レアリーグカード用の写真を用意しろと言われた私の名はレイコ。自撮りの下手な新ガラルチャンピオンだ。
リーグカードには二種類ある。それは普通のやつと、レアなやつだ。
違いは全くわからないが、とりあえず二つ用意しておくのが基本らしい。マジ怠いわという感情を封印して、私はジムリーダー諸君にもらったレアカードを凝視していた。
チャンピオンになったからにはレアカードくらい持ってないとやばいですよ、とリーグスタッフに言われてしまったが、そんな今時ガラケーとかやばいっすよ!みたいなノリで言われてもね…って感じである。決め顔の自分をカードにしてガラル中に配布するという狂気に馴染めない私は、そうは言いつつも承諾し、どんな写真を撮るか悩んでいる最中であった。
本当チャンピオンっていろいろやる事あって大変だな…成り行きっていうかそういうシナリオだからこうなっちゃったけど、マジで人生考え直せって話だぜ…。もっと思慮深く生きなければ何度も自撮りをさせられる、それを学んだわ。
何故か写真一枚で人生に思いを馳せている私は、チャンピオンに相応しいレアリーグカードがどんなものかわからず、途方に暮れた。ジムリーダー達のものを参考にしてみたけれど、ノーマルカードに比べコアなものが多く、どこの層を意識しているのかが全く推察できない。
そもそもが苦手なんだよな〜こういう自己アピール的なやつ。だってニートだからな。無職をアピールしてどうするってんだよ?恥でしかないだろ。
ろくな人生を送っていないせいで、このように弊害が多発する私は、一人で考えるのにも限界があると感じ、立ち上がった。適当な写真持っていくとリーグスタッフに怒られそうだからな、後ろ盾じゃないけど、助っ人外国人くらい頼んだってバチは当たらないだろう。
「やっぱチャンピオンのことはチャンピオンに聞くか…」
そう決意した私は、本当なら一歩たりとも足を踏み入れたくないバトルタワーに向かい、元チャンピオンのダンデに相談を持ちかけることするのであった。
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「どんな写真も何も、君らしいものにすればいいんだよ」
秒で詰んだ音がしたわ。
早速ダンデにリーグカードの相談に行った私は、微塵も参考にならないアドバイスをもらい、人種の違いを痛感した。
そもそも私は根っからのクソニートである。それに比べてこのダンデ、チャンピオンから引きずり下ろされたにも関わらず、即オーナーに着任した、無職とは無縁の人間だ。そんな真っ当オブ真っ当な人に、私みたいなニートオブニートが相談しても、何も解決する事などなかったんだ。
だよね〜と薄ら笑いを浮かべ、共通点がチャンピオンしかないダンデのアドバイスにとりあえず頷いておく。
いやそうだったわ。ダンデさん普通に根明だもんね。根暗の私が自分らしい写真撮ったらどうなるかなんて全然わからないだろうよ。
観察眼も優れた聡明なダンデであるが、恐らく私がニートな事には気付いていないはずなので、私の私による私らしい写真のやばさなど、きっと想像もしていない事でしょう。むしろそうであってほしいぜ、心の底からさ。
私らしさ、それはニートであった。
部屋着のまま寝転がり、カビゴンの腹の上でソシャゲをしながら、立ち上がるのも億劫で四六時中だらだらしている、そういう人間なわけ。近所のコンビニくらいならスウェットにキティちゃんのサンダル履いていく高二のヤンキーみたいな精神なの。だから私が自然体になると、チャンピオンの威厳どころか人間の尊厳まで消失しかねないという話なんだよ。わかるか?ダンデさんは…スウェットって…ご存知ですか?
