早くこれになりたい

BPがないと飯も食えない地獄のブルーベリー学園で、泳いでるポケモンや飛んでいるポケモンなんかを撮りまくっている私はレイコ。何故かリーグ部の部長をやらされる事になってしまった悲しきニートだ。

リーグ部、意外にやる事が、ある。
お飾りの部長でいいのかと思っていたが、謎の責任感と流されがちな性格のせいで諸々を引き受けてしまい、危うく青春を部活動に捧げる学生になっちまうところだったので、とにかく早く理由をつけてパルデアに帰りたい日々だった。そもそもイッシュなんて曰く付きの土地にいるだけでなんか電波狂いそうだしな、長居してたまるかって感じ。

まぁいいよ、とりあえず今は飯だ飯。BP稼ぎで僕は疲れたんだパトラッシュ…おかげで食堂のカロリーの暴力定食も食えそうなくらい腹が減ったわ…何なんだよ500メートル移動しろって…そのミッションをこなす事に何の意味があるんだよ…運動不足解消のためか?ありがとよ。
文句を言っててもしょうがない、BPがなければガチャを回せないというのならやるしかないんだ。とりあえず一回部室に戻って、頼まれてた特別講師の手配をしてから食堂に行こう。景気付けにガチャも十連やっとくか。だから貯まらねぇんだよBP。

部室の戸を開けると、珍しい事に閑散としていた。いつもは四天王が揃ってる事が多いが、今日はカキツバタしかいない。まぁ飯時だからそんなもんか。
カキツバタの前には大量の資料が積まれており、これを資料室に運びなさいよというタロの意思を私は察したが、当のカキツバタは我関せずの顔でだらついている。
羨ましい限りだ。私も人目など気にせずだらだらしたいよ本当は…でも世間体を気にせずに生きていられるほど強メンタルじゃないのよ私は…だから粛々とBPを集めて部員のために特別講師を呼び、友達とBP集めるからすぐ貯まるよ〜的な顔をしてひたすらにソロで走り続けるという、愚かな生き方をするしかないのよ…体裁に取り憑かれたニートだからね…。矛盾してないか?

「よぅキョーダイ。お疲れさん」

私の登場に気付いたカキツバタに手を振り、パソコンでなけなしのBPを特別講師招集に使用した。このBPがあれば道具プリンター六十連できるのにな…と考えていれば、その場から1ミリも動かないままカキツバタが絡んでくる。
さすがだ、無職の呼吸の使い手としてかなりの腕前と見た。この距離で動く事なく会話を成立させようとするとは…私も見習わないと…同じ家にいながら内線で家族と電話するみたいな、そういう自堕落さを身につけなくては真の無職とは言えないのかもしれない。

「その顔は2キロ走りましたってとこかい?」

20キロだ。舐めるなよ。

「部長は大変だねぃ…頭が下がるってもんよ」

嘘つけ。マジでこいつが部長の時どうやって成り立ってたんだこの部は。そりゃタロが口うるさくもなるわな。いつも助かってます!と私に言ってくれるあの言葉はお世辞かと思ってたけど、真実の心だったのかもしれない。それほどまでにカキツバタが何か作業をしているところを見た事がない。
マジで…羨ましすぎるだろ。こういう人間になりてぇよ私も。信じ難い話だけど、カキツバタに仕事をさせたいという気持ちは一切湧いてこないわけ。何故なら私がこうなりたいから。それが理想の姿だから。完成された勝利の無職だから。

「…まぁ私もずっとここにいるわけじゃないしね…今だけだと思えば何とか…」

苦笑気味に答え、道具プリンターで得たものを金になるものとならないものに仕分けし、ようやく食堂へ足を運べそうだ。飯食ったら授業に出なきゃならないしタロに頼まれてた事もあるし…やる事が…やる事が多い…!
金田一の犯人になりつつある私は、やる事が多いついでに積んである資料に目をやった。どう考えてもカキツバタは処理しない仕事だ。どうせ私か他の部員がやらされる事は目に見えている。

