何かに強く弾かれて、私の手は宙を舞う。
「ちょっ…と!どこ触ってんだ!?」
「え?」
間近で聞こえた人の声に、私は勢いよく体を起こした。何事!?と顔を上げた時、走馬灯のように記憶が蘇る。
吹雪、リーグカード、親父への恨み辛み、強烈な睡魔、そして配達にやってきたネズ…。全てのピースがぴったりと嵌まり、記憶のパズルは完成した。そして、とんでもない失礼を働いた可能性に、テンパって毛布を放り投げる。
「え!?ね、ネズさん!」
なんで!?と思ったけどそうだわ!ネズさん来てるのに寝落ちしたんだった!無礼すぎる!
「生まれてきてすいません!」
パニックのあまり誕生から謝罪する私は、仰け反ってネズのそばから離れようとした。寝ぼけて堕落した私は自分が信用できず、何かしてしまったかもしれないと焦り、ひとまず落ち着かなくちゃと距離を取る。
やべぇ!ガチ寝しちまった!意識朦朧としすぎて正常な判断力が死んでいた。ニートが人前で寝るなよ!働きたくないでござる…とかいう寝言聞かれたら終わりだぞ!
どれくらい寝てたんだろ!?と慌ただしく後ろへ下がった時、何故かネズは私の手を取ると、思いっきり体を引き寄せてきた。いきなりの事に驚いたが、前衛的なネズの前髪を咄嗟に避け、寝起きにも関わらず高い瞬発力を発揮する自分を称賛した。そんな場合じゃねぇよ。
一体どうした!?と固まり、謎の状況を整理できずにいると、至近距離で普通に怒られた。
「ストーブ!」
「えっ?」
冬場に欠かせない機器の単語を叫ばれた私は、何の事やねんという顔をしたけれど、すぐに意味を理解して振り返った。
そこにはオレンジに光る暖房機器があり、このまま下がっていたらそれにぶつかる羽目になっていたので、ネズさんが止めてくれたんだろう。どこまでも無様な姿をお見せして情けない限りだ。私は珍しく真面目に反省して、素直に頭を下げる。
「す、すみません…ありがとうございます…」
恥と申し訳なさと感謝が極まり、思わず手を握り返してしまうと、ネズは一瞬目を見開いた。謎の沈黙の中で見つめ合い、何だか意味深な雰囲気に、私は冷や汗が止まらない。
やばいな…本当に人としてやばすぎる、客人の前で爆睡するとか。いかに優しいネズさんとはいえ、これにはドン引きなんじゃないだろうか。マジでないわこのニート…という目つきなのではなかろうか。
間近で見るネズの瞳は、実に澄んだ色をしていたけども、心の奥では私を軽蔑しているかもしれない。そんな懸念をしてしまうほどに、私の性根は腐っていた。
どうする!?てか大丈夫だよな?寝てる間に何もなかったよね?
私は自分の寝相、寝言、寝顔諸々がちゃんと真っ当な人間のそれになっていたかがわからず、うっかりとんでもない事を口走っていないか心配でたまらなかった。
夢を見た記憶はないけど、たまにくたばりやがれクソ親父!とか絶叫してる時があるって父さん言ってたからな、普通にやばいかもしれねぇ。
でも本当にひどい親父で…と謎の言い訳をしそうになった時、私は思い出した。そういえば起きた瞬間、ネズさんが何か言ってた気がする。どこ触ってんだとかどうとか。
私は改めて状況を整理し、そもそももうちょっとネズから離れたところにいたはず…と横を向く。リーグカードが散らばっているので、あの辺で寝てたはずだ。ストーブもこんなに近くなかった。
という事は寝てる間に移動したことになる。寝相の悪さを見られた地獄でますます手に力が入ったが、こんなものはまだまだ序の口であった。
それでアラームが聞こえてきて…止めようとした時にネズさんの声で起きたから…。つまりそれは?どういうこと?そういうこと?
もしかしなくても、スマホだと思ってネズさんをベタベタ触ってたという事なのでは?
私は白目を剥きながら、生き恥に耐えた。いや耐えられなかった。
太宰も驚く恥の多いニートの生涯が、走馬灯のように駆け巡る。これまでもいろんな人に様々な無礼を働いてきたけど、正直これはかなりひどい。人間失格の騒ぎじゃねぇぞ。
私は震えながらネズを上から下まで凝視して、聞くのが怖いと思いつつ、大人として聞かねばならぬと決意し、思い切って口を開いた。
「あの…どっか触りました?」
「どこでもないですよ」
回答が早すぎる。逆に怪しい!
えっ、まさかToLOVEるみたいなことしてないよな!?
私は内に眠る結城リトを呼び覚ましてしまった可能性を恐れ、頭を抱えた。ネズが気を遣って嘘をついてくれているのか、この件に触れてほしくなくて言ってるのか判断がつかず、しばらく無言になってしまう。気まずさで死にそうだ。距離を取るタイミングさえ失って詰みだった。
どうしよう…無礼な痴女に成り下がった夢主とか絶対嫌なんですけど。ニートになれれば何でもいいと思ってはいるが、犯罪者だけは御免だからな。私にも矜恃がある…!とプライドを掲げ、とりあえず謝り倒すしかねぇな!と土下座の準備をしようとした。
その時、同じタイミングでネズも動いた。無言に耐えかねたのか、深い溜息をつくと、私の手を首元まで持っていく。遊戯王みたいなシルバーアクセサリーに触れ、わりと重くてびびった。だから猫背になるんじゃねーか?