すっかりお貴族ファッションになったダンデを上から下まで凝視し、私は自身との違いに慄いて頭を抱えた。
人間としての格が違いすぎる。だって私絶対その服のチョイスしないもん。私が着てもせいぜい三流ジョッキーにしかならないもん。
どうするかな本当…いっそマジに私らしい写真にしてやるか?他の人も結構自由っぽいし。ネタと思ってもらえるかもな。
フリーダムなトレーナー共のカードに苦笑し、私は半分ヤケになって口を開いた。
「確かにみんなオフショット的な写真ですしね…」
レアと意外性は密接な関係にあるのか、どのトレーナーのレアリーグカードも、普段目にする姿とは違うものが多い。まぁファンならギャップが見たい的なところあるもんな…かと言ってニートは見せられないけど。見せてたまるかよ。無職ってのは孤独のグルメくらい自由で救われてなきゃならない時間なんだよ。
むしろ救いようがない私を知ってか知らずか、ダンデはさらに私を追い詰める事を言い、ついつい正直に休日の過ごし方を暴露してしまう。
「観客が君を見るのは試合の時が多いだろう。だからオフショットの方が嬉しいと思うぜ」
「でも…私オフはだらだら過ごしてるだけなんですよ」
まぁニートは毎日がオフなんだけどな。
「それでいい!」
「えっ」
ダンデの声に、一瞬ニートを肯定されたのかと思ったが、彼が反応したのは私の心の声ではなく、だらだら過ごしている、の部分であった。
「チャンピオンの寝てる姿なんて滅多に見られないからな!レア中のレアだぜ!」
いや微塵もレアじゃないんだけど。むしろ通常の姿だから。スタジアムに立ってる私の方が断然レアだからな?
認識の違いに驚く私は、そんなの他人に見せられるわけないよ!とつい声を荒げそうになった。だってマジに無理だからだ。
正気かよダンデさん?私は怠惰のプロだぜ?可愛い女子が、すっぴんなんて見せられないし〜!とか心にもないこと言ってんのとはわけが違うからな。私が本気でだらけたらホームレスのおっさんなみの貫禄出るよ。魂がニートってそういう事なのよ。
悲しすぎる自虐をしながら、まぁせっかく提案してくれた事だし…と思い、じゃあそっちの方向で、と私はオフショットを飲む事にした。私にとってはオフがデフォルトみたいなもんだけど、世間からすればそうじゃないかもしれないと感じたからだ。
長年チャンピオンを務めたダンデが言うんだ、みんな私のプライベート情報を欲しているかもしれない。
確かに多くのガラル国民は、スタジアムで堂々勝利をおさめる強く美しく凛々しい私しか知らないはずなので、多少だらけたくらいがギャップ萌えを引き起こせるのかもしれないよね。まぁ多少のだらけじゃ済まないから嫌なんだけどね。0か100しかない悲しいニートであった。
そしたらホテルに戻ってリーグスタッフに写真撮ってもらうか…。ジェラートピケとか着ればまだ何とかなるだろ。
すでに自然体のオフショットを諦めている私が、取り繕う算段を立てていた時、ダンデがとんでもない事を言い出したので、私は高速で五度見を決めてしまうのだった。
「よし!そうと決まれば撮影タイムだ!」
「え?」
聞き慣れない単語に、私は我が耳を疑った。嬉々とした表情のダンデを見るに、どうやら幻聴ではなかったようだと察して、嫌な予感が募る。
撮影…タイム…とは?
私は戸惑い、そして宇宙猫の顔になる。
何、その不穏なタイム。まさかと思うけど今撮らないよね?ナウの話じゃないでしょ?
チャンピオン辞めてカメラマンに転向した疑惑のあるダンデは、でかいソファの上を片し、明らかに私を横たえようとしていたため、さっきから冷や汗が止まらない。さすがに元チャンピオンの前でニートを晒したくない私は、どうやって回避しようか必死に考えた。
おいマジか?なんで撮影タイムに入ろうとしてんだよ。チャンピオン辞めて暇になったからカメラでも始めたとか?そんなサブカルクソ野郎みたいなダンデさん見たくないって!もっと高みから私を見下ろす孤高の存在であってよ!
すでに充分バトルタワーからこちらを見下ろしていることを忘れ、親不孝な私は、逃げたいあまりいきなり親父が危篤だという電話が掛かってきてくれたらどんなにいいか…と本気で考える。私の尊厳のためにぶっ倒れてくれ父さん。それがあなたにできる唯一の子孝行だから。
しかし、親父は至って健康であった。私は爽やかに笑うダンデにソファに座るよう促され、成す術なく腰掛けると、スマホロトムまで預ける羽目になってしまった。無慈悲に機動されたカメラに、絶望の私が映し出される。
「普段通りにしてみてくれ」
できるか!
無茶振りをするダンデに、私は怒号を飛ばしかけた。
普段通りにしたらどうなると思ってんの!?そんなのできるわけないでしょ!プロニートを甘く見てもらっちゃ困るわ!