「それ」

資料を指を差すと、カキツバタは小首を傾げる。傾げるな。せめて心当たりある顔しろ。

「食堂行くから、ついでに運んどくよ」
「お、さすがチャンピオン様。そう言ってくれると思ってたぜぃ」

思ってたんかい。じゃあやめようかなぁ!カキツバタにはそのままサボり魔でいてほしい、しかし私は人にタダ働きさせられるのが本当に嫌、相反するこの感情…。私だって本当は働きたくない、今すぐこの資料の山をなぎ倒して暴飲暴食したい、でもできない…!何故なら世間体が気になるから…!俺は弱いニートだ…優しさを捨てる事ができない強く気高く美しいニートでしかないんだ…盛りすぎだろ。

「じゃ、オイラも飯にするかねぃ…一緒に学園ポテト食おうぜ」
「奢りならね」

軽口を叩きながら資料を持つと、想像より重くはなかったが、結構高さがあるのでギリギリ前が見える状態だった。分けて運んだ方がいいに違いないけど、往復するのは面倒、それがニートである。最小限の動きでどこまでいけるか、それを追求するのがニートなのである。
無職の美学と格闘しながらバランスを整えていると、見かねたヒラ部員がカキツバタに声をかけていた。

「先輩…手伝ってあげたら?」

至極真っ当なことを言われたカキツバタは私と目を合わせ、何だか意味深に微笑んでいる。そもそも手伝ってるのは私なんだが?とは言わずにおいた。

「そうだな…余計な仕事増やしてもいいってんなら…」
「大丈夫大丈夫、軽いから。ありがとう」

やりたくない事はよくわかったのでヒラ部員に礼を言い、呆れた溜息の聞こえる部室を後にした。タロみたいに強く正しく注意できるほどの人間性は持ち合わせていないので、私はカキツバタに苦言を呈せる立場になかった。何故ならニートだからだ。一切の仕事をしたくないニートだからだ。働きたくない奴に働けと言われて納得する奴がいるか?いねぇよ。働いてる奴に働けって言われても働きたくないのに。働けや。

別に資料室は遠くない、手伝ってもらうほどの手間はないのだから、カキツバタが手を貸さなくても特に気にしてはいなかった。それよりもまともな部長として見られる事の方が世間体重視ニートには重要なのであった。

「レイコ」

二歩ほど歩いたところで、カキツバタが資料タワーに手を置いた。思わず足を止めると、驚きの言葉が飛んでくる。

「半分貸してみな」
「えっ」
「ついでついで」

いつもの笑顔でそう言うと、半分と少しの資料を奪い取られた。その拍子にぶちまけたりする事もなく、余計な仕事を増やすどころか私の負担を減らし、そのままスタスタと歩き始める。世間体重視ニートは、完全に真逆の事しかしないカキツバタに半分感心し、そして半分呆れた。

マジで変な奴だなこいつ。何で今?さっき部室で手伝ってたら、ヒラ部員からの心象もよかっただろうに、なんでわざわざあ〜もう私のバカバカ!印象サイアクだよ〜!な行動をするんだ?ときメモアンチか?

「…最初から自分で持っていけばよかったのに…」
「冗談じゃねぇや、そんなとこ見せたら次から仕事押し付けられちまうだろ」

見せなくてもタロには押し付けられてるけどね。そして押し付けられてもやらないくせにね。
私が部員達に好印象を与えただけのイベントになってしまった事に、まぁそれならいいか…とそれ以上考えるのをやめた。私が嫌な仕事も率先して引き受けるいい奴って事になったなら…いいよ。有り難く便乗させてもらうわ。もしかしたらカキツバタは、私がリーグ部に馴染めるように振る舞ってくれてるのかもしれないし。考えすぎか。

「素直じゃないね」

しかし何となくいけ好かないので、私は自分の持っていた資料を、カキツバタに無断で押し付けた。あとで部員の皆に、カキツバタが手伝ってくれた事を告げ口しようと考えながら。