「…この辺だけです」
そう言ってネズはアクセを指したが、本当かどうか正直怪しい…というのが本音だった。
この感触だったかなぁ…。私は疑いつつ、しかし寝起きの記憶も定かではないので納得する事にし、この話はこれで終了にさせてもらった。長引かせても地獄になるだけだからだ。
まぁネズさんがそう言うんだからそうなんでしょ。どこ触ってんだっつってかなり勢いよく手を払われた気もするが、勘違いって事にしておくか。
解決したところでネズから離れ、私は毛布を畳み、散らばったリーグカードを整える。時計を見ると寝てから一時間も経ってなかったが、それでも爆睡していた事には変わりなく、さすがに恥の意識が低い私もショックである。睡眠不足は人を狂わせる、身をもって体験した瞬間だった。
マジでないわ…寝た挙句にセクハラとか最悪でしょ。
そういやアラームはどうなったんだ?止め損ねたはずだが。
私はスマホロトムを探し、ふとおかしな事に気付いて首を傾げた。
あれ、でもなんでアラーム鳴ったんだ?朝起きる時にしかセットしてないのに。
この時間に鳴るはずがない音を聞いた私は、怪奇現象かと疑い、これだからゴーストタイプは…とロトムを見つめる。しかしもう一つの可能性に気付いて、今度はネズに視線を向けた。
あ?もしかしてスマホからの音源じゃなかったんじゃね?
このテントに生身の音楽再生機器がある事を思い出した私は、吹雪が止んだと同時に口を開いた。
「ネズさん…何か歌ってませんでしたか」
知らぬ間に単独ライブが行われていた可能性を指摘すると、ネズは立ち上がり、眉をひそめて呟く。
「まさか」
すると即否定され、アラーム音からそもそも夢だったかもしれないと苦笑した。寝ぼけすぎだろ私。マジでやばい奴だぞ。
そりゃそうですよね、と溜息をつき、重ね重ね申し訳ないと謝罪を繰り返した。忘れましょうと言ってくれたネズに甘え、今日の記憶を抹消する事を決意した。
本当に消したい記憶で消せない罪だわ…。ネズが許しても北出菜奈は許してくれないかもな。
せめてネズさんが歌っててくれたら、お前のせいでアラームと勘違いしたんだよ!とハラスメントの責任をなすりつけられたのに…などとは別に考えてないけど、何にせよ九割は私が悪いのだ。お詫びはせねばなるまい。ちなみに残りの一割の責任はリーグスタッフです。元ジムリーダー派遣してんじゃねぇぞ。
静かになった外をチラ見し、帰りますとネズが言うので、私は慌てて立ち上がった。そしてサイン入りのリーグカードを一枚取り、それをネズに恐る恐る差し出す。
「あの…詫びにもならないですがリーグカード…よかったらもらってください…」
「はあ…」
借金苦になったら質に入れてくれ、的な気持ちで渡したら、ネズは実に微妙な反応をして受け取った。厨二病真っ盛りに考えたサインが気に入らねぇっていうのか?とキレかけたが、そこは堪えて大人な切り返しをする。
「いらないなら無理にとは言いませんけど」
「いや、貰いますよ」
すると突き返す事もなく、ネズは私の面白みも何もないカードを両手で持ち、引き取る意志を見せた。いらないと言われても傷付くが、そんなまじまじと見られるのも恥なので、私は落ち着かない気持ちで相手を見る他ない。
睡魔全開の時に書いたやつだからわりとやばい出来だけど、逆に貴重品なんでいらなくなったらメルカリで売ってくれや。ネズさんに限り転売可だから。
不要なら本当に好きにしてね…という視線を送っていたら、ネズはどことなく意地の悪い顔で笑い、最後まで翻弄させられてしまう私なのであった。
「子守唄の見返りってことで」
「は?」
去り際に爆弾を落とされ、私はさすがにキレを抑えられず、素のリアクションをしてしまった。きっちりテントを閉めて行ったネズを追いかけようとするも、捕まえて何を話したら…って感じなので、私はそのまま正座する。とんでもない事を聞かされた気がし、静寂の中、私は数秒固まっていた。そしてワイルドエリアでワイルドニートは、ワイルドなシャウトを轟かせる。
「やっぱ歌ってたんじゃん!」
なんで一回はぐらかした!?別にいいだろ素直に言っても!ちょっと歌詞が意味深だから恥ずかしかったのか!?自分の歌だろ!恥じるな!私の生き恥に比べたら全てが些事でしょ!
自分で言ってて悲しくなり、私はリーグカードを地面に叩きつける。
もう!これのおかげで踏んだり蹴ったりだよ…!あのリーグスタッフ絶対許さねぇからな。今度から吹雪の中帰れる奴を派遣してくれ。でなきゃ二度とサインなんか書かない。これは誓い、そして戒めだよ。
深すぎる溜息をつき、でもめっちゃ快適な睡眠だったな…と疲労の消えた体を伸ばして、愛してーるのエールのすごさを思い知る私であった。
音楽聴かせると植物が育ちやすい的なやつ、あれってきっとマジなんだろうな。