堕落を極めし私は、ダンデこと篠山紀信の要求に迷い、とりあえずソファに寝そべった。体が沈む快適な感覚に、この場で寝たい気持ちがピークに達したが、そんな事をしたら社会的に死ぬので、無表情で天井を凝視する他なかった。
は?てか何このソファ。人をダメにするとかいうレベルを越えてるんだけど。
思いもよらぬ伏兵に、私の心は掻き乱される。
やば。普段なんてものに座ってるんだダンデ。こんなソファに慣れちゃったら…この先何に座っても硬い地面に感じちゃうだろ!
ニトリ程度のソファしか知らない私にとって、この寝心地は脅威であった。全力でニートを誘発し、緊張で固まっていた肉体が徐々に解れていくのを感じる。
や、やばい…真のソファってこんなにすごいの…?マジでいかんぞ。だらだらしたさが極限に達してやがる。
ここに寝たままネトフリ見てぇ〜と欲望を目覚めさせる私は、頭の後ろで腕を組み、片膝を立ててベストポジションについた。あとはロトムにネトフリを機動させてもらったら完璧…というところで、我に帰る。
ヘイロトム!と呼ぼうとして、スマホが今どこにあるか思い出し、呆然とする。イケメンと合わせた視線がなかなか外せず、相手が笑顔を浮かべるまで、私は放心していた。
やべぇ。人をダメにするソファ、本当にダメ人間になるな。
一瞬ダンデの存在を完全に忘れるほど、私はソファに意識まで沈めていた。あんなにニート姿を見せられないと息巻いていたにも関わらず、秒でその誓いを破った自分が信じられなくて、このまま布の中に沈んでしまいたいくらいだ。
お前マジかよ。元チャンピオンの前でネトフリ見ようとしてんじゃねぇ。
無様な姿を晒したショックで、私はしばらく動けなかった。こいつ何の躊躇いもなく横になったな…と思われたかもしれず、実際その通りだから言葉が出ない。つれぇ。
私は、まだ体裁を保てている方だという自負があった。ニートにはなりたい、でもニートバレはしたくない…そんな思いが強いため、人前ではさも働いているかのようにチャンピオン業に務めていた。
しかし、現実はこのザマである。ダンデの前でだらつき、日夜フリーWi-FiでNetflix三昧…板についた私の堕落っぷりを見て、ダンデもさぞや呆れている事でしょう。
とてもつらい。よりによって前任の前でだらけチャンピオンを披露してしまうなんて。
何だかいろいろどうでもよくなった私は、どうぞご自由に撮影してちょうだいとダンデに視線を送った。もはやヤケであった。サンタフェでも何でも撮らせてやるよ。伝説の一枚をお前に託すわ。
思わず宮沢りえを憑依させる私だったが、ダンデは私の小慣れた堕落フォームに言及する事はなく、真剣な顔でファインダー越しにこちらを見ていた。まるで被写体に本気で向き合っているかのような表情は、再び私に緊張を走らせる。
「首の角度をもう少し右に…」
「え!?は、はい…」
は?そんなガチめに撮るの?
何がダンデに火をつけたのか、彼はあの決勝戦を彷彿とさせる本気の目つきで、私にそう指示した。まさかこんなに細かい指定をされるとは思わず、言われた通りに首を動かしてしまう。
いや適当に撮って終わりじゃねーの!?そこまでしなくていいって!何ならだらけた私をダンデが撮ったカードというだけでもはやレアだからな!?たとえブレてても価値高いから!こんなことに全力投球しないでよ!
だらけた姿を真剣に撮られるという辱めを受け、頭がおかしくなりそうだ。こうなるともう流れに身を任せるしかない私は、指示厨と化した元チャンプに従い続ける。
「右手は下げよう。足を組んだ方がいいかもな」
仰せのままに…の精神で、自暴自棄のニートはダンデにプロデュースされていく。私がソファに沈んでいる間にも、彼はスマホの奥から忙しなくこちらを覗き、次第に口頭では伝えられなくなったのか、横たわる私に近づいてきた。
「もっとこう…」
呟きながら、ダンデは私の右手を取って、位置をわずかにずらした。そんな微調整いる?と謎のプロ意識に困惑し、一体何がお前をそうさせるんだと震えるしかない。
たかだか私のレアカードのために捧ぐ熱量か!?チャンピオン辞めてから燻ってんじゃない!?
私とスマホを往復するダンデのガチ感に、いっそ心配になって相手を見つめた。何事にも全力投球なタイプなの?ニートとは真逆な性質だから何も理解できねぇよ。
とりあえず撮りまくるロトムを横目に、発散の場を失ってるなら今度トーナメントにダンデさんを招待しようかな…と気を回し始めたところで、いきなり相手に顔を覗き込まれた。突然のイケメンにびくつき、テンパりニートは加速する一方だ。
な、なに…どうした?私が美しすぎて思わず見入った…とか?
もちろんそんなわけはないので、伸ばされた手により、彼がとことん微調整に余念がない男である事を知らされる。
ソファの上に無造作に流れる私の髪を、ダンデは寄せたり引いたりしてベストポジションを探った。その繊細すぎる動きに、もはや1ミリも動くことができないと覚悟して息を止めた。
ど、どうしてそこまでこだわりを…!?もしかして後任チャンピオンを気遣ってくれてるのか!?久しぶりのニューチャンプ、初めてのレアカードは相応のものにしてやりたい、そんな親心があなたの中に存在するとでも…!?
責任感の強いダンデの献身により、ようやく私の心は入れ替えられた。ここまでしてくれたのだ、適当でいいなどと言っていた自分は封印し、真剣に取り組むべきだと感じたのである。
わかったよ篠山紀信、いやダンデ。あなたの思いに報いるため、私も本気で撮影…頑張るから。恥や体裁をかなぐり捨て、全力でだらけ切ってみせるわ。たとえチャンピオンの品位を失ってもね。それは守れよ。
息を殺してダンデを見つめながら、私はプロ、私はモデル…私は十八歳の宮沢りえ…と己に言い聞かせ、気持ちを作った。
すると空気が変わった事に気付いたのか、ダンデもそれに触発され、自然と距離が近くなる。そして私のこめかみを軽く押さえると、ほんの数ミリ顔を傾けた。黄金比が完成した瞬間が、私にもわかった。
「よし」
満足げに微笑んだダンデと目を合わせ、いやイケメン近ぇな、と私は危うく相手を押しのけかけた。全ての努力を無に帰す行動を寸前でとどめ、バグった距離感に目を見開く。
いやマジで近い近い近い近い。いつの間にこんなに近くなってた?イケメンが近いと速度制限かかるから私!なんていうか眩しいし!
被写体に成り切っていたせいで全く気付かなかったが、ダンデは私を覆うように覗き込んでいて、こんなになるまで実感できないほどのめり込んでいた自分に、何より一番驚かされた。このニートの私が被写体としての責務を全うしたのだ、労働に甘んじた事にいっそ屈辱さえ抱いてしまうレベルである。
恐ろしい男だ、ダンデ…私に無意識に労働を強いるパワーがある。これがチャンピオンの風格、絶対王者、無敵のダンデなんだね…!まぁ私には負けたけどな。すまん。
思いがけず正気に戻ってしまったが、あとはこのベストポジションにおさまった私をロトムが撮るのみである。もう一踏ん張りだと集中し、最後の瞬間に備えた。
無造作に投げ出された半身、長時間だらつくために首を支える腕、楽な姿勢を確保して立てた片膝、そしてスイッチオフの表情…まさにニートそのものだろう。本当に大丈夫かこれ。誰が欲しがるんだ?
正常な判断力を取り戻しかけた時、離れる直前でダンデが静かに口を開いた。普段は喪女力五億と名高い私も、さすがに何も感じずにはいられない状況であった。
「目は閉じてくれよ」
この距離でそんな事を言われたら、何だか違うシチュエーションみたいで動揺を隠せない。もしかしてこれ夢小説か?私が来たのバトルタワーじゃなくてピクシブだったんじゃない?
実際は無料ホームページサーバーナノである事はさておき、言われるまでもなく、私は太陽みたいに眩しいダンデを直視できなくて、光を避けるよう瞼を閉じた。陰キャは陽の気を感じるとたちまち弱る性質があるから、さらに脱力し、堕落に拍車をかける。瞼の先でダンデは数秒動かなかったけど、遠ざかっていく足音でようやくまともな距離が保たれたとわかった。
危なかった…ただのイケメンならまだ耐えられたかもしれないが、陽キャのイケメンに近付かれると蒸発するからなこっちは。己の生き汚なさを思い知らされるようでつらくなるのよ。ニートを辞めれば解決するなどという空気の読めない発言はお控えいただきたい。
生き様の違いに目の奥を熱くさせていると、嵐のようなシャッター音が止み、ダンデ監督からようやくカットの声がかかった。それは苦しみからの解放でもあった。
「うん!いい感じだ!」
オッケーが出た途端、私は即座に起き上がった。これ以上ここに寝てたら戻れなくなる、そう思ったからだ。
マジでやべぇソファだわこれ。カビゴンの次くらいに堕落を誘発する寝心地。職人の技が光る一級品だね。
名残惜しさを感じつつも、とりあえずメーカーだけ控えて私はソファと決別した。できればもう二度とここには来たくないけど、またとない体験をした記憶だけは持って帰ろうと思う。
さよならソファ、ニートの友よ…と勝手にお開きの気分になる私だったが、まだ終わっちゃいないので、やたらやる気に満ちていたダンデに近寄り、スマホロトムを返却してもらう。
「よく撮れてると思うんだが、どうだろう?」
そう言いながらダンデが見せてきた写真は、涅槃像の如き貫禄で寝そべるニートの姿であった。今にも入滅しかねぬ勢いに、弟子たちが説法を聴きに集まってきてしまいそうである。
やば。堕落極めたら宗教画みたいになってしまった。
いいのかこれで?と戸惑う私は、数枚の写真をスクロールし、俺はこっちの方がいいと思う、なんて言うダンデに苦笑を漏らすしかない。どっちでもいいわ別に。何が違うかわかんねーよ。
数撃ちゃ当たる戦法を取ったのか、ロトムは連写しまくったらしく、秒刻みでニート大仏の写真をカメラにおさめていた。時々ダンデが映り込んでおり、一枚ずつスクロールしていくと、まるで眠った私に覆い被さっているかのような写真も出てきて、さすがに二人して沈黙した。熱中しすぎてわからなかったが、側から見れば相当やばい光景である。
事案すぎる。こんなの流出したら互いに地位を失いかねないな。摩天楼でのオフィスラブ!バトルタワーの私物化!などという見出しで文春砲をブチかまされるに違いないよ。
さすがのダンデもやばいと思ったのか、少し照れたような声を出し、スマホから視線を露骨にそらした。
「これは…見せられたもんじゃないな…というか消してくれ!」
眉を下げて笑いながら、ダンデは困った顔で、まぁロトムは悪戯好きだし…と不届きなスマホを庇った。
優しい。私はここを出たら、撮っていい写真と悪い写真の区別くらいつくよね?とロトムに圧をかける予定だったが、さすが人格者は違うな。人柄がこんなところでも滲み出るよね。悪かったなドクズで。これがガラルニューチャンピオンだ、覚えてろよ。
まぁ今日はダンデに免じて許してやろう…と寛大な気持ちを抱き、消去を命じていると、ダンデは何だか含みのある言い方をして、私の首を傾げさせた。
「誤解されたら君が困るだろ」
いやお前も困るだろ。ニート相手に文春砲とか屈辱でしかないよね?
ダンデの品位を下げるわけにはいかないので、私はより力強く完全消去を命じた。私は別にいいよ、そのうちカントーにトンズラするし、そこまでダメージでかくないからな。
でもダンデはエターナルガラルスーパースターだから。私みたいなポッと出の女とはやっぱり全然違うわけだよ。いまだに根強い人気を誇り、どんな道を歩んでもガラルはダンデを応援している。そんなトップアスリートを破滅に追い込む真似はできないね。責任取れねぇよ、何故ならニートなので。
私は首を左右に振り、社交辞令ではない、そんな事ないですよ、を繰り出した。
「別に後ろめたい事なんかないし…困らないですよ」
でも良い仲だからチャンピオンになれたとかは言われたくないんで絶対に消すわ。それだけは譲れねぇから。実力でダンデに勝った事は未来永劫誤解されたくない案件だからよ。一応トレーナーとしてのプライドは微妙にあるレイコであった。
そんな私の潔さに胸打たれたのか、ダンデもしっかり頷くと、雑な応援で私を盛り立てるのだった。
「そうだな…堂々と頑張れ!チャンピオン!」
いやニートだから堂々は無理だわ。細々と清廉潔白に生きていくからよろしく頼む。
「でも写真は消しておいてくれよな!俺も恥ずかしいし!」
最後に念押ししたダンデは、やっぱり照れを抑えられないようだったので、熱中するのも程々にな…と私は苦笑した。ポケモンの事しか考えてないかと思いきや、意外とそういう感情もあると知り、写真は消すけど今日のことは心のアルバムにしまっておこう…と寒い事を考える私なのであった。
あと快適ソファの事も絶対忘れないから。家具買い替える時はくれ。